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第四話 目覚める魂

本作をお読みいただき、ありがとうございます。

導きの老人から渡された一枚の招待状。

その先で、さとしは自らの運命を大きく変える体験をすることになります。

どうぞ最後までお楽しみください。

 老人から渡された白いカードを、さとしは何度も見つめていた。

 そこには、整った文字で短く書かれている。

『午後七時 光明会館 瞑想室』

 たったそれだけだった。

 地図も、説明もない。

 それなのに、不思議と迷うことなく、その場所へ行ける気がした。


 午後六時五十分。

 夕焼けが群青色へ変わり始めた頃、さとしは光明会館の前へ立っていた。

 二階建ての落ち着いた建物だった。

 豪華でもなければ、特別目立つわけでもない。

 それでも、門をくぐった瞬間、空気が変わった。

 街の喧騒が遠ざかり、心が静かになっていく。

「ここは……。」

 胸の奥が温かくなる。

 まるで、ずっと昔に帰ってきたような懐かしさだった。

 玄関の扉を開けると、一人の女性が笑顔で迎えてくれた。

「こんばんは。」

「初めてお越しになりましたね。」

「はい。」

 少し緊張しながらカードを差し出す。

 女性は軽く会釈をすると、穏やかな声で言った。

「お待ちしておりました。」

「どうぞ、こちらへ。」

 長い廊下を歩く。

 壁には風景画が飾られ、木の香りが優しく漂っている。

 すれ違う人たちは皆、自然な笑顔で挨拶を交わしていた。

 誰も急いでいない。

 誰も怒っていない。

 その穏やかな空気に触れるだけで、張り詰めていた心が少しずつほどけていく。

 やがて、一枚の木製の扉の前で女性が立ち止まった。

「こちらが瞑想室です。」

 ゆっくりと扉が開く。

 柔らかな照明。

 静かに流れる音楽。

 祭壇には白い花が飾られ、室内には十数人が静かに座っていた。

 誰も言葉を発しない。

 ただ、穏やかな時間だけが流れていた。

 さとしは席へ案内され、静かに腰を下ろす。

 すると、部屋の奥から老人が現れた。

「よく来たな。」

 その声を聞いただけで、不思議と安心する。

「私は、何をすればいいんですか。」

 老人は静かに笑った。

「何もしなくてよい。」

「ただ、自分の心へ帰るだけじゃ。」

 部屋の照明が少し落とされる。

「目を閉じなさい。」

 老人の穏やかな声が響く。

 さとしは静かに目を閉じた。

 呼吸だけを意識する。

 ゆっくり吸って。

 ゆっくり吐く。

 何度も繰り返す。

 最初は仕事のことが浮かんだ。

 家族のこと。

 将来への不安。

 昨日出会った老人。

 次々と浮かぶ考えが、やがて静かに消えていく。

 すると、暗闇の奥に小さな光が生まれた。

 星のように小さな光。

 その光は少しずつ近づき、やがて人の姿になる。

 白銀の制服。

 胸に輝く紋章。

 澄んだ瞳。

 どこか自分によく似た青年だった。

「君は……。」

 青年は優しく微笑んだ。

「待っていた。」

 その声を聞いた瞬間、胸が熱くなる。

「あなたは誰なんです。」

 青年は静かに答えた。

「私はクリプトン。」

 その名前を聞いた瞬間、全身に電流が走った。

 夢の中で何度も聞いた名前。

 老人が呼んだ名前。

 そして今、本人が目の前にいる。

「私は……君だ。」

 世界が止まる。

「私……?」

「そうだ。」

「君は地球で『さとし』として生きている。」

「しかし魂は、クリプトンとしての記憶を持っている。」

 次の瞬間。

 無数の光景が一気に流れ込んできた。

 青い惑星。

 巨大な宇宙都市。

 仲間たちの笑顔。

 白く輝く神殿。

 宇宙船エルディア

 そして、一人の青年が振り向く。

 黄金の瞳。

 黒い髪。

 力強い笑顔。

「ゼルグ!」

 思わず叫ぶ。

 青年も笑っていた。

「久しぶりだな、クリプトン。」

 その瞬間だった。

 世界が白い光に包まれる。

 さとしは勢いよく目を開いた。

 肩で息をしている。

 額には汗がにじんでいた。

 瞑想室は静かなままだった。

 老人が目の前に立ち、穏やかに微笑んでいる。

「思い出したか。」

 さとしは震える声で答えた。

「夢じゃ……ありませんでした。」

「私は……本当に……。」

 老人はゆっくりとうなずく。

「魂は、時が来れば目を覚ます。」

「今日のお前は、その第一歩を踏み出した。」

 さとしは静かに胸へ手を当てる。

 鼓動の奥から、確かに温かな光があふれていた。

 その光は、小さく、しかし確かな希望の輝きだった。

 ここから、自分の運命が大きく動き始める。

 さとしはそのことを、まだ知らなかった。


第四話をお読みいただき、ありがとうございました。

ついに、さとしは瞑想の中で「クリプトン」と出会い、魂の記憶が目覚め始めました。

次回「第五話 クリプトンの名」では、宇宙で交わされた約束と、さとしの本当の使命が少しずつ明らかになります。

作品を気に入っていただけましたら、ブックマークや評価、ご感想をいただけると励みになります。

あなたの心にも、光の記憶がありますように。

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