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グラン&グルメ~器用貧乏な転生勇者が始める辺境スローライフ~  作者: えりまし圭多
第十三章

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Glorious

誤字報告、感想、ブックマーク、評価、いいね、ありがとうございます。

「わたくし……おそらく後三年と半分ほど、長くても五年くらいでしょう――来年より始まる学生生活が終わると、隣国に嫁ぐことになっておりますの。そうなるともうユーラティアに戻ってくることもほとんど無くなるでしょう。でもまだ後三年、そしてその三年が過ぎ今よりも更に遠く離れてしまってもキルシェとはずっと友達でいたいですわ。これからもずっと、大人になった後も友達でいて――たとえ会うことができなくても手紙だけは……」


「もちろんです……! 僕とセレちゃんは身分が全然違うのもわかってます、僕からこういうことを言える立場ではないのもわかってます、それでも僕はセレちゃんと友達でいたいです。セレちゃんが許してくれるなら、これからもずっと――」


「もちろんです。どんなに綺麗で理想的な言葉を並べたとしても、現実は身分の壁を越えるなんて軽々しく言えないことは理解しておりますが――それでも願うこと、希望を持つことは自由だと思いますの。そして今日という日の想い出は、その願いを持ち続けるための支えになると思っております――って、小難しく考えるのはやはり苦手ですわ! わたくし、これからもキルシェとずっと友達ですわ! 時が過ぎても、大人になっても、遠くへいっても、ずっとずっと友達ですわ! また絶対に手紙を書きますわ!」


