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episode 27 落下の恐怖


「……そう」


俺の言葉に満足したように頷く彼女に、ますます意味が分からなくなる。

ここはこの少女が言う俺の心の中。周りは暗いのに何故か彼女の姿ははっきり見える。きっと向こうからも同じようなものなのだろう。

そんなどうでもいいことに自分の中で確認すると、計ったようなタイミング(実際に俺の心を読んでいるのだろう)で話を続けた。


「じゃああなたにチャンスをあげる。手に入れるも手に入れないもあなた次第よ」

「……は?」


いきなりそんなことを言われて、つい間抜けな声を出してしまった。そんなことなど気にするつもりも無いのか、彼女はおもむろに右手を上げる。


パチン。


彼女が指を鳴らすと同時に彼女の姿がかき消えた。驚いて左右を見渡すが誰もいない。

しかし、


「はッ!?」


いきなり地面が消えたような感覚がしたかと思と、突然浮遊感が身を包んだ。消えたよう、ではない。本当に消えたのだ。

必死に手を伸ばすも何かに触れる気配すらない。


「なんだってんだよッ!!」


いきなりのことで自分でもびっくりするほど大きな声で怒鳴ってしまう。だがこの状況で大声を出したとこれで何も変わらないだろうことは俺にだってわかる。とりあえず現状の確認を急ぐことにする。


現在、猛スピードで落下中。手を伸ばすも何かにふれる気配は無い。


結論。

心の中にも重力なんてのがあるんだなー。

そんなバカなことを思いながらも俺は右手に集中する。


「ジェネレート」


このまま落ちて下に激突しても大丈夫なような気もするが、念には念を入れて補助武装を展開―――


「……あれ?」


いくら待っても光が現れない。もう一度呼んでもやはり変化はおこらなかった。


「うっそー……」


そんな中でも勿論落下が止まっていることなんてないわけで、今現在もかなりのスピードで急降下中。冷や汗が止まらない。

どうしたものかと思案するも、打開策が全く思いつかない。いっそ呪文詠唱してでも魔法を使うか?


補足しておくが、別に魔法は補助武装無しでも使えないわけではない。ただ、魔力の配分が難しいやら、呪文が長いやらでほとんど使う者もいない。そんな苦肉の策があるのだが、なんか下につくまで時間が無いような気がするんですけど……。



俺の予感は見事的中(まあ、当たっても結果が変わるわけではないのだが)。周りは未だに暗闇に包まれているが、俺の頭上――というより(逆さまなので)地面らしきものが何故か光を反射しているのが見える。

いや、あれは……。


「……水?」


よく見ると少し波がたっているようだ。まぁ普通に考えて地面から水に変わったところで死ぬのは変わりないだろう。

そう思うと自然と恐怖心にかきたてられるもので、さっきから顔が徐々に青くなっているのがわかる。何が言いたいかと言うと、


「いぃぃやぁぁだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


情けない程の絶叫を上げながらも落ちていく。つまりいくら今までに危険なことをしてきたからって痛いのは嫌なのだ。それが死ぬほどだとすれば尚更。


そんな必死の訴えでまさか重力に逆らえるはずもなく、俺と水面の距離はものすごい速さで縮まっていき、そして―――


ドッパアァァン!!


俺は真っ逆さまに水面に激突した。





☆☆☆☆☆





「ハアアアアアッ!!」


紅葉が両手に持った刀が一閃し、相手の腹部に食らいつく。

衝撃吸収の結界も完全ではない。相手が死なない程度にダメージを軽減させるだけなのだ。そのため胴体が真っ二つになるわけではない。痛みと衝撃がある程度通るだけなのだが、当然気絶させるには充分すぎる。


