表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/79

悪縁との邂逅 1

 サザンガードに入った二人は、まず宿を取った。張り詰めた緊張が一気に解け、アルベルトが荷を降ろすと、ユリアーナが抱きついてきた。


「な、なぁ! 大丈夫なのか? あれって大丈夫なやつか?」


「よく頑張った。もう……大丈夫だろう」


 言い切らないアルベルトに、ユリアーナは顔を上げたが、ほっとしているその穏やかな顔に息を吐いた。


「ほーーっ……殺されると思った」


「実際、危なかった……まさかガルフェウス殿が出てくるとは」


「知り合い?」


「いや……イシャバームの間諜としてレークイスに入った、イルシャム様の元従者だ」


「え? 何であそこにいたの?」


「分からん。だが、寝返った……と見るべきだろうな」


「それってヤバいんじゃないのか? だって僕、あの女男に買われることになってんだろ?」


「あぁ。だが――見逃された。単にアルシャバーシャ様との繋ぎとして見逃されたのかもしれんが」


「えぇぇ……それってまた僕たち、あの女男に会わないと駄目ってこと?」


「報告はせねばならん。だが会いに行くつもりはない」


 そう言ったアルベルトの顔は、不安や恐怖ではなく、何かを訝しむ顔だった。これ以上は聞いても理解できないし、アルベルトも説明しないだろうと、ユリアーナは布団に腰を下ろした。


「あ……ふっ」


 しぱしぱと瞬きをするユリアーナ。アルベルトは部屋の浴室にシャワーがあるのを確認して声をかけた。


「ユリアーナ。シャワーがある、汚れを……」


 浴室から顔を出したアルベルトは、床に板を一枚敷いて、その上に敷かれただけのベッドに倒れるようにして眠っていた。


「強行したからな……それに、本当によく耐えた」


 眠るユリアーナのブーツとポンチョなどを脱がせ、下着姿のまま上掛け布団を被せてやった。


 布団を被せた胸元に、ポン、と手を置きそうになって、アルベルトの手が止まった。


 ほんの少し、守ってやりたいと思った。

 けれど、それ以上は分からなかった。


 娘……父親。

 どんな触れ合いが、どこまでが自然なのか。


 死んだ娘にしてやれたのは、たった数回の抱擁だけ。

 その先は知らない。


 だから今、何をすればいいかも分からない。

 何が“してやりたい”ことなのかも分からない。


……まずは、弟子として育てるべきか。


だが今日一日位は、ゆっくりと休もう……明日からはまた別だろうからな。



 そうアルベルトは納得すると、浴室に向かった。




   * * *


 翌日、夕方近くまで寝ていた二人は、宿屋で料理を注文し、部屋でその日初めての食事をしていた。


「んぐっ、むぐっ、ぷはっ! で? ごくっごくっ」


「……お前に記憶という物は無いのか」


「え? ……むしゃむしゃっ、ごくっ」


 頬をパンパンに膨らませ、口元や手元はベタベタ。食べカスが辺りに散乱している。アルベルトは溜息を吐きながら、ナプキンをユリアーナの手元に投げた。


「…今のお前では、商売相手の前になど永遠に出せないぞ」


 その言葉にユリアーナはポカンとした顔をしたが、イシャバームにて「マナーがなっていなければ連れては行けない」と言われたことを思い出し、慌てて口の中の物を飲み込んだ。


「わっ、分かってる!」


 そして口元、手元を拭ってテーブルを拭くと、それを畳み、そっと端に寄せた。


「……はぁ……」


 溜息ひとつにユリアーナはビクリと震えて、上目遣いでアルベルトを見た。そんなユリアーナに、自然と手が頭に向かう。


「そうだ。食い方は、そいつの為人、過去、関わってきた者が表れる……ちゃんと気付けたな」


 まるで犬畜生を可愛がっている気分だ。

 だが、まぁ……こうやって育っていくのだろう。

 俺たちは。




▶︎次話 悪縁との邂逅 2




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