11話:課外授業
十月になると、魔法薬草学の課外授業が実施されることになった。
学園の敷地内には温室があり、魔法薬の授業で使う薬草が栽培されていた。そこに加え、温室の後方に広がる森。学園の敷地内とは思えない広大な森があるのだ。
今回はその森の入口でテントを張り、一泊二日で課外授業を行うことになっている。
森の中で指定の薬草を採取し、調合するというものだ。
チーム分けは四名でひとチーム。
くじ引きで行われたが……。
私は3班で、メンバーはジャレッド、アナ、セシリオ。
今回のお泊りありの課外授業。
ゲームでは一大イベントになっていた。
ただチームメンバーはセシリオではなく、ヴェルナーだったはずだ。
微妙にシナリオと違う。
だがそんなことお構いなしで、その日を迎えることになった。
森でのキャンプとなるので、服装はいつもの制服ではなく、動きやすさを重視。つまり体育や体育祭の時に着ている白シャツにワイン色のジャケット、そして黒のズボンだ。
いつもの鞄ではなく、トランクに着替えや魔法薬や薬草についての本を詰め、出発となる。
学園に着き、トランクを手にまずは温室の方へ向かう。
そこで点呼をとっており、トランクから必要なものを取り出し、預けてしまう。預けられたトランクは、テントへ運んでくれる。そしてここでチームメンバーとも合流することになっていた。
「おはようございます、キャンデル伯爵令嬢!」
私と同じ装いのアナが、明るく挨拶をしてくれる。
その様子はただのクラスメイトにしか思えない。
自分が悪役令嬢で、アナがヒロインであることを忘れてしまいそうだ。
でもアナの隣に陣取る、白シャツに黒のジャケットとズボンのジャレッドが、ムスッとした顔で「おはよう」と私に言うことで、自分の立場を思い出す。
「おはよう、みんな! 今日は天気に恵まれた。楽しく頑張ろう!」
朝から爽やかな挨拶をしてくれるのは、セシリオだ!
金髪がサラサラと揺れ、碧眼は秋晴れの空より澄んでいる。
ジャレッドと同じ装いをしているのに、洗練された雰囲気が漂って見えるのは、推しフィルターが起動しているからかしら?
「おはようございます、セシリオ殿下、キャンデル伯爵令嬢」
「おはよう、ヴェルナー」
「おはようございます、ホルス第二皇子殿下」
ヴェルナーもまた、セシリオ達と同じ装いだが、高貴なオーラが漂い、素敵に感じる。
「君たち二人と同じチームではなく、残念だよ」
煌めく銀髪をかきあげながらそう呟くヴェルナーにドキッとする。
確かにゲームのシナリオとは違うので、彼の気持ちがよく分かってしまう。
「でも夜のスターナイトは全クラス合同だろう? 日中は遊んでいる暇はないと思う」
それはまさにその通りだ。
薬草を探すのは手間がかかる。
というのも薬草は擬態していることが多いからだ。
擬態というのは、受粉してくれるミツバチや蝶以外に狙われないよう、彼らがいない時は枯草や棘のある植物に姿を変えること。魔法が存在する世界だが、植物まで魔法のような力を使えることは驚きでしかない。
それに。
この課外授業で、悪役令嬢であるエマはヒロインであるアナにいろいろ悪さを仕掛けるのだ。
「それでは皆さん。人数が揃ったチームから、先程配布したリストの薬草を探しに、森へ入っていただきます。男子生徒は帯剣していると思いますが、不必要に抜くのは禁止です。女生徒は配布した魔法弾を、不急不要では使わないように」
教師の言葉に生徒達は森の入口へと移動となる。
ちなみに魔法弾というのは、魔力が強い人が、自身の魔力を込めて作った魔法アイテムの一種。ピン玉ぐらいのサイズで、投げつけると魔法が起動した。一回限りではあるが、魔法弾の色により、炎を発生させたり、水を噴出させたり、光を発するなどが可能になっている。
「帯剣……していますが、食虫植物は今回、さすがにいないですよね?」
森の入口まではチーム行動は必須ではないので、ヴェルナーもセシリオと私と並んで歩き出していた。そして今、まさに疑問を提起し、それにセシリオが応じる。
「学園の敷地内にある森だから、危険過ぎる薬草は排除していると思う。でも擬態ができるから……。食虫植物に擬態している薬草もあるだろう」
「なるほど。擬態しているだけだから、捕食するつもりはない。でも酸性の消化液で、近づく人間や動物を追い払おうとするかもしれないと言うことですね」
「そうだね」とセシリオが頷く。
「食虫植物に擬態できるということは、相当強い魔力を持つ薬草ですよね。でも今回採取指定されている薬草は、4つのランクのうち、レベル1と2のものばかりです。食虫植物に擬態できるのはレベル3か4ですよね。食虫植物自体がレベル4で」
「キャンデル伯爵令嬢はちゃんと予習ができているね。そして君が言ったことが正解。そうなると帯剣しているけど、使うことなく終了かな」
セシリオがそう言ってウィンクをしたところで、森の入口に到着した。
「ではセシリオ殿下、キャンデル伯爵令嬢。また後程」
ヴェルナーは自身のチームの方へと移動する。
本来は一緒のチームだったヴェルナーが同じではない。
それがどんなことを引き起こすかなんて、この時の私はまったく想像できていなかった。