防ぐこともできずに横腹に強烈な一撃を決められた対戦相手はそのまま地面に倒れ込んだ。


「勝者!!波風紅葉ッ!!」


今日最後の自らの勝利に多少安堵しながらも、心は保健室で未だに意識を失っている悠希のことが大半を占めていた。

これで紅葉の学年順位は20位台に乗っかったことになる。今のところ勝ち進んでいるのはライラとニコラの二人だけ。綾芽は負けてしまい、順位は64位となってしまったが、本人曰わく「今までより500位以上上がっている」とのこと。悠希の特訓がちゃんと身についていたらしい。


明日からは20位以上を決めるトーナメント。気を抜いていたつもりは無いが、更に気を引き締めていかなければ足下を掬われるだろう。



控え室から荷物を取り、アリーナを出ると既にライラたちが微笑みを浮かべながら待っていた。小走りで駆け寄ると、自然に笑みがこぼれてしまう。


「明日からいよいよ本番ですねっ!!私の分まで頑張ってください!!」

「おいおい、今までがウォーミングアップみたいな言い方だな……」


ライラの的確なツッコミなど気にした様子も無く、激励を送ってくる綾芽。そんな彼女の態度に唇を尖らせて拗ねてはいるが、ライラも満更では無さそうだ。


「しっかし、俺が20位にくるとはな。夢にも思わなかったぜ」

「何言ってるのよ。あんたは実力があるのに集中できてないから順位が低かったのよ」


そんな謙遜を言うライラに今度は紅葉がツッコむ。


実際ライラの実力は第11高校でも屈指の物だ。にも関わらず、今まで目立った成績を残せていないのは、


「……あがり症なのもわかるけどさ。…………勿体無いよね」

「なッ―――!!」


呆れた風に紅葉が言うと、真っ赤になって抗議しだすライラ。そう、ライラは極度のあがり症なのだ。試合になると緊張しすぎてほとんど動けなくなってしまう。


それが何故今日に限ってこうなのかと言うと、やはり悠希の存在が大きいのだろう。

未だに意識が戻らない友人のことを考えすぎるあまり、別のことは考えられない。ゆえに今日は試合に集中できていると言うわけだ。

しばらくそのネタでいじっていると、ふとあることに気がついた。


「そういえばニコラさんは?」


彼女の姿が見当たらない。少し気になったので聞いてみたのだが、何故か全員辺りを見回している。


「あれ?さっきまでいたはずなんだけどね……」

「お姉ちゃんの試合は一緒に見てたよ?」


男の子にしては低い身長で女の子みたいな顔立ちの和彦が可愛らしい仕草で首を傾げ、我が妹ながらも美少女と呼ぶべき桜も首を傾げると、男なら誰しも喜びそうな雰囲気を醸し出していた。

しかし、ここにいる和彦以外の男はライラしかいないのだが、ライラは小学校のときから桜を知っているし、和彦のことを友人と認識しているせいなのか、全く反応を見せない。


まぁそんなことはどうでもいいが、少しニコラが心配になってきた。


ヴー、ヴー。


そんなとき、ポケットに入れておいたケータイが鳴った(鳴ったと言っても、マナーモードにしているためバイブレーションが鳴ったという意味)。

確認すると、ディスプレイには『mail』の文字。



―――――


疲れましたので今日は先に戻ります。

お疲れさまでした。


ニコラ・ベーレ


―――――



簡素な文を読み上げ、ケータイを再びポケットに収めて、メールの内容を話す。


「そうですか。いくらニコラさんでも疲れは溜まりますよね」

「もしかして無理させちゃったかな?……」

「だな。あのでっかい鎌も伝説武器って言ってたし」


綾芽の発言に全員が難しそうな顔になる。ニコラへの罪悪感を抱いたのか、場の空気が重くなる。


「……そろそろ帰ろっか。今考えても仕方無いわよ」


結局そこにたどり着き、紅葉の提案に今度は全員が頷く。そこで桜が思い出したように声を上げた。


「あっ!今日お兄ちゃんのお見舞い行ってないよ!!」

「「「…………あ」」」


ごめんゆう。忘れてた。


慌てて紅葉たちは悠希の眠る保健室へと向かった。

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