30話 黒百合の会(1)
「フェリシアさん、素晴らしいアイディアよ」
私はユベール様と一緒に、ユベール様の母ヴェルニエ公爵夫人にお会いしました。
私が思い付きを説明すると、ヴェルニエ公爵夫人は目を輝かせました。
「そのアイディアを採用させていただくわ!」
「噂として広めてくださるのですか?」
「そうよ」
ヴェルニエ公爵夫人は暗い微笑を浮かべました。
「早速、黒百合の会の同志たちを招集しましょう」
(黒百合の会?)
黒百合の花言葉は『復讐』です。
何やら恐ろしい名の会ですが、何となく予想がつきました。
「その黒百合の会というのは、もしや、王妃様の被害者の会でしょうか」
「そうよ。フェリシアさんと同じく王妃様に思うところがあり、王妃様を引きずり下ろしたいと願っている皆様よ」
ヴェルニエ公爵夫人は嬉々とした笑顔で堂々と望みを口にしました。
「ついに時が来たのよ!」
◆
ヴェルニエ公爵夫人が主催する黒百合の会。
その会員たちが集うお茶会がヴェルニエ公爵邸で開かれ、私も招かれました。
貴婦人たちのお茶会ですのでユベール様は招待されていません。
「皆様、ご紹介いたします。こちらは私の息子ユベールの婚約者、モンフォール公爵のご令嬢フェリシアさんです」
ヴェルニエ公爵夫人は、黒百合の会の皆様に私を紹介してくださいました。
お茶会の会場となったヴェルニエ公爵邸の居間には、一見すると統一感のない様々な身分の貴婦人たちが集まっていました。
さすがに学生は私だけでしたが、二十代くらいの若々しい貴婦人から髪に白いものが混じっている貴婦人まで幅広い年代の方がいらっしゃいました。
茶会服のグレードも様々で、高位のお方から下位お方までいらしていることが見てとれます。
(王妃様の被害者がこんなにいらしたなんて……)
あまりに幅広い方々が集っていらっしゃって驚きました。
「モンフォール公爵の娘フェリシア・モンフォールです。皆様どうぞよしなに」
私が挨拶をすると、皆様は拍手で迎えてくださいました。
「フェリシアさんに会えることを楽しみにしておりました」
「あの王妃様に王妃教育を受けて、何があったのか、ぜひともお話を聞かせていただきたいわ」
皆様は猛禽類のように目を爛々と輝かせ、私に詰め寄りました。
「王妃教育で、王妃様から何かをお教えいただいたことは一度もありません。ただ課題を渡されるばかりで……」
王妃教育の真実を私は語りました。
「ある日、王妃様が私が書いた課題の答えを流用していたことに気付いたのです。王妃様とルシアン殿下のご聡明の理由が、私が提出した課題の回答そのままだったのです」
私が語った内容に、皆様はさもありなんと頷かれました。
「やっぱりそうだったのね。おかしいと思っていたのよ」
「誰かが台本を書いているとは思っていたの」
「もう王妃様の周りにはろくな侍女がいないから、一体誰が台本を書いているのか不思議だったのよ」
「それでフェリシア様は王妃教育を欠席なさることにしたのね」
「くやしいこと」
皆様が我がことのようにくやしがってくださいましたので、私が一矢報いた件もお話しました。
「実は少し仕返しをしてやったのです。課題の回答を作らずに、王妃様に『教えてくださいませぇー』とお願いして、王妃様にしつこく教えを乞いました。『解らないんですかぁ』と挑発もしました。しばらく挑発してやると、王妃様は逃げ出しましたわ」
私が王妃様に反撃をした一件を語ると、皆様は扇の下で爆笑なさいました。
「フェリシア様はなんてお強いのでしょう!」
「さすがは公爵令嬢ですわ!」
「なんて爽快なお話なのかしら!」
皆様は口々に私を褒めてくださいました。
初めてお話する方々ばかりで、中には高貴なお方もいらっしゃいました。
王妹殿下とか。
国王陛下の伯母君や従姉妹君とか。
ですが王妃様の話題で、私たちは年齢も身分も超越してすぐに打ち解けました。
「あの女に何回ドレスを真似されたことか」
王妃様は、王族の女性たちのドレスのデザインも盗んでいらしたようです。
驚きの所業でした。
黒百合の『復讐』という花言葉は和製で、西洋ではわりと明るい花言葉です。
作中世界では黒百合の花言葉は復讐になっているというファンタジーです。




