あれを食べたい……!(前編)
この世界に転生した私は。
成長する過程で度々思っていたのだ。
「鮭のおにぎり食べたい」
「ラーメンと餃子食べたいよ」
そのことを両親……母親であるアナ、父親であるリベルタスに話すと。
「分かるわ。母さんもラーメン、食べたいわ!」
「そう言われると父さんも、食べたい気持ちになったぞ」
両親は私の気持ちに共感を示し、そして……。
「完全な中華風のラーメンは、無理かもしれないわ。とにかく原材料が、この世界では揃わないから……。でも……やってやれないことは、ないと思うわ」
「そう言えば母さん、洋風ラーメン!とか言って作っていなかったか?」
「あ、そうね! クリスマスに洋風ラーメン、食べたわよね」
「なんだか懐かしいわ」となり、両親は前世での思い出を語り出し、なんだかラブラブ!
娘の前よ!ということで私が咳払いをすると、二人は慌てている。
でもその様子、私は何だか嬉しかった。
やっぱり表面的に取り繕っていた転生直前の両親より、今のラブラブな方が断然いい!
ということでラブラブな両親と共に、ラーメン作りに挑戦することにしたのだ! この西洋風なドレスと魔法の乙女ゲーム『ラブ・マジック~魔法学園で恋をしよう!~』(通称“ラブマジ”)の世界で!
「汚れるといけないから、これを着るといいわ、茜」
母親が用意してくれた服に着替えると……。
黒のワンピースに白のエプロン。
なんだかコスプレして、メイドになった気分だ。
しかも母親も同じ服=メイド服。
親子でメイド服にコスプレなんて、なんだかシュール!
一方の父親も、白シャツに黒のテールコートと、こちらはバトラーみたいな姿。
前世の父親の姿でバトラー……ない、ない、ない、ないっしょ!
でも今の若くてイケメンなリベルタスでなら、断然アリ!
まったく父親をイケメンと思う日が来るなんて……。
笑いが止まらない。
というわけで。
ディアス男爵家の屋敷の厨房には、母親、父親、そして私しかいない。厨房貸し切りで、洋風ラーメン作りにチャレンジだ!
「実はスープは昨日、仕込んでおいたわ。鶏肉や豚肉の骨、ニンジン、タマネギ、セロリ他いくつかの野菜。タイムやローズマリーといったハーブ、塩コショウを加えて、コトコト煮込んだの。旨味が染み出て、極上の洋風ラーメンのスープになっているはずよ」
「さすがお母さん! やるじゃん!」
「でもこれから麺を作るから。三時間ぐらいかかるわよ」
三時間!
ラーメンの麺って、作るの大変だったんだ。
でも手作りだもんね。
「大丈夫よ、お母さん。だって今、8時でしょ。余裕、余裕!」
つい気持ちがワクワクし、前世のノリになってしまう。
「そうね。生地作りはお父さんに頑張ってもらわないと」
「それは任せておけ。この世界で父さん、細マッチョだからな!」
お父さんが細マッチョ!
吹き出しそうになるけど、事実なんだよね、コレが!
ということで麺づくりスタート!
小麦粉、水、塩、それに卵だから、材料自体はシンプル。これを混ぜ合わせ、こねる。
麺づくりは父親に任せ、母親と私はチャーシューに似た豚肉料理作り。こちらも母親が下味をつけ、漬け込んでくれていたので、竈で焼くことにする。
「よし。出来たぞ。これを1時間程、寝かせるんだろう?」
父親が額の汗を拭い、笑顔になった。
普通に爽やかイケメンになっている、お父さんが!
「ええ、そうよ。この世界はラップがないから、湿らせた布で包んで、生地を休ませましょう」
母親は文明の利器がなくても、ちゃんと代用品を思いつける。
それは主婦をやっていたから? 私はスマホで調べないと思いつけない!
さらに。
この後、生地を伸ばすことになるので、父親が道具をテーブルに用意しているが……。
なんと麺棒は父親の手作り!
前世でもたまにDIYをやっていたけれど、この世界でも父親は、手先が器用だった。
生地を寝かせている間に、チャーシューもどきを焼き続け、トッピングにする野菜を刻む。
そうしていると、あっという間に時間が経ち、父親が生地を伸ばし始めた。
見るからにバトラーの父親がエプロンをつけ、ラーメンの生地を麺棒で伸ばしている……。
これを見た私は、何度も吹き出し、笑ってしまう。
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