ついでで作るもの
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「兄上や義母上が、セレは好奇心が強すぎて時々令嬢らしさに欠けるって頭を抱えているけど、こうして冒険者と同じスタイルで同じ食事を口にすることに抵抗がないのはいいことだと思うよ。セレがこの夏で経験したことは、いずれセレを助けてくれる力になるかもしれないからね。ほら、セレが捕まえてきたカニが焼けてるよ。それからアイリス嬢とグラン用意してくれたミートソースパスタとカニトマトクリームパスタもあるよ。でもあんまりたべすぎると夕飯に響くから、パスタは俺と半分ずつ食べようか、ってグランが色々出してきて焼き始めちゃったよ。まぁ、グランだから変な食材は混ざってても、変なものは混ざってないはずだし、グランとカリュオンがパクパク食べてるので大丈夫だと思うけど念のため俺が味見もしておくよ」
「う……ディオ兄様とお母様には詳細の報告はなしでお願いいたしますわ。く……冒険者のお食事って、見た目はかなり個性的なものもあるようですが、味の方は意外と悪くないですわね。これなら食事目的で冒険者になる方がいてもおかしくないというか、こういうお食事は騎士団も野外での活動の時もそうなのでしょうか? アイリス姉様の考案された保存瓶入りのパスタソースは、野外での演習の多い騎士や兵士にも需要があるのではありませんこと? ディオ兄様かノ……カシュー兄様に売り込んでみては?」
「わたくしの予想では冒険者の食事事情がいいというか、食材を持ち運べる余裕と料理スキルの高い方がいらっしゃる現場だと食事事情が良い感じではないですかね――たとえばグランさんのような。この瓶入りミートソースはそういった方がいなくても、それなりの料理を手軽にというコンセプトですわ。そうですね、冒険者や騎士、兵士だけではなく旅の方々にも需要があると思っております故、プルミリエ侯爵家のキャラバン隊の携帯食に加えて現場からの意見を募っているところですわ。その後、更なる実用性を図り各所に売り込む予定ですわ。く……肉は焼くだけでも美味しそうですわね。保存と携帯に特化した焼肉用のタレがあれば野外での食事事情が更に向上するのでは……」
「ほえええ……そうですよね、長期間の行商となると野営も増えることになるでしょうし、携帯する食料と調理の問題が出てきますよね。なるほどなるほど……ちゃんと覚えておかないと」
変な食材ってなんだよ、変な食材って。
食材ダンジョンで手に入れたポミュプという見た目は目玉がたくさんついた軟体生物でちょっとグロテスクだが、鑑定するとちゃんと食用可と見える不思議な生き物の目玉を焼いてるだけだろ。
名付けてポミュプの目玉焼き!
淡泊な味が料理にぴったり、コリコリ食感が癖になるポミュプの目玉! 多分栄養たっぷりで健康にも美容にも良さそう!
塩胡椒や醤油ベースのタレで焼いてよし! カラッと揚げてよし! スープの具材にも良し! 醤油やオイルに漬け込んでも良し! 酢で締めてもよし!
料理の付け合わせにも、酒のつまみにも、オヤツにも、超万能食材! 見た目のグロテスクさも慣れれば何となく可愛い!
ポミュプの目玉を変な食材とか言ってるアベルだって醤油漬けが気に入りすぎて、仕事の忙しいお兄様の健康のために差し入れするって持って行ってたしな。
ポミュプの目玉焼きだけではない。
冒険者の食事事情をできるだけ知ってもらおうと、市場にはあまり出回らないような食材を網の上で焼いていた。
ロック鳥の砂肝、フェニクックのハツ、ブラックドラゴンのホルモン、サラマンダーのタン、ワイバーンのレバー、シーピッグの足や耳、クラーケンのゲソ――などなど、若干癖が強めの食材ばかり。
多くの荷物が持てなければその場で優先的に捨てられたりしてしまう部位、もしくは調合素材とのしての価値が高く食材としては出回らない部位、それを現場で調理して食べるのも冒険者の醍醐味である。
今日のところは現場ではなく俺の収納に溜め込んでいたものなのだが、これで少しでも冒険者達の食事の雰囲気をわかってもらえればと。
美味しく食べて、楽しく実習!
