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王妃教育の謎から始まる溺愛 ~ 王子と婚約破棄?大歓迎です!  作者: 柚屋志宇
最終章 真実の愛

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68話 修道士ルシアン

「ルシアン様は立派な修道士になられたのですか?!」


 ロチルド子爵夫人が語った意外な話が、本当に意外すぎて、私は問い返しました。


「ええ、そうです。ルシアン様はとてもご立派でとても人気のある修道士です。ルシアン様の人気に目を付けた大手の商会が、還俗して広告塔にならないかという勧誘をしたそうですが、ルシアン様はそれをお断りになったとか」


 ロチルド子爵夫人の説明によると……。


 世紀の悪魔祓い師(エクソシスト)ヴァレリウス枢機卿の人気の影響で、最近、見目の良い男性聖職者が舞台俳優のように持て囃される風潮があるそうです。


 そこに目を付けた教会は、寄付金を集めるために、若く見目良い男性修道士を動員して、寄付金箱を持たせることにしたそうです。

 そして、若く見目良い修道士ルシアン様もその活動に動員されました。


「私もその話は小耳に挟んだことがございます」


 サンド男爵夫人が言いました。


「美貌の修道士がいるということで、彼に会うために、寄付に熱中している貴婦人たちがいるとか。その美貌の修道士がルシアン様のことかどうかは解りませんが」


「貴族なら、元王太子の顔は知っているのではないかしら?」


「知っているからこそ、修道士の名前は伏せて噂していたのかもしれません」

「そうね。彼は、旧王朝の最後の王子。新王朝の王宮ではちょっと名前を出しにくい人物よね」


 皆様が憶測を語る中、ロチルド子爵夫人はさらに説明しました。


「ルシアン様は美貌はもちろんのことですが、やんごとないお育ちでいらっしゃいます。平民出身の修道士たちに比べて気品があり、華もあるため、あっという間に大人気になったそうです」


 ルシアン様は王子としてお育ちですので、平民とは雰囲気が違っていることでしょう。

 注目されることに慣れていらっしゃいますし、何よりご本人が注目されて持て囃されることをお好みですので、そういった役はお上手かもしれません。


 でも悪魔王子のあだ名で市井では忌避されていたはずのルシアン様が、どうして人気になったのでしょう?


「ルシアン様は悪魔憑きの悪魔王子として、市井では恐れられていたと聞いておりますが?」


「それが、その話も悲劇の物語に変化したようで……」


 ロチルド子爵夫人は楽しそうに笑いました。

 かつて前王妃様のことを憎々し気に語っていらしたロチルド子爵夫人が、今はルシアン様のことを朗らかな笑顔で語っています。


「ルシアン様の悪魔憑きだった過去は、今や、ヴァレリウス猊下とルシアン様が邂逅した特別な逸話として持て囃されているのです」


「悪魔憑きだった者が、どうして持て囃されるのですか?」

「哀れまれるなら解りますが……?」


 他の皆様も釈然としない表情で首を傾げました。

 ロチルド子爵夫人は笑顔で皆様の疑問に答えました。


「ルシアン様は、悪魔と契約していた両親に虐待され、悪魔憑きにされた悲劇の王子と解釈されているのです。悪魔に汚された悲劇の王子が、ヴァレリウス猊下によって救われ、今は神に奉仕しているという物語が一層の人気を呼んでいるのです」


 その話には真実が含まれていると言えます。

 あの元王妃様と元国王陛下が両親でなかったら、ルシアン様には別の生き方があったと思いますもの。


「修道士ルシアン様の物語は舞台化されるそうですわ」

「そ、そうなのですか?!」

「ヴァレリウス猊下が悪魔王子と対決するシーンは広場の舞台で人気を博しておりましたが、あれをルシアン様を主人公として、悪魔に憑かれた悲劇の王子が信仰によって救済される物語にするようです」


「舞台化されるほど人気があるのですね」


「ええ、とても人気がおありです。私たちが主催したバザーも、彼が支援に来てくれたおかげで売り上げが倍増いたしました。ルシアン様があまりに人気なので、教会はルシアン様が歌う聖歌が聴ける特別礼拝も行っています。その特別礼拝はとても人気が高く、礼拝堂の席が劇場の席のように高額で売買されているとか。もちろん寄付という形ですけれど」


