青春はカニの味
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「魚釣りは川でならやったことありますけど、運要素が大きいですし待ってる時間も長くてちょっと苦手なので、僕はこっちの方が性に合ってますね」
「ええ、魚が全然釣れなくて飽きてしまいましたし、こっちの方が戦う冒険者って感じがして楽しいですわ。それにこっちの方が爽快感もあって効率も良いですし」
「ですよねー! 僕の住んでいるあたりにカニはいないんですよね、一番近くて隣の領にある湖ですかね。そこで獲れたものがたまに市場に並んでいるのを見るくらいで、動いているのを見るのは初めてかも。しかも海のカニってでっかい!!」
「わたくしも調理前のカニを見るのは初めてですわ。ほほほほほほ、というわけでキルシェに貰ったこのライトニングナッツを使ってカニをたくさん捕まえるのです!」
「このライトニングナッツは護身用にってグランさんに貰ったものなんですけどね。護身用にもいいしこうしてカニ漁にも使えるし便利な木の実ですねぇ。森の奥とかダンジョンでしか手に入らないらしいのが残念ですが、とりあえずカニさんには痺れてもらいましょう! そぉれ!」
「一つ二つならちょっと痺れる程度の雷が発生するだけですけど、纏めて投げると威力も上がって潮だまりにいるカニを纏めて狩るのに丁度良いですわね。この方法なら潮だまりの中のカニ以外の食材も楽に捕まえられますわ~、そぉれ!!」
バリバリバリバリバリバリバリーーーーーーー!!
「ちょっとおおおおおおお!! 何でグランみたいなことをしてるのおおおおおおおお!! 俺はちゃんと覚えてるよ!! グランと知り合って初めて海に行った時に、グランも同じことをやってたよ!! ダメ!! グランと同じことなんかやったらダメ!! 将来グランみたいな非常識な大人になるからダメ!!」
「あーあ、水の中に雷属性のものを投げ込むとこうなるよなぁ。うちの苔玉、そうやって川魚を捕まえてたなぁ。まぁ、苔玉もやってることだしギリセーフかな」
「ちょっと、カリュオン!! ギリセーフとか言わないで!! その苔玉のやることは、絶対に非常識だって俺……は知ってるよ!! それにセレはカシュー兄さんに似て脳筋だから、つまりグランと似たような属性だから、そういうすぐに大雑把な力業で解決しようとする傾向があるの!! ていうかグランはライトニングナッツなんて物騒なものを、軽い気持ちでキルシェちゃんに渡さないで!!」
白い砂浜にエメラルドグリーンの海。
吹き抜ける南国の風はまだまだ夏の気配。
そこに響く女の子達がキャッキャッウフフと楽しそうな声。
アベルが騒いでいてうるさいが、これは間違いなく青春。
俺も冒険者になって数ヶ月くらい――アベルと仲良くなったばかりの頃だったかな、アベルと一緒に海に行った時にこうやってライトニングナッツでカニを狩って、そのカニをカニクリームパスタにして食べたんだよなぁ。
懐かしいなぁ~。
前世、日本ではカニは高級品だったが、この世界では浜辺にカニの魔物がちょいちょい徘徊していて、だいたいの奴らが美味しく食べることができる。
大型でランクの高い奴もいるが、町から近く誰でも気軽に来ることができるような場所は保安部隊や冒険者がこまめに危険な魔物は駆除をしているので、比較的小さめの個体を見かけるくらいだ。
人が立ち入る場所で見かけるのはF~D-ランクくらいの個体がほとんどで冒険者じゃなくとも対処できる程度のものだが、もちろん危険な個体が絶対にいないというわけではないので決して気を緩めてはいけない。
それに小さめの個体といっても前世のカニよりも普通にでかいし、カニだからハサミを持っているし、魔法を使ってくる奴だっているし、カニは肉食だからカニを食べるつもりが自分が食べられてしまう危険だってある。
そう、ハサミ。
人の指くらいチョキンといってしまうし、大きな個体になれば腕だってチョキン。更にヤッベーのだと胴も首もチョキンされかねない。
しかもカニだから甲羅で身を固めており当然表面は硬く、力不足だと甲羅に攻撃を弾かれなかなか仕留められない。そうしているうちに反撃を食らって、チョキンなんてことも。
そんなカニの弱点は雷。カニに限らず水の中に棲息する魔物は雷が苦手なものが多い。
そして水。
そんなのもう、雷属性の何かを水の中に投げ込むのものである。
たとえばパチパチどんぐりこと、ライトニングナッツとか。
雷属性のこの木の実は衝撃を与えると、バチバチと弱い雷を発生させる。
一つ二つなら少しビリッとするくらいだが、そこは塵も積もれば山となる。量が多ければ馬鹿にならない威力になる。
収納スキルがあれば持ち歩くのも容易で小さいので収納スキルの容量も食わないため収納スキル持ちの護身用にはピッタリで、俺も駆け出し冒険者の頃はライトニングナッツを使って戦うこともよくあった。
キルシェの冒険者活動で助けになればと渡していたのが、どうやらカニ漁に使えることに気付いたらしい。
偉いぞ、キルシェ!
