スライムの不思議
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アベルの転移魔法でジュストをオルタ・クルイローに送り届けた後、俺とアベルとカリュオンはリオ君とセレちゃんの家庭教師のためフォールカルテのプルミリエ侯爵家へ。
チビッ子達も、俺達が出かけるタイミングでいつものように揃ってどこかへ出かけていった。
ジュストと仲が良さそうだった焦げ茶ちゃんはジュストについていくのかなと思ったが、見送りの激励をしただけで他のチビッ子達と一緒に出かけていったところを見るとこれからもうちにいるつもりなのかな?
……不運極振りのジュストに焦げ茶ちゃんが付いてると安心だけど、それはそれで別の意味で不安な気もするからこれでよかったのかもしれない。
地の月こと八月の最終週で家庭教師は終了予定だったが、ちょうどそのタイミングで俺とアベルが寝込んでしまい家庭教師最終日の授業がなしになるところだったのだが、王都上空で非常識古代竜が大暴れした影響でご家族が仕事で忙しすぎらしく、リオ君とセレちゃんの王都帰還が先延ばしになり一週遅れて最後の授業を行うことになった。
その辺りの調整をしてくれたのは、カリュオン。
俺はシュペルノーヴァとリーベルタースが退いていくのが確認したタイミングで、アベルはそんな俺を地上まで運んでくれて全員をうちまで転移させた直後で、気を失ってそのまま寝込んでしまい、各所への連絡や状況の報告、スケジュールの調整は、カリュオンが冒険者ギルド経由でやってくれていた。
さすがカリュオン!
戦闘以外のことでも頼りになるお兄さん!!
こうしてプルミリエ侯爵家へやってきたのだが、そこで待っていたのは――――困惑。
「ちょっと、グラン?」
「いや、これは俺は悪くないだろ」
「ちょっと、リオ?」
「ぼ、僕もラピも悪くないよ?」
「もちろんリオ君もラピ君? も悪くない。そもそも何も、そして誰も悪くない! これは生命の神秘! スライムの不思議! まだまだ人類が解明しきっていないスライムの謎!」
「ははは、グランやアベル達よりちょぉ~と長生きな俺も、こんな現象を見たのは初めてだなぁ。スライムってすっげーなー、ハイエルフですら知らない謎だらけの生き物だな」
「ホホホ、それでスライム研究家アドベンチャラー・レッド先生的にはこれはどういうことなのでしょう? ぜひお聞かせ願いたいですわ」
「いや、俺はただのスライム愛好家なので、専門的なことはわからないな。というかその名で呼ぶのはやめるんだ、俺の羞恥心に特効すぎる」
「今はふざけてる場合じゃないし、グランの羞恥心とかどうでもいいよ。とにかく、そんなことってあるぅ!? 教えてレッド先生!! スライムが聖女や聖人クラスの聖属性の魔法を使い始めただけじゃなく、"聖者の石”を作り出すなんて、どういうこと!? というかスライムの聖者状態だよ!!」
「だからその名前で呼ぶなっつってんだろ!! そーだよ、ふざけてる場合じゃないだろ!! スライムが聖属性の魔法を使うことはあるがこの齢で領域魔法を使うのはさすがに予想外すぎる、それに聖者の石を作り出すなんて聞いたことないぞ!! マジで聖者スライムだよ!! って、あんまり大規模な魔法は命に関わるかもしれないから無理はするんじゃないぞ? いくら力が強くなってもやっぱり小さめのサイズのスライムだ、大規模な魔法の体への負担を考えると使いすぎない方がいいと思う。少しずつ使って魔法の負担に体を慣らしていくんだ。いいかい? ラピ君もリオ君とずっと一緒にいたいなら無理はするんじゃないぞ? 成長っていうのは急ぎすぎなくていいんだ」
「だって、ラピ。ラピの作り出す星空空間は綺麗で居心地が良いけど、レッド先生の言う通り無理はしないでね。ラピに何かあったら、居心地が良い空間どころじゃないからね。ラピが一緒なら、それだけで楽しくて居心地がいいから」
「はーーーー……何かいい話にしようとしてるけど、これはグラン基準で見ても近年稀に見る非常識だからね!? ていうか、リリーさん? どうしてすぐに教えてくれなかったの!? 俺がグランの家に住み着いてることもグランの家の場所も、君の情報網なら把握してるし、うちまでくることもできないことはないでしょ!? そういう大事なことの連絡なら、いきなりきても」
