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悪縁との邂逅 2


 他民族国家のサザンガードは人々の流入を是としている為、誰がサザンガードの人間か判断するのは困難だった。


誰に見られているとも分からない場所を、アルベルト達は若干の緊張感を抱きながらレークイスの関所へと歩いていた。


『いいか、喚き散らさなくていい。ただ不貞腐れて黙っていろ。万が一誰かに話しかけられた時は下を向くか背を向けて瞳を見られぬ様にしろ』


宿を出る前にそう言い含められたユリアーナは、黙ってアルベルトの足元をフードの陰から見ていた。


フリオリで感じていた高揚感はいつの間にか消えていて、ユリアーナ自身の現実として『狙われる』のだと身慄いした。


「おいっ! そこのっ!」


人混みに紛れて声がする。しかしアルベルトは振り向きもせず真っ直ぐに関所を目指していた。


「おいっ‼︎」


急に掴まれた肩に驚き、アルベルトはユリアーナを繋いでいる紐をぐるりとその人物の手首に巻き付けて、その勢いのまま手前に引き付け、地面に引き倒した。


「……何だお前は……俺に何の用だ」


兵士を辞めてからアルベルトは護衛や傭兵をしていた時期があった。だが私情に任せた殺人や、強盗を強要する雇人は多く、ただでさえお尋ね者としてエルセンティア人は目を付けられているのに、これ以上は無理だと剣を置いた。


しかし、身に付けた物は何一つ無駄では無かった。


「ぐっ! お、おいっ! 俺だっ! ミーセスだっ!」


膝で押さえ込まれたミーセスと名乗った人物は、苦し気にアルベルトを見上げ、手をヒラヒラと揺らした。


「……ミーセス・ガラムハット……団長?」


「そうだよっ! 足をどかせっ」


よろよろと立ち上がったのは、緩くカーブした金髪に、紫掛かった青い瞳を細くした男だった。


「よ、よぉ。元気だったかぁ? あれから何年だ?」


 

 


女好きする人当たりの良さそうなミーセスは、汚れた服を叩きながらアルベルトの肩を抱き寄せ、茶でも飲もうと人の少ない店に強引に連れ込んだ。


「団長も……相変わらずだな」


ユリアーナを隣のテーブルの椅子に座らせ、アルベルト達は腰を下ろして茶と酒を煽る。


そしてミーセスの首から下げられた物に、アルベルトは溜息を溢した。


「結局あんたもヴァジャ(人買い)に堕ちたんだな」


 

人買い。


いくら世界が人身売買を合法化しようとも、人々にとって彼等は忌み嫌う人種で、アルベルトの様に自戒としてそれを表に出す者はいなかった。だが、ミーセスの胸元にはアルベルト同様に人買いの証であるペンダントがあった。


「まぁな! 国は無くなり、寄る辺も失って、士官も出来ないとなりゃなぁー。盗賊になるか金持ちババアに弄ばれるイェンカ(愛人)になるしかねーだろ」


昔からこの男を好きにはなれなかった。


上官で貴族でなければ従いはしなかっただろう。

こんな所でまた会う事となるとはな……裏切りミーセス。


アルベルトはカッフェンという薬草と果実の種を炒って煮出した茶を啜りながら、無意識に太腿の傷を摩っていた。

 

「団長の家族はどうした……」


「死んだ死んだ! 奥さんも子供もみーんな死んだよ」


「……そうか」


「お前ん所もだろ? お前が逃げた後大変だったんだぞ? 敵に囲まれるわ山程死骸を片付けさせられるわでよー」


アルベルトはミーセスがどういう男なのか分かっていた。だが、吐き出される一つ一つの言葉がアルベルトの忍耐を削って行く。


「でもさー……今が1番良いよ。あぁ、生きてるって感じでさ」

 

カラカラと笑いながらミーセスは酒を煽る。

元は貴族。他国に蓄えの一つもあるのだろう。


彼の身なりは平民よりも良い物を着ていてスッキリとしている。そして人買いならば必然的に荷が増えるというのに、彼は身軽だった。



「で、お前何してんの今?」



彼は楽しそうにアルベルトとユリアーナを交互に見て笑った。





▶︎次話 真理はどこか



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