ま、まままままままままさか、ま、ままま魔王リリム……?
「しかし、この時期にこんなに立派な宿を確保できるとは、さすがは王国の官吏ですね」
そう言いながら赤い髪の女性が「どうぞ」とお茶請けを出してくれたので、カーンは「こりゃどうも」とどれを口に入れた。
「もともと王室で確保していた宿のひとつだったんですよ。多くは王国崩壊のゴタゴタで契約もあやふやになっていたんですけどね、ここの主は律儀な男でして」
「でも、リリムさまにふさわしい部屋じゃない」
そう言ってきた銀髪の少女に幼女が反論する。
「そうは言ってもお前らが予定より三日も早く来るのが悪いんだぜ。それとも何だ、野宿の方が良かったか?」
との指摘に銀髪少女はぶんぶん首を振る。
「もともと早く来る事になったのはフェンが小屋を壊してしまったからですからね」
「うぅ、リリムさま、いじわる……」
フェンと呼ばれた少女の反応に少女たちが笑う。
「ははは。まあ、往々にして想定外のことはあるものです。そのために我々文官は――」
とそこまで言ったところで言葉が止まった。カーンの顔がみるみる青くなる。
「い、いいいいいいい今リリムと……?」
機械仕掛けの人形のようにぎこちなくカーンの顔が赤い髪の少女の方を見た。少女はにっこりと笑い、
「はい、リリムですよ」
その瞬間、カーンは持っていたお茶ごと椅子をひっくり返して尻から床に落ちた。そのまま腰がひけたように手を前方にかざす。
「ま、まままままままままさか、ま、ままま魔王リリム……?」
その言葉にフェンと呼ばれた銀髪の少女がカーンを睨み、「リリムさまと呼べ」と呟いたが、リリム自身がそれを制した。
「わたしもメリアさんと同様、ただのリリムです。そう呼んで下さい、カーンさん」
とはいうものの、カーンは黒髪の幼女の後ろに隠れてぶるぶる震えだしてしまった。
「そういや説明してなかったな……」
幼女が頭を掻きながら失敗を認めた。
「そんなことより、リリムたん達も合流して全員が揃ったのじゃ。今晩は前祝いと称してぱーっとやれんのかの?」
「おっ、いいな! ご馳走とか用意してな」
「ごちそう……?」
青紫髪、黒髪、銀髪、三人の幼女が揃ってカーンの方を見ている。こと、こういう段取りについてはこの男の専門分野だ。それまでのおどおどした様子とは異なり、
「お任せ下さい!」
と胸を張ったのだった。




