熟練女性冒険者が使う秘密の言葉
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セレちゃんの冒険者実習中を遠くから見守る護衛さん達の存在には、授業のためプルミリエ侯爵邸を出発した時から気付いていた。
今日は、前回海岸で授業をした時より隠れている人の数が多い?
移動がなければ、人数が多くなければ、いつも同じような場所に潜んでいなければ、気付かなかったかもしれない。
セレちゃんの冒険者実習は、まず冒険者ギルドへいき依頼を引き受けることから始まる。
ただやはりセレちゃんは、明らかに良いところのお嬢様。プルミリエ侯爵家にホームステイをし、丁寧な待遇を受けているようだということ考えると、かなり良いところの。侯爵家と同等かそれ以上の。
しかもこんなに可愛いい女の子で十代半ばという年頃のことを考えれば、家族も過保護になりがちだろうし、預かっていずプルミリエ侯爵家もセレちゃんの安全には細心の注意を怠らないだろう。
そしてそういう身分の者が庶民の場に足を運ぶとなると、周囲もそれに対応しなければならなくなる。
そういう周りへの影響を配慮してのことだろう、冒険者ギルドまではプルミリエ侯爵家の馬車で移動し、そこから冒険者と同じように行動することになる。
といっても、見える範囲にプルミリエ侯爵家の騎士さんが数名いるし、パッと見ではそうだとわからな場所に潜んでいる護衛らしき人もいる。
セレちゃんの護衛のため、そして周囲への影響を最低限にするために。
冒険者という職業に身分など関係ないといっても現実はそうもいかないという面もあるのだ。
忖度すれば本人の命関わるランク面は決して妥協はないが、身分の高い者が気まぐれでもお遊びでも冒険者を体験してみたいという場合、一般の冒険者の業務に支障が出ない範囲で冒険者ギルドが受け入れることは珍しくない。
ただの気まぐれで面倒くさいだけの貴族様もいるが、セレちゃんのように実直に興味を示し冒険者や庶民を知ろうとする者だって少なくない。
そして後者のような存在は将来、冒険者や庶民の生活を良い方に導こうとする施政者となる存在に違いない。
だから冒険者ギルドは業務に支障のない範囲ならば、冒険者活動に興味を持った貴族達を拒むことはほとんどない。
今回のようにプルミリエ侯爵家のバックアップにより、周囲への配慮も万全ならばなおさら。
そんなわけでセレちゃんの野外授業は、たくさんの護衛達に見守られる中で行われる。
セレちゃんはそのことには気付いていないようで、セレちゃんの兄であるアベルは護衛の存在は知っているだろうが、鈍感すぎて護衛達がどこにいるかまでは把握していないように見えた。
結構わかりやすい場所から見守っていると思うんだけどなぁ?
例えば御者の人は座るっていう腰周りの装備が見えやすい姿勢のせいで、ベルト周辺に隠している武器が見えちゃってるというか、座るとズボンの裾も持ち上がるから足首に隠している装備も見えているよ。
それから馬車でプルミリエ邸を出た後、馬車から距離を空けて馬で追いかけてきている人。
セレちゃんとリリーさんといったお嬢様が乗っているため普通の馬車よりゆっくり走っている馬車を追い越さない馬って怪しすぎるよ。
侯爵家っていう階級が高いお家の馬車だからかな? 安全確認用の鏡が御者台の前方に取り付けられていて、その鏡にプルミリエ侯爵邸からずっとついてきている馬が映っているのだ。ちょうど俺の座っている席の横の窓から、その鏡が見えちゃうんだよね。
それからさ、冒険者ギルドって昼過ぎの時間帯ってすっごい人が少ないんだよね。
なのにギルドのロビーにワラワラと人がいたり、俺達と同じタイミングで何人もギルドに人がやってくるってすごく目に付くんだ。
それにそもそも冒険者は対人ではなく対魔物の仕事が多いせいで、護衛の人が身に付けているような対人向けの装備はあまり使わないんだよなぁ。
護衛の仕事もあるけれどほぼほぼ魔物からの護衛だし、対人護衛の仕事は機密性が高くて依頼されるのはランクが高く信用のある冒険者のみで、依頼主やギルドからの指名でされることが多いから、一般冒険者が仕事を探したり報酬を受け取ったりするロビーでは対人専門の冒険者ってあまり見かけないんだよね。
他にも諸々。
でも海岸に到着した後は、自然の色に溶け込みやすい迷彩柄の装備に変えたみたいで、ジッとして気配を消していると見つけにくくなった。
見つけにくくなったけれどもう気付いちゃってるからつい気にしちゃうし、気にしちゃえば本来はそこにいないはずの人がいるというちょっとした違和感をどんどん見つけてしまう。
それって見つけたのが俺じゃなかったらまずいやつでは?
カリュオンも気付いているみたいだし、俺達以外にも気付く人はいるかもしれないから教えてあげた方がいいよね?
アベル経由で伝えてもらってもよかったのだが、伝言になると肝心なところが伝わらなかったらいけないからやっぱ俺がいくのがいいよね?