「はい! 絶対に手紙を書きます! そしていつか僕が行商人として一人前になった時は、セレちゃんの国にも必ずいきます。セレちゃんが見ている景色を僕も見るために」



 アオハルだなぁ……だが、それがいい。

 大人目線ならちょっとくすぐったくなるような、微笑ましくなるような、でも羨ましいような。

 しかし現実は、時の流れは、変わりゆく環境は、そして日々の忙しさは――忘却と飽きという寂しい結末。


 最初はすぐに返していた返事もだんだんと先送りにするようなり、こまめに取っていた連絡はいつしか間隔が長くなりどちらが最後だったかすら記憶に残らないうちに途絶える。

 ある日ふと思い出して補正された美しい想い出に浸るけれど、それ以上は踏み出せない。踏み出す勇気を持てなくなってしまって。


 あれだけ仲が良かったのに連絡を途切れさせてしまった気まずさ。

 自分にあの頃の情熱が残っていないように、相手もきっと。もしかしたら、存在すら忘れられているかもしれない。今でもこうやって思い出すのは自分だけではないかと。

 いや、覚えていたとしても長い時を空け今さら連絡をしても迷惑になるかもしれない。困惑をさせるかもしれない。

 何より今さら何を話していいのかわからない。


 俺の想い出の中にある残酷な現実が、希望に満ちあふれた彼女達の会話を微笑ましい気持ちで見守る俺に水を差す。

 たとえ結末がそうであっても、彼女達の今の気持ちは本物だから邪魔をするんじゃねぇ。

 前世の記憶というのものは、時に雑音にもなる。



 たくさん食べてお腹いっぱいになって、バーベキュー実習もそろそろ終了。

 片付けもほぼ終わって、キルシェとセレちゃんは砂浜に並んで座って海を見ながら話している。

 その二人の背中を見守る、俺達大人組。


 日が西に大きく傾き、赤みの強い光を反射した海面がギラギラと輝いている。

 夕焼けの時間にはまだ早い。

 だが潮が満ち始め、だんだんと波の先端がせり上がり狭くなっていく白い海岸は、彼女達の残り時間を示しているよう。

 寂しさと名残惜しさが気まずい沈黙となって周囲の空気を支配しようとした時、意を決したような表情で口を開いたのセレちゃんだった。


 彼女はちゃんと理解している。

 たくさんやりたいことがあって、決められた未来とは違う未来を望んだとしても、現実はそれが許されないことを。

 それが貴族だということを。

 身分が高ければ高いほど、ささいな夢すら諦めないといけないということを。


 それに応えるキルシェもまた、平民と貴族の間にある壁を理解している。

 自分がどんなに望もうとも、自分が望んだだけでは決して近付くことができない相手。

 いや、お互いが望んだとしても周囲がそれを認めなければ近付くことはできない。

 相手の身分の高さに比例して、その壁は高くなる。


 彼女達はそれを理解したうえで、それでも僅かな可能性を信じて、未来の約束を交わしている。

 僅かな可能性を諦めないという、若さ故の甘さと眩しさ。


 それを甘酸っぱいものを口に含んだような気分で見守る俺は、彼女達が羨ましい。そして不安。

 彼女達の未来は、俺とアベルの未来を連想させるから。

 ずっと見て見ぬふりをして、ずっと先送りにして、今というぬるま湯に浸り続けている。


 たくさんの別れを知っている俺は、別れが大っ嫌いだから。

 いつかくるとわかっていても、その時がくることにいつも怯えているから。

 楽しい時間はいつまでも続いて欲しいと思っているから。


 セレちゃんから垣間見る、アベルやセレちゃんの実家の階級の高さ。

 それはきっとリリーさんの実家であるプルミリエ侯爵家よりも上。

 侯爵よりも上といえば、公爵そして――。


 貴族の中では下級扱いである男爵や子爵でさえ、平民から見れば決して逆らえぬ特権階級。

 侯爵といえば更にその上の上で、もはや雲の上の存在みたいなもの。リリーさんとは仲良くさせてもらっているが、偶然が積み重なってできた縁のお陰である。

 そして更にその上の公爵といえば、王家から枝別れした家門である。

 つまりアベルは――。


 金髪に金眼、それがユーラティア王家の象徴だといわれている。

 ユーラティア王国の王家は、その竜の加護が金色という色になって現れるのだという話がある。

 故に王家直系に近い者ほどその金色は輝かしい。

 たとえばセレちゃんやリオ君、そして白銀さんのような眩しい金髪に金眼。


 アベル本人の話によるとアベルは末端貴族の妾の子らしいが、知り合って間もない頃アベルの周りにはアベルを見守る者がいたことを考えると、確実に高階級の家門であることはなんとなく予想はしていた。

 嘘をつく時は、真実を混ぜた方がそれっぽく自分も演じやすいとはよくいう。

 アベルの嘘もそれ。

 実家が末端貴族というのは明らかに嘘。でも妾の子というのは本当かもしれない。

 だから俺が見たアベルの兄弟の中でアベルだけが銀髪。

 高位家門の子息でありながら、子供の頃に家を出て冒険者となったり、怪しい者にも付き纏われていたりしたことを思うと、俺が想像する以上に複雑な家庭の事情があるのかもしれない。


 セレちゃんやリオ君、白銀さんの色を思い出すと心がグラリとするような気がするのだが、アベルの銀髪を見ると少しだけ安心する。

 本当はすごく遠い存在のはずだけれど、少しだけ近くのような気もするから。その距離を気付かないふりをすることができるから。

 長い歴史を持つユーラティアでは、どこかで王家の血を引く者と婚姻関係を結んでいる家門は非常に多い。もちろん記録に残っていない子も存在するだろう。

 プルミリエ侯爵家だって数代前にユーラティア王家のお姫様が嫁入りをしており、リリーさんも王家の血が混ざっているということになる。


 王家の色だからといって、直系とは限らない。血を引いているものなら数え切れないくらい存在する。

 直系に近いほど煌びやかな金だといわれているが、時には遠縁でも直系のような色の者がいるとも聞く。


 だったら目だけキンキラキンで頭ギンギラギンのアベルは――と、自分を納得させる。

 いつかをできるだけ先延ばしにするために。

 知らないふりをしておけば、まだまだこの時間を続けることができるから。


 俺にはキルシェやセレちゃんのように、身分の壁とその先に待つ未来を受け入れる勇気がまだない。だから眩しい。

 彼女達の未来予想が甘く青いものであっても。

 俺はその甘く青い未来予想図からも目を逸らし続けている臆病者。


 俺の隣にいるアベルが身動ぎをした気配がして、それに勝手にホッとするくらいに臆病。

 アベルもきっと俺と同じくらい臆病だと思えた安心感。


 俺達が臆病である限り、まだ友達の時間は続いていく。



「あっ!」

「ひやっ!」


 気がつけば波打ち際が浜辺に並んで座るキルシェとセレちゃんの目の前まで迫っており、打ち寄せた波が彼女達のつま先にぶつかり靴を濡らしながら小さな飛沫を上げた。

 響いた少女達の声が、名残惜しい時間の終わりの合図。


「じゃあ俺が、むかーしむかーし教えてもらったおまじないを教えよう。約束を違えないためのおまじないを――こうやってお互いに小指と小指を絡めて。キルシェとセレちゃんが、ずっとずっと友達でいるという約束が違えることがないように願いながら指を離すんだ」


