episode 67 巡り続ける思考
一体、自分はこの作品をどう完結へと導いていくのだろう……。
そんなことをふと思った作者です。
多分まだまだ続いていくのですが(笑)
それは置いておいて。
実は作者は明日から合宿があります。
後々活動報告にも書きますが、そのため2日ほど書けません。
次の更新は2日以降となりますのでご了承ください。
では、本編へどうぞ
なんとか紅葉の誤解を解き、今日の出来事について話終えたのは消灯時間ギリギリのところだった。
何を思ったのか、取り敢えず誤解だとわかった紅葉は逃げるようにライラを引きずって帰ったのだが、その頬が赤く染まっていたことには触れないで置こう。
そして現在。
既に消灯時間が過ぎているにも関わらず、俺は未だに寝付けないでいた。
部屋は暗い。電気を消しているので当たり前なのだが、それがどうも俺の心に影を差す。
『――それが、幻だったとしたら?』
去り際のカレンの言葉が何度も何度も脳内で再生される。
なぜ、自分はこんなにこの言葉が気になるのだろうか。
あの女の妄言だと聞き流せばいいのに。
(仮に……仮にだ。あれが何かの夢だったとしたらどうなる?)
夢。
現実では起こっていない出来事だったら?
俺が今まで積み上げてきた物は全て無に帰すだろう。いや、力を溜めたことは無駄では無かったとしても、この望みはどうなる?
そして、何より――
(兄さん…………)
夢だとしたら、兄は生きていることになる。
そんなことは有り得ないのだ。
(俺は……確かに……)
目の前で実の兄が殺されるのを見たのだ。
ぶつかり合う金属の音も、放たれる魔法も、そして、俺の頬にかかった兄の鮮血も、何もかもが現実。
一瞬だけ吐き気がこみ上げてくる。まだ、俺の中では思い出したくない事柄なのだ。
(どれだけ時間が経ってもこれだけは治らない、か……)
あの出来事を未だに整理しきれない。思い出す度に胃が締め付けられる。
そんな自分が女々しいと感じるし、苛立たしいとも思う。
ただ、これがあの出来事を忘れ去られないための一種の枷なのだとしたら、俺は甘んじて受けようとも思う。
怒りも、憎悪も、何もかも忘れないために。
気づけば思考が脱線し始めていた。頭を振って先程の考えを引き戻す。
(……兄さんが死んだことは紛れもない事実だ。なら、カレンは一体何が“幻”だと言うんだ……)
だが、引き戻しても結局はそこに行き着く。
そこで考えが止まってしまう。
考えても考えても辿り着かないもどかしさを胸に、俺の夜は静かに過ぎ去っていくのだった。
☆☆☆☆☆
翌朝。
結果的に碌に眠ることができなかった。
昨日の夜からずっと考え込んでしまい、気付いたら朝に。
笑えない。
しかし、それよりもこれはもっと笑えない。
なんなんだ、これ。
「なんで、寮の前にこんなに男子生徒がいんだよ!!」
現在、目の下に隈を作っている俺は目の前の光景に唖然としていた。
寮を出て外を見ると見渡す限りの生徒、生徒、生徒。
これが女子だったら目の保養になったかもしれないが、生憎とそんな美味しい展開にはならないらしい。
男子生徒たちは誰かを待ち伏せしているようで、その手には物騒な補助武装が持たれている。
その視線が一斉に俺に向けられ、固まる。
「来たぞぉぉお!!」
「アイツだッ!!」
俺を見るなり、雄叫びと共に一斉に駆け出す男子生徒たち。いや、この際群と呼んでもいいかもしれない。
一瞬思考がフリーズ。
「……はい!?」
脳内の情報が整理されて行くにつれ、ようやくこの意味の分からない現象にリアクションをとることができた。
……別にリアクションできたからってどうにかなるものでも無いのだが。
そこでふと昨日の出来事が頭をよぎった。
(……ああ昨日、会長がとんでもないこと言ったんだっけ……)
ははは、そういうことか。
なるほどなるほど。
………………。
「あんのくそ会長がぁああああああ!!!!」
☆☆☆☆☆
「ぜぇ……ぜぇ……」
「おお、お疲れだな」
あの後、迫り来る男共を八つ当たり混じりに蹴り飛ばしたり、殴り飛ばしたり……。
とにかくダッシュで逃げ切り、なんとか我が教室に到着した次第である。
まあ当然、俺の体力は尽きかけ、こうして机に突っ伏しているのだが。
そんな俺の姿に苦笑いをしているライラと紅葉。
「そういや、このクラスのやつらは襲ってこないな」
「そういや……そうだな……ふー……」
やっとのことで息を整え、そう言えばと辺りを見渡す。
このクラスの男共は嫉妬の視線を向けてきてはいるが、いきなり襲いかかってこようとはしない様子。
その代わりとは言ってはなんだが、射殺さんばかりの視線を放ってきているのだが。
「……ほんと、襲いかかってこないわりには視線が物凄いんだが」
「だよなぁ」
2人して首を傾げる。
それに「そうね」と前置きして紅葉が答えた。
「ユウは模擬戦で私に勝ったんだから、きっと返り討ちにされるって思ってるんじゃない?」
「なるほどなー」
ライラがうんうん頷きながら納得というような顔をする。
だが、俺は反対に呆れてしまった。
「……根性無し共が」
――グッサ!!
何気なく呟いた台詞だったのだが、どうやらかなり効いたらしい。男共は胸を抑えながら悶絶し始めた。
隣では引きつった笑みを浮かべている2人がいるが気にしない。
それよりも、だ。
「なんで女子までさっきから涙目なんだ?」
よく見ると関係の無いはずの女子たちまで涙目で嘆いていたのだ。
それもこちらをチラチラ見ながら泣き出すのだから原因が俺にあるのだろうとは思うが、たまったものではない。
本気で首を傾げていると、呆れたような表情でライラと紅葉がため息を吐いた。
「無自覚か。この鈍感ヤロー」
「このお馬鹿には何を言っても無駄よ、ライラ」
ヤレヤレと再びため息を吐く2人。ますます訳が分からない。
「は?え、何が?」
「何でも無いわよ」
何か誤魔化されている感が否めないが、これ以上追及してもどうせ教えてはくれないのだろう。
納得はできないが、取り敢えずスルーすることに決めたころ、唐突に教室の扉が開けられた。
――ガラガ…………。
しかし、少し開けた時点でそね動きが止まってしまった。そこには1人の女性が立っている、
「な、なんですか、この状況は?」
入った瞬間に引きつった笑みを浮かべて状況確認しようとしているのは我らが担任のミレア・フォーカス先生。
だが、困惑するミレア先生に状況説明をできる人間は、今現在このクラスにはいない。
そんな中、HR開始のチャイムがこの混沌とした教室に虚しく響き渡ったのだった。
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