実際の冒険者はもっと泥臭くて辛い場面も多い職業だが、セレちゃんにそこまで知ってもらわなくていい。
貴族のお嬢様が、俺達平民の食事を興味深そうに口に運んでくれるだけで十分。貴族以外の食事事情を知ってもらえるだけでもありがたいのだ。
俺が張り切って色々持ち出しちゃったから、一般的に冒険者の食卓よりもかなり豪勢なバーベキューパーティー状態なのだが。
しかしその中での会話は、やはり施政者であるための教育を受けた貴族のお嬢様。
話題はその食事から連想する活用先となり、生まれた疑問はアイリス嬢ことリリーさんへと振られ、それに答えるリリーさんもはやはり有能なお嬢様。
今日お披露目してくれた保存瓶入りミートソースは、すでにプルミリエ侯爵家のキャラバン隊に導入されている模様。
その流れででてくる「焼肉用のタレ」という単語――わかるううううううう!! それすっごい欲しいいいいいい!!
自分でも肉に合うソースを作ってみてはいるが、どうしても自分の好みによりがちだし、あれもいいこれもいいで癖が強いものにもなりやすく、差し障りがなくそれでいて安定して美味いソースというのが非常に難しい。
ぜひ! ぜひぜひぜひぜひ!! ぜひ万人受けをしそうな焼肉用のタレを作ってほしい!!!
倒した獲物を捌いて肉を焼いて食べる。
それは冒険者の最も基本的な食生活。金がなくても食っていける方法。
塩は無理しなくても買える値段だが胡椒はかなり割高で、塩だけで味付けをした肉を食べている冒険者は少なくない。
採取した薬草やハーブで味付けをするという手もあるがやはり手間がかかる。
そんなところに胡椒より安価で焼肉用のタレという選択肢が入るなら。
いや、胡椒より多少高くても手軽に肉を美味しくできるなら、経済的に余裕のある冒険者は。
やっぱ欲しいよなあああああ!? 焼肉用のタレがああああああ!!
「リリーさん! いや、今はアイリス嬢でした!」
「ひゃい!?」
ちょっと声かけに気合いを入れすぎてリリーさんを驚かせてしまったのか、裏返った声で返事が返ってきた。
「それはぜひ作ろう! 焼肉用のタレを!! 焼いた肉を浸して食べてよし! 肉に付けて焼いてよし! 普段から焼いてる肉がタレ一つで美味しくなるって最高じゃないか! それこそポーション瓶に詰めるのにはちょうどいいし、オルタ辺境伯領の食材ダンジョンに胡……ゴゴゴゴ……セサ実生えていたからセサ実入りのタレも、セサ実タレもいける! 冒険者だけじゃない、野外の活動がある騎士も兵士も、バーベキューをしたい一般人も、焼肉用のタレのタレで豊かな焼肉ライフ!!」
そこに米があれば更に最高なのだが。
「え? ええ!? ええ……ええ……焼肉用のタレで豊かな焼肉ライフ!! いいですね!! あ……タレのついでに焼肉屋作っちゃおうかな……」
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え? それってついでで作るものなの!? タレのついでで焼肉屋を作っちゃうの!?
これが貴族の感覚!?
貴族がどうも苦手な俺だが、リリーさんはお嬢様でもどこか庶民くささがあるので親近感を覚えていたのが、やはりついでで焼肉屋を作ろうって感覚の侯爵家のお嬢様だった。
でも焼肉屋ができるなら客としていっちゃう。
「ちょっと!? 焼肉用のタレって何!? 何かまた食べ物の話してるよね!? しかも焼肉屋って何!? 二人で暴走する前にちゃんと俺にわかるように話して!! ていうかその話は今じゃなくて、また日を改めて詳しくじっくりゆっくり聞かせてもらうよ!!」
まだ暴走なんかしてないのにアベルのお小言が始まりそうな雰囲気になったので、この話はおしまい!!
後日また改めて!!
今は渚のバーベキュー実習に集中!!
お読みいただき、ありがとうございました。