 このままだと波を被るまで動かなさそうな二人に後ろから声をかけ、前世の記憶にあるおまじないを自分の左右の小指で手本を示しながら教える。


 指切拳万、嘘ついたら針千本飲ます。


 前世では何の効果もなかった約束の願掛けの言葉。

 恐いフレーズにも聞こえるが、絶対に約束を守るという強い意志と未来への希望。

 言葉に魔力が宿る今世だとそのフレーズは強制力が発生してしまうかもしれないから、言葉はなく指を絡め約束を交わすだけ。

 ずっとずっと友達でいられますようにと。


 強い願いには力が宿る。それはいつか奇跡のような偶然となって二人の前に現れるかもしれない。

 そうだな、キルシェのような幸運を呼び込むギフトの持ち主なら――。


「ちょっと、グラン!? そのおまじない大丈夫なの!? どんなに簡単なものでもまじないは魔法だからね!?」


 アベルのお小言くらい予想済み。

 大丈夫大丈夫。ちょっと効果が強くても、ずっと友達でいるって約束が続くだけのおまじないだから。


「え? それはユビキリゲンマン……」


 あれ? リリーさん、指切拳万を知ってる?

 え? もしかしてこちらの世界にもユビキリゲンマンがあったの?


「お? グランもアイリスお嬢様もユビキリゲンマンを知ってるのか? 遥か東の島国に住むチリパーハエルフに伝わる古のまじないを知っているなんて、さすが二人とも博識だな。本格的なやつは破れば災いが訪れる契約魔法だが、こうやって約束を交わし指を切るのは二人の縁が切れないためのまじないだから安心しろ。エルフの長い長い時間の中でいつかまたどこかで出会い、約束を果たせる日がくるようにという。エルフのまじないだから効果が現れるのもエルフ基準の時間だろうが、それだけの時が過ぎても縁が切れないってことだな。つまり人間なら一生ものの効果になるかもしれないなぁ……ん? グラン、もしかしてまたやらかしちまったか?」


 あったらしい。

 なるほど、エルフ亜種に伝わるおまじない。

 名前までユビキリゲンマンっていうのは、ちょっと面白いな。

 もしかすると転生者か転移者が持ち込んだのもが、エルフによって本格的にまじない化され、契約魔法にまでなったのかもしれないな。

 ま、カリュオンが大丈夫って言ったから大丈夫だろ。


「え? あ……いや……でも一生ものの友人って悪くねぇだろ!? なんか思ったよりすごいまじないだったかもしれないけど結果よし!」


 え? 一生ものの友達になるっていうおまじないだから、俺は全く悪くないだろ!? むしろ良いことをした!!


「一生ものの友達かぁ……それなら悪くはないか……って、うっかり仲違いしたらやばいやつじゃない!? いい? セレとキルシェちゃんはずっと友達でいるんだよ? 友達でも喧嘩くらいはするだろうけど、ちゃんと仲直りするんだよ! グランの教えたまじないだから、何か非常識なことがあるかもしれないからね! それからそのまじない、本当に大丈夫か俺も試してみるよ。カリュオンが大丈夫って言っても、カリュオンとグランだからね。まずは言い出したグランと大丈夫って言ったカリュオンで試すよ」


 相変わらずアベルがプリプリしていると思ったら、突然指切拳万の実験に俺を指名してきた。

 ま、ずっと友達でいるまじないの実験なら悪くないな。


「なんだよ、カリュオンのお墨付きだから安心だろう? ま、これからも縁が続くってまじないなら、いくらやってもいいな」


 そうだな、ずっとずっと友達でいられることを願って。

 それはどんなに時が過ぎても、どんなに時代が巡っても、またいつか巡り会い、またこうして楽しい時を共に過ごせる友であれるように。


 指切拳万。嘘ついたら、針千本飲ます。





 この後リリーさんも巻き込んで、みんなでめちゃくちゃ指切りした。



お読みいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
オレ氏、今まで指切りげんまんを実地したこと無い事に気づく(泣)
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