29話 フェリシアの思い付き
――学院のお昼休み。
私はいつものようにユベール様と一緒に、学院の食堂で昼食を摂ると、カフェテラスへ行きました。
「ユベール様とおしゃべりできるのは嬉しいですが、お勉強は大丈夫ですの?」
私はユベール様に尋ねました。
ユベール様はご両親から、学年首席の座を取り返すようにと言われています。
お昼休憩の時間に、お勉強をしなくても良いのか気になりました。
「マルク・セルネ様はお食事の時間もお勉強なさっていたようですが……」
前回の試験で首席だった男爵令息マルク・セルネ様を食堂でお見かけしました。
マルク様は昼食を摂りながら教本を読んでガリガリお勉強をしていらっしゃいました。
食事をしながら本を読むことはお行儀が悪いことですが、マルク様はなりふりかまわずお勉強なさっているようです。
「フェリシア嬢、大丈夫ですよ」
ユベール様はゆったりとカフェを飲みながら微笑みました。
「家庭教師たちが試験問題の予想をしてスケジュールを組んでくれています。家での学習で充分です」
「試験問題の予想ができるのですか?」
試験問題の大半は授業を聞いていれば出来ます。
ですが予想できない部分があり、成績上位者はその予想できない部分でしのぎを削っています。
「一学年の最初の試験でフェリシア嬢に負けたとき、私はすぐに両親に頼んでフェリシア嬢に勝つための体制を整えたのです」
ユベール様は朗らかに微笑みながら言いました。
「各分野の学者はもちろん、学院の講師だった経歴のある者も家庭教師として雇っております。現在の学院の講師の師匠だった学者も探し出して雇い入れました。彼らが次の試験問題を予測し、模擬の試験問題を何種類か作成してくれます」
「そんな人材を集めていらっしゃるなんて。さすがはヴェルニエ公爵家ですね」
ヴェルニエ公爵夫人は、令嬢時代には学院で何度も首席を取っていらっしゃったという才媛。
ヴェルニエ公爵もご優秀で、大学まで進学された学者貴族でいらっしゃいます。
それゆえヴェルニエ公爵夫妻は学界に人脈を持っていらっしゃいます。
一方、私の両親モンフォール公爵夫妻は、学院時代の成績はぱっとしなかったようです。
もちろん両親とも大学には行っていません。
それゆえ私の両親には学者の人脈が無いのです。
「我が家の両親ではそんな人材は集められませんわ」
「私の成績は家庭教師たちの力によるところが大きいですが、フェリシア嬢は自主学習だけで首席を取ってしまうから凄い。とてもかないません」
「あれは、たまたま知っていたことが出題されただけです」
「大学レベルの知識をたまたま知っていることこそが努力なさっている証でしょう。フェリシア嬢の並々ならぬ努力に敬意を表します」
「たしかに努力には違いありませんが……。あれは必要にせまられて仕方なくやっていたことです。王妃教育の課題をこなすために」
「おいたわしい……」
「ところでユベール様、話は変わりますが」
私は気になっていることをユベール様に訊いてみることにしました。
ユベール様に話せば、何か助力をしてくださるかもしれないという期待ももちろんあってのことです。
だってユベール様はとっても頼りになる婚約者なのですもの。
「ルシアン殿下は本当に悪魔祓いをすると思いますか?」
ルシアン殿下は私のことを悪魔憑きだと言い、悪魔祓いをすると言っていました。
「さあ?」
ユベール様は困ったような顔で笑いました。
「フェリシア嬢が気になっていらっしゃるなら探りを入れてみましょうか?」
「できるのですか?」
「人を使って探らせます」
「そうしていただけると嬉しいです」
「お任せください」
ユベール様は快く引き受けてくださいました。
やっぱり頼りになります。
「実は悪魔祓いについて、少し考えていることがあって……」
私は思い付きの案をユベール様に語りました。
私の思い付きを聞いたユベール様は、面白そうに笑い始めました。
「それは面白い。フェリシア嬢は大変なユーモアをお持ちですね。さすがです」
半分冗談のような思い付きだったのですが。
ユベール様は私のそのアイディアを手放しで褒めてくださいました。
「フェリシア嬢、そういうことなら私の母に協力してもらいましょう」
「ヴェルニエ公爵夫人に?」
「はい」
ユベール様は楽しそうに、そして不敵に、ニヤリと笑いました。
「恥ずかしながら、私の母は王家の悪口を言うことが大好きなのです。母は大喜びで協力してくれると思います」