「えっ!? バレてる!? いやいやいやいやいや、本人凸ましてや自宅凸は推し活の禁止行為中の禁止行為! 脱法行為! たとえ公式様の許可があっても、それはできませんわああああああ!! でももし許されるなら、推し様の家の推し様が並んで座るソファーになってごにょごにょごにょごにょごにょごにょ……っていうか今”うち”って……ぁぁ………………っ」
プルミリエ侯爵家に到着すると、困惑の表情満載のリリーさんに出迎えられリオ君の部屋に通された。
その様子に俺達も若干困惑しながら部屋に入るといつもより使用人の数が少なく、いつもとは何かが違うことを肌で感じとっていた。
そして部屋のいつの位置には、困惑の表情ではあるが目だけはワクワクとした感情を隠しきれずキラキラと輝いているリオ君。
その肩には、以前見た時より更に鮮やかな青色になったラピスラズリスライムのラピ君。青く透き通った体の中には、核となっている金色の魔石の周囲をキラキラと金色の粒子がいくつも漂っておりまるで月と星の輝く夜空のような美しさ。
そして輝かしい金色の瞳を更にキラキラとさせながらリオ君が見せてくれたのは、リオ君の小指の爪のよりも更に小さなものだが金よりも金色に輝く結晶。
それを見てアベルの目が大きく見開き、ボソリとその金色の結晶の正体を口にした。
聖者の石――と。
魔力が何らかの理由で凝縮され結晶化したものを魔石と呼ぶ。
自然の中で作られることもあれば、魔力を保有する生き物の体内で生成されることもある。
魔物の中には体内や表面に魔石を保有しており、それが力の源となっている者も珍しくない。
スライムの核もまさにその魔石というやつである。
人間は体内に魔石ができづらい種族ではあるが、決してないわけではなく魔石が生成された箇所によっては命に関わることもある。
体内で魔石が大きく成長する前に発見すれば治療可能で、大きくなり始めれば魔石が生成された箇所に違和感や痛みを生じる痼りが生じるので、そのまま放置しなければ大事に至るケースは少ない。
ただ魔石の生成された場所によっては、非常に厳しい状況になることもある。
その魔石の中でも聖属性のもので、神の祝福系のギフトを持つ者の体内に作られた、高純度な聖属性の結晶のことを聖者の石と呼ぶ。
神の祝福系のギフトを持つ者、つまり神に愛された者――人ならば聖女とか聖人と呼ばれる者、魔物や妖精なら聖獣と呼ばれる、聖属性に高い適性を持つ存在である。
高純度であるため、小さな欠片であっても膨大な魔力が圧縮されており、超大型の結界や大規模浄化装置の動力として使われるもので、小指の爪よりも小さい大きさでも稀少すぎて値段がすぐに付けられないほどの価値がある。
そう、生き物の体内で作られる恐ろしく高価な魔石。
本来ならば魔石が生成されづらい人の体内にもできることがある魔石。
その中でも心臓に近い位置にできたものほど高品質であると聞く。
故に過去に幾度も凄惨な事件が起こっており、神に愛された者が集まりやすい宗教施設がその温床になっていたことも。
そのためどこの国でも聖者の石は、保管も流通も国が厳しく管理している傾向があり、ここユーラティア王国もその例外ではない。
ぶっちゃけ俺も、今世で実物を見たのは初めてである。
しかも困惑させられたのはそれだけではない。
目をキラキラと輝かせるリオ君の肩の上で、体内の金色の魔石と結晶をキラキラと輝かせるラピスラズリスライムのラピ君がプルプルと揺れたと思うと、周囲を自らの体を投影したような青の中に金色の輝きがチラチラと浮かぶ領域を作り出した。
その大きさはリオ君の部屋より狭いくらいだが、どう見ても特定の魔力領域を作り出す空間魔法。
そこはまるでラピ君の体の中に入ったような光景、そして聖属性の魔力で満たされてやたら居心地が良く心も体も癒やされるような感覚。
小さな夜空のようなスライムのラピ君が作り出した領域は、夜空のど真ん中のような空間。
まるでプラネタリウムのようだな。
という感想が口から溢れそうになったのをグッと耐えた。
プラネタリウムのような空間に思わずポカーーーーンと心奪われてしまって数分。
いやいやいやいやいやいや、おかしい! これは絶対おかしい!
ラピ君の能力は間違いなくおかしい!!
そして全員がそれに気付いて大混乱。今この辺。
お読みいただき、ありがとうございました。




