23話:プロ顔負けのトーク
ホールはほぼ満席。
ジャレッドとアナは一階中央席で、特等席。
これはヒロインラッキーだろう。
ヴェルナーとセシリオと私は二階席の最前列。
おかげでジャレッドとアナの様子がよく見える。
つまり邪魔もしやすいということ。
これはシナリオの采配だろう。
「紳士淑女の皆さん、本日はようこそお越しくださいました。今から王立エール魔法学園の伝統あるチャリティーオークションを始めさせていただきます!」
司会の令息が開幕を宣言。
するとステージの真下にいる、オーケストラ部の学生たちが軽やかなメロディを奏でる。そこに宝石箱を手にした、真紅のドレス姿の令嬢が現れた。
「それでは早速、始めましょう! まず、一つ目はこちらです!」
ステージ中央に置かれた演台に、宝石箱が置かれた。
令嬢が宝石箱を開けると、「おおおっ」とどよめきが起きる。
「これは……見ましたか、皆さん! 最初から大変素晴らしいお宝です。これはとある公爵家に代々伝わる宝石の一つ、“麗しのレディのため息”と呼ばれる逸品。まさか、まさか、このオークションに登場するとは! それでは大変な貴重な品ですから、十万ゴールドからスタートしましょうか」
司会の令息は、まるでプロ顔負けのトークをしている。
会場はいきなり熱気に満ち、活発に動く。
番号札を掲げ、セリ落とす金額を口にした。
次々と手が上がり、すでに三百万ゴールドに達している。
でもそれだけではまだまだ足りないだろう。
“麗しのレディのため息”と言われるルビーの宝石。
まだ宝飾品に加工前の原石。
持ち主はイートン公爵家だ。つまり出品者はジャレッド!
宝石自体があまりにも美しく、加工するのが惜しいと、原石のまま公爵家の宝物庫に眠っていた。そんな物が学園のオークションにと思うが、イートン公爵家なのだ。この程度の宝石を出品したところで、名誉となっても、損することはない。
黒の仮面<アイマスク>をつけているので、ハッキリとした表情は分からなかった。だがジャレッドは今、ドヤ顔だろう。
「おおお、遂に出ました一千万ゴールド! どうですか、他にはいませんか!」
会場の熱気に、セシリオが苦笑する。
「いきなり一千万ゴールドが出るなんて。これだと一般のオークションと遜色がないね」
一千万ゴールド。それはすなわち前世の一千万円とイコールだ。
これが学生のチャリティーオークションとは、にわかには信じられない。
だが通うのは王侯貴族の令嬢令息。これも妥当なのかしら!?
「出ました! 二千万ゴールド! どうですか、おっと、二千百万ゴールド!」
最終的な落札金額は七千万ゴールド!
なかなかの値段だ。
だが高額落札は、この後も続く。
一億ゴールドという破格で落札されたのは、黄金の盃! しかも宝石がいくつも埋め込まれている。こんなものを出品できるのは……。
「宝物庫の端っこで、埃を被っている物でいいから、送って欲しいと父君に頼んだのですが……。まさかこんなに価値があるとは。父君は知らなかったのでしょうか? でも落札されましたからね、既に」
ヴェルナーは快活に笑っているが、会場はもう興奮冷めやらない。
給仕の男女役の生徒が歩き回り、飲み物のオーダーを受け付けているが、飛ぶように売れていた。
「キャンデル伯爵令嬢も飲み物はいかがですか? ザクロジュースがあるそうですよ」
セシリオが私を見て微笑んだ。
ザクロはエキゾチックな飲み物として、貴族には人気だった。
「そうですね。熱気に当てられ、喉も乾いたので、注文します!」
「了解です。ホルス第二皇子もザクロジュースでいいかな?」
「ええ。今回は殿下のおごりですか?」
「当然です」
こうしてセシリオがご馳走してくれたザクロジュースを飲みながら、再びステージに目を向けると……。
私が出品したオルゴールが登場した!
一応宝石もついているが、“麗しのレディのため息”や黄金の盃とは比べ物にならない。
もっと高価な物を出品すればよかった……と思っていたら!
オルゴールに付属している陶器のダンスをする人形。
これが有名な陶磁器メーカーのものと判明。
しかもアンティークとしての価値も認められた。
その結果。
まさかの五百万ゴールドで落札されたのだ。
これには驚き、「まさかこんなに高額で落札されるなんて」と呟いてしまった。
するとこの呟きを聞いたセシリオは……。
「え、あれはキャンデル伯爵令嬢が出品したものだったの!?」
驚きの声をあげる。
「え、ええ。実は」
「そうか……。なんだ、落札すればよかった……」
「えっ!?」
「あ、その、妹が、そう、妹のプレゼントに」
「ああ、なるほど」
そんな会話をした直後だった。
「いやあ、皆さん、いいお買い物はできていますか? ここで再び目玉商品の登場です」
真紅のドレスを着た令嬢が、小ぶりの宝石箱を手にステージに登場した。宝石箱は小ぶりだが、それは黄金製。そしてその宝石箱を私は知っていた。
心臓がドクンと大きな音を立てる。
ステージ中央の演台に宝石箱が置かれ、令嬢が蓋を開けた。
「こちらはロイヤルブルームーンストーンのイヤリングですが、宝飾品としての価値に加え、逸話が有名なものになります」
これだ。これがジャレッドが競り落とそうとするイヤリング!
「こちらの元々の持ち主は、今は失われたと言われているエルフの王。彼は人間の女性に恋をして、求婚の際、このロイヤルブルームーンストーンのイヤリングを贈ったと言われています。とある一族の手に渡り、これまで宝物庫で眠っていたそうです。ところがこのまま眠らせておくのはと、今回、出品されました」
「ほおっ」という声が会場で波のように起こる。
「ということで、ロイヤルブルームーンストーンの平均相場である、一万ゴールドからスタートしましょう!」