こっそり隠れているのは、全部で三グループ。
一つは、何となく見覚えのある人が数名混ざっているグループ。そうそう、俺がアベルと知り合った頃にアベルの周りにいた人達。
あまりにアベルの周囲でコソコソしているので美少年狙いの変態だと思って悪戯したら、冒険者になったアベルを心配したお兄さんが送り込んだ護衛さんだったらしい。
アベルが本物の不審者に狙われた時に共闘したり、俺も助けられたりで、ちょこっとだけ顔見知りで話したこともある。
最初は結構見つけやすかったけれどだんだん見つけにくくなってきて、そしたら俺もムキになって見つけたくて探すので俺の索敵技術も上がって、勝手に良きライバルみたいな親近感がある。
もう一つはプルミリエ家の護衛さん達のグループ。
セレちゃんの授業を引き受けたばっかりの頃はまだ真っ黒な装備で目立っていたけれど、今は迷彩柄の服になってとても見つけにくくなっている。
ただ今日はリリーさんのお兄さんが混ざっていて、リリーさんのお兄さんがかけている眼鏡が日の光を反射してピカピカしてて居場所を主張しまくってるんだよね。
リリーさんのお兄さんは以前”かくれんぼ”で稽古をつけてもらったが相当な手練れ。
一般的な冒険者とは全く異なる戦闘スタイル――対人に、とくに奇襲に特化したタイプだと思われる。
そのため気配を消すのは非常に上手いようで、他の護衛さん達は僅かだか違和感からくる気配を醸し出していたが、お兄さんに関してはその辺は完璧。ただ銀縁の眼鏡がうっかりすぎなんだよなぁ。
しかも眼鏡をクイッと上げる癖があるのは気付いていたが、そのせいで光の反射角度が変わって余計に気になる。
今世にはコンタクトレンズなんてないからなぁ。でも眼鏡対策は何かしらした方がいいと思う。
それからもう一グループ。
冒険者ギルドのロビーにいて、そこからついて来ていた。
確かプルミリエ侯爵家を出発した時にはいなかったんだよね、黒ずくめのおじさん達は。
他の護衛さん達は、町の中にいるうちは周囲の人に混ざっても違和感のない恰好。海岸でバーベキューを始めた頃には迷彩柄に装備に。
でもこのおじさん達は全員黒を基調とした装備。
冒険者みたいな装備はしているけれど、冒険者じゃないよね?
冒険者は魔物素材の防具を使うことが多いが案外真っ黒な素材は少ないし、閉所で戦うために小型の武器は持っていても普段はリーチの長い武器、飛び道具はスロウナイフ系より弓系を愛用する傾向がある。
なのにこのおじさん達、わざわざ黒に染めた装備にナイフやダガーといった小型の武器やスロウナイフ系の武器を身に付けている。
スロウナイフは俺も使うが、その大きさ故に低ランクの魔物でも毒を使わなければ致命傷になりにくく、即効性の毒は値段も高く生命力の高い魔物ほど毒は効きづらいため、コストや手間を考えると対魔物戦のスロウナイフはせいぜい目潰しや牽制である。
ただし人ならば、とくに体を鍛えていない者ならばスロウナイフでも十分致命傷になる。
おじさん達、そんな恰好で魔物は倒せないよね?
昔からいる護衛さんも、プルミリエ侯爵家の護衛さんも、迷彩服だけどおじさん達はまだ真っ黒なの?
装備が間に合わなかったのかな?
冒険者ギルドからずっとついてきていて、海岸でバーベキューを始めた後も、少し離れたところにあるブッシュの中からずっとこちらを見ている。
なんかすごく怪しいけれど、俺の勘違いだと仕事の邪魔をすることになってしまうから、とりあえずそれとなくリリーさんのお兄さんに聞いてみようかな?
ガッチガチに護衛の人たちが周辺を固めているってことは、もしもを想定しているってことでもあるから。
チラリとカリュオンに視線をやるとコクリと頷いたので、俺はこっそりとバーベキュー会場を離脱してリリーさんのお兄さんのとこに。
極自然に話し掛けられるように差し入れを持って。
セレちゃんとキルシェがバーベキューを楽しんでいるところに水を差したくないし。
というわけで、リリーさんのお兄さんのところまで差し入れを持っていって、黒ずくめのおじさんの存在をそれとなぁく伝えておいた。
だから後はプロのお仕事。
アベルの周りでよく見かけていたおじさん達にも同じように差し入れを渡して、黒いおじさん達の存在を伝えて。
ほら、どっちかの知り合いかもしれないじゃん?
俺の仕事はそれだけ、後はバーベキュー会場に何食わぬ顔で戻るだけ。
お兄さん達が慌ただしくなった気配には気付いたが、後はプロにお任せ。
そして何に食わぬ顔でバーベキュー会場に戻った俺を待っていたのは――。
「先生、綺麗なお花は見つかりましたの?」
「はい?」
「グランの姿が見えないからどこにいったのかなって思ったら、カリュオンがグランは花を摘みにいったって」
「花を摘み……あっ! カリュオン?」
「おっとぉ、戻ってきたかぁ? 花は摘み終わったか?」
「ええ……どこでお花を摘んだんですか……」
「ほえぇ……グランさんは素材集めが好きですねぇ。海の近くってやっぱ変わったお花があるんですか?」
「え? あ? そう、文字通り花を摘んでただけです!!! 文字通り!!!!! ほら、花!! あっちで咲いてた苦労場の花!! その土地の幸せを吸い取って咲く最悪な花だけど集めて花冠にすると可愛い!! すごく呪われてそうな冠だけど!!」
カリュオン?
さすがにこっそりいなくなったのは気付かれてしまったようでカリュオンが誤魔化してくれたようだ。
セレちゃんの夏休み最後の思いでが綺麗なままで終わるように。
でも、カリュオン? お花摘みってさぁ?
セレちゃんに聞かれて、一瞬何のことかわからなかったよ。
熟練の女性冒険者がよく使う秘密の言葉だから、セレちゃんとキルシェは気付いていないみたいだけど?
博識なリリーさんは、お花摘みに隠された意味には気付いてしまったようだ。
っていうかバーベキュー中にその誤魔化し方はどうなんだ、カリュオン!?
お読みいただき、ありがとうございました。




