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第二部 失われた記憶  第六話 宇宙からの記憶

本作をお読みいただき、ありがとうございます。

「クリプトン」という名を受け入れ始めたさとし。

今夜、彼の魂は時空を超え、遥か遠い宇宙で生きていた頃の記憶へと導かれます。

第二部の幕開けを、どうぞお楽しみください。


その夜、さとしは深い眠りに落ちた。

 夢を見るという感覚ではなかった。

 意識そのものが、静かに身体を離れていく。

 暗闇が広がる。

 しかし、その闇は恐ろしいものではない。

 母親の腕に抱かれているような、温かな静寂だった。

 やがて、一粒の光が現れる。

 その光はゆっくりと大きくなり、無数の星々へと姿を変えていく。

 銀河が渦を巻き、色鮮やかな星雲が静かに輝いていた。

 数え切れないほどの恒星が宇宙を照らし、その一つ一つが生命の鼓動を刻んでいる。

「ここは……。」

 さとしの口から自然と言葉がこぼれた。

 見たことのない景色。

 それなのに、胸の奥では涙があふれるほど懐かしい。

 帰ってきた――。

 そんな思いが込み上げてくる。

 目の前に、一つの青白い惑星が浮かんでいた。

 海は深い瑠璃色に輝き、大陸は翡翠のような緑に覆われている。

 巨大な光の環が惑星を優しく包み込み、まるで宇宙そのものが祝福しているかのようだった。

「エルディア……。」

 その名を口にした瞬間、惑星はゆっくりと近づき始めた。

 意識が吸い寄せられる。

 雲を抜け、大気圏へ入る。

 眼下には、水晶のように輝く都市が広がっていた。

 空には翼のない光の船が音もなく行き交い、人々は穏やかな笑顔で生活している。

 高い塔の屋上には花々が咲き誇り、街を流れる川は透き通る水をたたえていた。

 争いも、怒りもない。

 そこには調和だけが存在していた。

 突然、誰かが肩へ手を置いた。

「久しぶりだな。」

 振り返る。

 一人の青年が立っていた。

 白銀の制服。

 胸には七つの星をかたどった紋章。

 黄金色の瞳が優しく微笑んでいる。

「ゼルグ……。」

 その名を口にすると、青年は嬉しそうに笑った。

「思い出してくれたか。」

 クリプトン――いや、さとしは言葉を失う。

 記憶の扉が少しずつ開いていく。

 二人は光の回廊を歩き始めた。

 窓の外には、青く輝く母星エルディアがどこまでも広がっている。

「懐かしいだろう。」

 ゼルグが静かに言う。

「ここは、お前が生まれ育った世界だ。」

 その一言で、胸の奥に眠っていた感情があふれ出す。

 子どもたちと笑い合った日々。

 仲間と星空を見上げた夜。

 学び舎で未来を語り合った時間。

 すべてが鮮やかによみがえってくる。

「私は……本当にここで生きていた。」

 ゼルグは静かにうなずいた。

「お前は希望の継承者だった。」

「生命樹の光を受け継ぐ者として、多くの人々を導いていた。」

 その時、遠くから鐘の音が響いた。

 澄み切った音色だった。

 街の人々が一斉に立ち止まり、空を見上げる。

 クリプトンも視線を向けた。

 街の中央に、天へ届くほど巨大な塔がそびえ立っている。

 塔全体が黄金色の光を放ち、その頂から一本の光の柱が宇宙へ向かって伸びていた。

「生命樹の塔。」

 ゼルグが誇らしげに言う。

「あの光が、銀河中の生命と調和を結んでいる。」

 クリプトンは静かに見上げた。

 胸の奥が温かくなる。

 ここが故郷。

 ここが、自分の帰る場所だった。

 しかし、その穏やかな時間は突然終わりを告げる。

 空に赤い光が走った。

 街中へ警報が鳴り響く。

『緊急警報。

 外宇宙より未確認艦隊接近。

 全防衛部隊、直ちに配置につけ。』

 平和だった街の空気が一変する。

 人々の表情から笑顔が消えた。

 クリプトンとゼルグは顔を見合わせる。

 二人は無言のまま走り出した。

 展望デッキへ駆け上がる。

 宇宙空間を見た瞬間、クリプトンは息をのんだ。

 漆黒の闇を切り裂くように、巨大な艦隊が現れていた。

 黒い装甲。

 赤く光る無数の砲門。

 まるで宇宙そのものを飲み込む怪物だった。

「まさか……。」

 ゼルグが険しい表情でつぶやく。

「ヴォイド軍……。」

 その名を聞いた瞬間、クリプトンの胸が激しく脈打つ。

 この戦いを、自分は知っている。

 この絶望を、自分は忘れていた。

 そして、この戦いが自分の運命を変えたことも――。

 静かだった宇宙に、戦いの幕が上がろうとしていた。

第二部が始まりました。

第六話では、さとしの魂が宇宙時代の記憶へと導かれ、故郷エルディアと親友ゼルグが本格的に登場しました。

しかし、平和な世界へ静かに迫る「闇の艦隊」。

この出会いが、やがて宇宙の運命を大きく変えていきます。

次回、第七話「約束の星」では、クリプトンとゼルグが交わした大切な約束が描かれます。

あなたの心にも、光の記憶がありますように。

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