37話:いよいよ始まる――。
ジャレッドがアナを伴い、ホールの中央へ移動していく。
リベルタスは少し離れた場所に控えた。
いよいよ始まる――。
「キャンデル伯爵令嬢。隣室で飲み物の用意があるそうですよ。まだ時間もあるので、行ってみますか?」
ヴェルナーの言葉に頷きそうになるが、ダメだ。
そんなことをしている場合ではない。
というか頷いて移動しようとしても、シナリオの強制力が働き、ホールからは出られないはずだ。婚約破棄と断罪が終わるまで。
そう思ったまさにその時。
「みんな、聞いて欲しいことがある。私はこれから重要なことを発表するつもりだ。私の名はジャレッド・イートン。イートン公爵家の嫡男だ!」
いきなり名乗りから入った。
もう心臓がバクバクしている。
「なんでしょうね。君の婚約者は何かやらかすつもりなのでしょうか」
ヴェルナーはこれから起きることを、何も知らない。
とても牧歌的にジャレッドの方を見ている。
ヴェルナーの視線の先にいるジャレッドの周囲には、空間ができつつある。
皆、公爵家の嫡男が何を始めるのかと、興味津々だ。
「エマ・リリー・キャンデル! そこにいるのだろう。こっちへ来るんだ!」
心臓が止まりそうになった。
こうなる流れとは分かっていても、とんでもなく緊張し、恐怖を感じている。
体はすくみそうになるが、シナリオの強制力により、私は歩き出していた。
「!? 何をするつもりなのですか!?」
ヴェルナーの声がするが、ジャレッドは無視している。
今、この場の主人公はジャレッドと私だ。
ヒロインの攻略対象であるヴェルナーでさえ、その存在は無視されている。
自然とモブ扱いになる令嬢令息が道を開けてくれるので、私はジャレッドとアナの前に出ることになった。
心臓がもう爆発しそうだ。
嫌がらせはすべて不発に終わっていた。
不発……というか、私はシナリオ通りの嫌がらせを実行している。
だがアナはダメージを一切受けていない。
よってジャレッドは「嫌がらせをしようとした」ということで、断罪するだろうと予想していた。
だが――。
「キャンデル伯爵令嬢。僕は君と婚約破棄し、ここにいるアナに、真実の愛を捧げたいと思っている。この気持ちを結実させたいと思っているんだ!」
これにはざわざわと令嬢令息がざわつく。
「なぜですの?」「え、真実の愛のために婚約破棄?」
「そんな理由で婚約破棄なんて許されるのですか?」
このざわめきの内容に私も激しく同感だった。
ジャレッドはなぜ婚約破棄の理由を言わないのか?
いや、言っている??
真実の愛を見つけた。だから私との婚約破棄をしたいと言っている??
言って……いるんだ。
それで婚約破棄ができると思っている。
そこで瞬時に悟る。
シナリオの強制力で婚約破棄を訴えているが、説得力のある理由がないんだ。
さらにこれは間違いなく、自身の両親には話していない。
私と婚約破棄するつもりであることを。
これで婚約破棄は成立するのだろうか!?
……成立する!
だってこれだけ沢山の証人がいるのだ。
なかったことにはできない。
「聞いているか、キャンデル伯爵令嬢! 私は偽りの結婚をするつもりはない。心から好きと思える相手と結婚をするんだ。だから君との婚約は破棄! 以上だ。返事は!」
断罪話は出てこない。
婚約破棄が出来て、断罪はなし。
これは……願ったり叶ったりの展開ではないですか!
結局、嫌がらせはしたが、アナがダメージを受けていない。そこで断罪することを、ジャレッド……というかこのゲームの世界が諦めたのね。
ならばここは、こう答えるまでだ。
「分かりました。真実の愛に生きたいというイートン令息を止めるわけにはいきません。イートン令息からの婚約破棄、確かに受け入れました」
私の返事にジャレッドは満足気な顔になっている。
「アナ・ココ・ディアス男爵令嬢。これまで辛い思いをさせたね。私が婚約しているばかりに。でも、安心するといい。これからは君と真実の愛に生きる」
ジャレッドがアナの手を握り、自分の方へと抱き寄せる。
「私もあなたの真実の愛に応えます……」
アナがジャレッドの言葉に応じた。
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