38話:これで攻略完了と思ったその時
「私もあなたの真実の愛に応えます……」
アナがジャレッドの言葉に応じた。
これは私が知るゲームのシナリオ通りの展開だ。
これで攻略完了と思ったその時。
「そう答えると思いましたか? 答えるわけがありません!」
ヒロインであるアナが、突然の反逆を始めた……!
「婚約者がいる身でありながら、私にしつこくアプローチしてきたイートン令息には、ずっとウンザリしていました! 彼の執拗な追い回しの記録を、読み上げたいと思います」
これには令嬢令息が再びざわざわする。
「確かに婚約者がいるのに、真実の愛も何もないわよね」
「冷静に考えると、ヒドイ言い分だわ」
「それに婚約契約書があるのに、真実の愛で婚約破棄なんてできないだろう……?」
尤もな意見だった。
その一方でアナは、従者兼護衛のリベルタスから書類を受け取り、ジャレッドの執拗な追い回しの記録を読み上げ始めた。
私は学園でしか、ジャレッドのアナへの言動を見ていなかった。だがそれだけではなかったようだ。ジャレッドは放課後や朝の登校時もアナに付きまとっていた。それは前世で言うなら、完全にストーカー!
さすがにアナの両親も心配し、騎士見習いであるが、アナと同い年のリベルタスを従者兼護衛としてつけることにした。アナが学校にいる間は、リベルタスも騎士見習いとして訓練を積んでいる。でもそれ以外はジャレッドの付きまといからアナを守るため、リベルタスは可能な限り、彼女のそばについていたのだ。
ジャレッドのつきまといの事実を知った令嬢令息は皆、青ざめるしかない。
「怖いですわ……」
「屋敷の庭に現れるなんて、不法侵入では!?」
「毎朝迎えに来るなんて……頼んでもいないのに、なんてつきまといを」
ジャレッドの言動は、特にアナと同じ令嬢達を震撼させた。
「イートン令息。あなたの愛は、真実の愛ではありません。狂愛です。執拗に追い回され、この一年近く、私は心身が休まる時間がありませんでした。何よりも婚約者がいるのに、他の女性に色目を使うなんて、大迷惑ですから!」
アナにバッサリ斬られたジャレッドは「そんな、アナ。私は君を愛していたんだ……!」と縋りつこうとするが、リベルタスが間に入り、それを阻止する。
その上で、リベルタスはキッパリとこう告げた。
「イートン令息。いい加減、止めていただきたいです。これまでずっと黙っていましたが、この後、アナ男爵令嬢は社交界デビューを果たし、大人として認められることになります。そこで正式に発表するつもりでしたが、あなたは彼女の話を聞いても、まだ目が覚めないようです。ディアス男爵からは、もしもの時は公にしていいと言われています。よって明かさせていただきましょう」
リベルタスはそう言うと、アナを抱き寄せた。
「自分はアナ男爵令嬢と婚約します。それは彼女が五歳の時に取り決められていたことです。ただ、まだ幼い二人。何が起きるか分からないということで、正式な婚約はお互いが社交界デビューを果たし、大人として認められてから……ということになっていました。彼女の心があなたに向かうことはありません。いい加減、目を覚まし、諦めてください」
「そんな……」
ジャレッドはそう言いつつも、アナに手を伸ばした。
だがそのジャレッドの肩に手を乗せ、動きを止めさせたのは……セシリオ!
今日の社交界デビューにあわせ、セシリオは純白のテールコートにアイスブルーのマントを合わせていた。それは金髪碧眼の彼によく似合い、眩しい程の美しさ。令嬢達からため息が漏れている。令息もセシリオに目が釘付けだ。
「今日は多くの令嬢令息が社交界デビューのため、この宮殿で行われる舞踏会に参加する。陛下もそのため、準備されているんだ。そのような場で、私事で騒ぎ立て、挙句、嫌がるレディに言い寄る。そんなことが許されるわけがない。申し訳ないが、王太子の権限を以てして、君にはここから退出してもらう」
ジャレッドは「えっ……」と凍り付く。
「ディアス男爵令嬢。イートン令息が行った付きまといの記録を僕に預けていただけないだろうか。イートン公爵にも本件を伝え、厳重な処罰を下してもらうことにする」
「かしこまりました、殿下。リベルタス、書類をエール王太子殿下に渡してください」
「了解です、お嬢様」
セシリオはリベルタスから書類を受け取ると、自身の近衛騎士に命じ、ジャレッドをエントランスまで見送るように告げる。
「で、殿下、お待ちください。アナのことは諦めます。大人しくキャンデル伯爵令嬢と結婚します! どうかその書類は返してください。そして両親に伝えるのはお止めいただけないでしょうか!」
近衛騎士に連行されながらもジャレッドが必死に叫ぶ。
私はこの期に及んで、何を言い出しているの!?と目を剥くことになる。
だが。
「イートン令息。これだけの証人がいるんだ。なかったことに――などできるはずがない! 君はキャンデル伯爵令嬢と婚約破棄した。そしてディアス男爵令嬢にしつこくつきまとっていたんだ。すべては白日の下にさらされた。明日の新聞では君のことで、持ち切りになるだろう。おめでとう」
セシリオが拍手を始めると、その場にいた全員が拍手をする。
つまり証人としてセシリオが言ったことを支持する――ということだ。
ジャレッドは言葉を失い、ホールから出て行った。






















































