25話:その心は?
ロイヤルブルームーンストーンのイヤリングをジャレッドと私は競り合った。
それに対し、セシリオはレディファーストではないが、自身が婚約者である立場を踏まえたら、私に譲るべきだったと言ってくれた。
セシリオがそんな風に考えてくれたことに胸が熱くなる。
「なるほど。その意見は一理ありますね。……では殿下があの場で手を挙げた心は?」
ヴェルナーに問われたセシリオは「それは……」と言った後、肩をすくめた。
「見ていて痛々しかった。だってもう限界の値段まで吊り上がっていた。僕はこう見えて王族としてロイヤリティーの収入がある。僕のお墨付きを使わせることで、使用料を払ってもらっていてね。滅多に許可は出さないよ。それでも僕が実際に使用し、食べ、本当にいいと思ったものに許可を出している。それはもう子供の頃から続いており……。結構な金額が毎月の収入としてある」
「なるほど。殿下であればあの金額は、懐に響く額ではなかったのですね。ですが競り合う二人は限界に近い状態。見ていられなくなったと。ある意味、喧嘩両成敗で、手を挙げたのですね」
ヴェルナーの指摘にセシリオは頷く。
「勝手なことをしたと思う。でもどちらかが落札しても、噂がついて回る。そうなるよりは、僕がとんびのように突然かっさらったら、皆、驚きはする。だが、何も言えないだろう?」
それはその通りだった。
私が落札すれば嫉妬女と揶揄されるだろう。
ジャレッドが落札すれば浮気男と思われ、私は浮気されている可哀そうな女と思われる。社交シーズンが始まり、舞踏会や晩餐会に参加している保護者も多い。彼らはその場で私やジャレッドのことを面白おかしく噂することだろう。
ちなみに。
ジャレッドがアナに懸想していることは、彼の両親であるイートン公爵もさすがに知っていると思うのだ。それでも何か言わないのは、この世界の独特の価値観のせいだと思う。
この世界は宗教上の理由から、離婚を認めていない。
だから貴族は男女問わず愛人を持ち、それが黙認されている。離婚できないのだ。ガス抜きのようなものなのだろう。
ジャレッドは私と婚約しており、それを違えるなどとは言っていない。今のところ。よって彼の両親も、特にイートン公爵は「愛人の一人や二人ぐらい、いても構わない」と思っているのだろう。
それはさておき。
今回、セシリオが落札してくれたことで、ジャレッドと私の名誉は守られたことになる。ここは「ありがとうございます」というところなのだ。そこで改めてそれを伝えると……。
「いえ、事前に相談もなく、勝手に動いてしまったので……申し訳なかったと思う。すまなかったね、キャンデル伯爵令嬢」
セシリオが恐縮するので、驚いてしまう。
だがそうしている内に馬車はレストランに到着。
この話はここで終了となった。
◇
チャリティーオークションは引き分けとなったが、これはゲームでも存在していたパターンだった。ゆえに一応はシナリオ通りに進行した形だ。
そしてその後は些末な嫌がらせをちょいちょい私がしており、でもそれはアナの瞬発力や抜群の運動神経により、回避されている。ただ、私は嫌がらせの行動を実際にしているので、シナリオには逆らっていない。
そうしているうちにイースター休暇に突入した。
イースター休暇は前世で言うなら春休みにあたる。
二期制の学園でも、三週間の休みがあった。
この三週間を使い、貴族の令嬢令息は国内旅行を楽しむ。
丁度、春が始まる季節で、花が美しく咲く。
自然を愛でるため、王都を離れ、地方にある別荘で過ごす貴族もいるのだ。
王都に残った貴族は、イースターのイベントを楽しむ。
その代表的なものの一つが「イースターエッグハント」だ。
ペイントした卵を隠し、それを見つけ、発見した数に応じ、プレゼントがもらえるというものだ。
そのイースターエッグハントへのお誘いの招待状が届いた。
しかも送り主は……セシリオ・レグルス・エール!
なんとセシリオから。
しかも開催場所は王宮の庭園!
宮殿の庭園は、一般開放されており、日中であれば王都民も入場できる。対する王宮の庭園は完全に王族のためのもの。宮殿の庭園との境目には二十四時間体制で警備兵がいる。そしてそこは貴族であっても王族からの招待なくして入ることができない。
そんな場所で行うイースターエッグハントに招待してもらえるなんて!
しかもイースターエッグハントはゲームには登場していないイベント。
ゲームの進行とは関係ないのだ。シナリオを気にせずに楽しめる!
何より貴族の一員であるのだから、王族からの招待はとても光栄なこと。
早速、出席を知らせる手紙を送り返す。
そして……。
せっかく王宮の庭園に行くのだ。
ここは目一杯お洒落をしよう!
イースターエッグをペイントする時、使われる色は五色ある。イエロー、ホワイト、ピンク、グリーン、パープルだ。自分の瞳の色を考えると、ついパープルを選んでしまうが。今回は普段選ぶことが少ないイエローのドレスを着ることにした。
柔らかい色合いのイエローの生地に散りばめられているのは、空色の小花。立体的に作られた小花と花びらが、身頃からスカート上部にかけ飾られている。ウエストにはターコイズグリーンのリボンが、いいアクセントになっている。
髪はサイドポニーテールにして、ウエストと同色のリボンで飾った。
準備は完璧!
ご機嫌で屋敷を出た。