ライトニングナッツを投げ込んだのは潮だまりのようなので、バチバチするのもそこだけに留まり安全!
アベルが騒がしいというデメリットもあるのだが、カリュオン曰く苔玉ちゃんもやっている戦法のようなのでだいたいセーフ!!
そうやってキルシェとセレちゃんが獲った獲物を美味しく食べるためにスタンバイしているのが俺。
海辺の青春の締めは、瓶詰めソースの試食とカニ料理といこうか。
もちろん野営で手軽に作れる範囲で。
「比較的食べやすい足の部分はすぐ食べられることを重視でそのまま焼いたけど、胴体の部分は食べにくいから湯がいて身をほぐして別の料理にしてみたんだ。網焼き用の器具だが隅っこに鍋を置いて茹でものもできるからな。そこで湯がいてほぐしたカニの身をトマトクリームソースと一緒にパスタに和えて、カニトマトクリームパスタだ! リリーさん、携帯ソースシリーズにトマトクリームソースもいけないかな?」
「トマトクリームですか……もちろんできなくはないですわ。ただやはりアレンジの幅を考えると、優先順位は低めになりそうですわね」
「そんなぁ……とりあえず俺がストックしてるトマトクリームソースでカニトマトクリームソースパスタを作ったから、試食してからもう一度考えてくれないかな? トマトクリームソースはカニだけじゃなくてエビにも合うぞ! カニがなければエビでもいいじゃないか! どっちもなければベーコンも悪くないぞおおおおお!!」
「う……しいく……しぃいいいいしょくはズルいですわぁ~! 試食したら流されてトマトクリームソースも製品化してしまうじゃないですかああああ-!!」
「リリーさん、そこは流されないで。カニトマトクリームパスタを冒険者活動中に食べられるのは魅力的だけど、カニをその場で調理できるなんて海の近くだけで限定的すぎるよ! もちろんエビもね! ベーコン? 冒険者がベーコンなんか持ち歩いてると思う!? 高性能のマジックバッグや収納スキルがなかったら、せいぜい干し肉だよ!! そもそも食に拘りすぎ!! 出先で美味しいものを食べられるっていうコンセプトはありだけど、グランは凝り性すぎ! カニトマトクリームパスタももちろん食べるけど、今日はリリーさんが用意した瓶入りミートソースを使ったミートソースパスタの試食がメインだよ。それからセレ達が獲ってきたカニは、難しいことはしないで焼いて食べるだけで十分だよ。俺は食べにくいのが嫌いだから、カニトマトクリームパスタの方が好きだけど」
「…………………………………………」
「…………………………………………」
「野営になっても美味いもの食いたいが、できるだけ手間はかけたくないからほどほどだな。ミートソースを温めて湯がいたパスタにかけるくらいならそう手間ではないが、カニを湯がいてほぐしてとなるとソースがあってもかなり面倒くさいな。カニもエビも焼いて塩を振るだけで美味いから、それでいいってなっちまう。食べにくくて、お嬢ちゃん達みたいに無言になっちまうのが欠点だが」
野営で手軽に作れる範囲――キルシェとセレちゃんが獲ってきたカニをそういう範囲で料理してみた。
捕まえたカニを胴と足とでバラすのはそこまで難しくない。
足は焼いて、胴を茹でるのも難しくない。
バーベキューセット型のコンロなら、足を焼きながら端っこに鍋を置いて胴を茹でることもできる。
茹でたカニの身をほぐしてソースと混ぜてパスタと和えるの難しくない。そのソースさえあれば。
今日のところは俺が収納にストックしているソースを使ったが、これを瓶入りミートソースのようにして持ち運べるようにすれば、カニを捕まえるだけでお手軽カニトマトクリームパスタ!!
少し手間はかかるけれど、カニトマトクリームパスタが出先で食べられるのってよくない!?
って、思ったのにアベルもリリーさんもカリュオンも反応は微妙。
キルシェとセレちゃんは――カニに夢中で無言だった。
お読みいただき、ありがとうございました。
出会ったばかりのグランとアベルが海にいった話はこちら!!
グラン&グルメ 小話集
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