 私はこの意外な話に興味が湧いて、ロチルド子爵夫人にお願いしました。


「ルシアン様の特別礼拝の様子を見に行くことは可能でしょうか?」

「ご案内はできますが……」


 ロチルド子爵夫人は少し面白そうに笑いました。


「ルシアン様はフェリシア殿下の元婚約者。お会いに行かれてもよろしいのですか? ユベール殿下が嫉妬なさらないかしら?」



 ◆



「ルシアン様の特別礼拝には、貴族のご婦人方も参加なさっているんですって」


 私はロチルド子爵夫人から聞いた話をユベール様に話しました。

 ユベール様もこの話は初耳だったそうです。


「ご存知の方々もいらしたはずなのに、皆様、私には黙っていたのね……」

「それはそうでしょう。ルシアンはフェリシアの元婚約者です。新婚の私たちに、新妻の元婚約者の話題を出すことは憚られるでしょう」

「それもそうですね」


「フェリシアが気になるなら調べてみましょうか?」

「お願いします。できればルシアン様の特別礼拝とやらを一度見てみたいのです」



 ◆



 修道士ルシアンの活動についてユベール様が調査をしてくださいました。


「修道士ルシアンが聖歌を歌う礼拝は人気が高く、一介の修道士ながら、あちこちの教会に呼ばれて聖歌を歌っているようです」

「まあ!」

「ついに大聖堂も修道士ルシアンの人気を無視できなくなり、来月、大聖堂は彼を呼んで特別礼拝を行うそうです」

「大聖堂で?!」


 ルシアン様の悪魔祓いが行われ、新国王陛下の戴冠式が行われ、私たちが婚礼の式をあげた、歴史ある荘厳な大聖堂で?

 ルシアン様が聖歌を歌う?


「信者たちの強い要望によるものだとか。多数の要望が寄せられたため大聖堂も動いたようです」


「ルシアン様の礼拝を何とか見に行けないでしょうか」


 私がそうお願いをすると、ユベール様はにっこりと微笑みました。


「フェリシアが見たいのであれば手配しましょう」


 そう言った後、ユベール様は少し不味そうに眉を歪めました。


「私も興味があるので一緒に行きます。貴族の中にも彼に心酔している者たちがいるようなので……」



 ◆



 ユベール様が大聖堂に寄付をして、特別礼拝の整理券を手に入れてくださいました。


「礼拝に参加するのに整理券が必要ということに、まず驚きましたが……。使いの者の話では、値段もなかなかのものだったようです」

「人気が高いのですね」

「皆が強く求めるものは値が張りますからね」



 ◆



 特別礼拝の当日、私とユベール様はお忍びで、身をやつし変装をして大聖堂の特別礼拝に参加ました。


「大変な人出ですわね」


 大聖堂には大勢の人々が集まっていました。

 席が確保できなかったのか、大聖堂の外にも信者たちが大勢集まりたむろしています。

 信者たちはほとんどが女性でした。

 彼女たちはあちこちで数人ずつに固まって興奮気味におしゃべりをしています。


「ルー様が大聖堂でお歌いになるなんて! 感無量です!」

「ついにここまで来たのね!」

「これぞ聖地巡礼よ!」

「ヴァレリウス猊下がルー様を救ったこの聖地で、ルー様が神の愛を歌うなんて! 今日はきっと伝説の日になるわ!」

「伝説を見届けなければ!」


(ルー様ってルシアン様のことよね。本当にすごい人気なのね)


 大聖堂の中は満員で人が溢れ返っていました。

 当然、席は全て埋まっていて、席の数より多くの整理券が出ているのか通路にも人が溢れています。


 皆、礼拝を心待ちにしているようで高揚している様子でした。


 信者の中には身なりの良い貴族らしき女性たちも多く、見たことのある顔もちらほらあります。


「人気だとは聞いていましたが、これがみんなルシアン様の歌を聴きに来た信者たちだなんて……。凄いですね」


 私が驚きを口にすると、ユベール様は不味そうな顔で頷きました。


「女性ばかりですね……。肩身が狭いです」

「ルシアン様は学院でも女子生徒に人気でいらしたものね」

「王太子としては不人気で政策会議から追い出された彼が、修道士としてこれほどの人気を博して大聖堂に召喚されるとは。不思議なものです」


 私とユベール様は、聖所の壁際に沿って歩き、なるべく祭壇がよく見える位置まで進みました。

 集まっている信者たちは大半が女性なので、男性のユベール様がその中に入ると背の高さが目立ってしまうため、壁際に陣取りました。


 大混雑している聖所で、私たちは特別礼拝の開始を待ちました。


 ――リン、ゴオォォン……。


 大鐘楼の鐘が、時を知らせる音を鳴り響かせました。


「……!」


 それまでおしゃべりをしていた人々は、一斉に口をつぐみました。


 ――カラーン、コローン。


 聖所の祭壇近くにいる聖職者が、手持ちの鐘を鳴らして礼拝の開始を知らせました。


(いよいよだわ)


 聖所の奥の扉から聖職者たちが出て来ました。


 先導の聖職者が、鎖で吊り下げられた香炉を振っています。

 香炉から浄化の香の煙が振りまかれ、すっとした香りが聖所に漂いました。


 先導の聖職者たちの後に続いて、司教冠をかぶった司教が祭壇を目指して歩き、そして、ステンドグラスの光が差し込む祭壇の前にある説教壇に上りました。


「光の子らよ、今日も神の御前に集えたこの奇跡に感謝を捧げましょう」


 司教の朗々とした声が聖所に響きました。

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