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白き狐は血に染まる  作者: 十五夜
2/15

壱ノ巻




「エゾ……確か日の国の北に位置する雪の島……」

「それぐらいは、知っておるかぁ」

「話だけは聞いていた」


以前、身を置いていた日の国と交易は盛んだったので覚えている。来たことは無かったが、神々が住まうと言うことは人伝(ひとづて)に聞いた事があった。


「だが、何故俺はここに……」

「気になるか、そうじゃろうなぁ……。付いてこい……面白いものを見せてやろう」


言うと老人は出てきた所とは違う、別の洞窟に入って行く。さっきとは違い、ゴツゴツとして非常に荒い岩肌。

何やら不吉な空気が充満し、まるであの世を思わせる。


蛍石(ほたるいし)を出しておれ……ここは先の場所のように、明かりは無いのでな」

「……分かった」

「迷わんように、しっかりついて来い……」


(ヌエ)は蛍石を出し、同じように白狐(びゃっこ)も蛍石を出して手に持つ。辺りが照らされ視界が確保できるが、それでも前も後ろも闇ばかり。

所々に見た事の無いようなあるような草が生えているが、それ以外には何も無い。


「ここにはな……貴重な薬草が生える。だからワシはここに来る。

さぁ、到着じゃ……」

「―――これは?」


歩みを止めた鵺の横に並び初めて気付いた。

川が流れている。

しかしながら不思議なことに、水の流れる音がしない。それも不思議だが、この川の流れは逆なのだ。下から上に向かい、流れている。


「……不思議じゃろ?この川には、憑かれて死んだものが、魂が流れて行く……」

「……何処に流れてるのだ?」

「分からん……あの世か、別の世か……流されてみれば分かるかもな……。

とにかくだ、お前さんはここの川辺に倒れていた」


黒々とした川。

水の音の代わりに呻き声が聞こえそうな不気味さ、背に嫌な汗が流れる。

ここに自身は倒れていたのか。


「俺は……死んだのか?」

「いんや、お前さんは生きとる……。そうじゃ、右の手の包帯、ちょっと解いてみ」


言われて解き、目を見開いた。

まるで蛇が締め付けているかのように、白い肌に青黒い(あざ)ができている。袖を上げてみれば肩の辺りにまで届いていた。


藍憑(あいつ)き……怨念(おんねん)が流れず、世に邪気(じゃき)が溢れとると、憑き物が強力になる。その一種が藍憑き……それ程の物を見るのは、ワシの長い人生の中でも二度しかない……。

お前さん……いったい何と戦いよった?」


言われて思い出そうとするが思い出せない。

だか、思い出せない何かが自身をここに流れつかせた原因だろう。


「……これがあると、どうなる?」

「藍憑きはどの()き物より強力じゃ、普通は死ぬ……じゃが、お前さんは生きとる……おかしき事じゃ」


鵺は来た道を戻り、白狐も包帯を巻きながらあとを追う。


「しかし憑き物という物は……何も悪い事ばかりではない……。どんな憑き物でも、宿主にいろんな形で、力を与えよる」

「力を与える?」

「まぁ、死ななければの話じゃがな」

「ならば都合がいい……俺には倒すべきものが居る……」


洞窟を出て、白い息を吐きながら強く言う。

忘れることの無い、忘れられない敵の姿が脳裏に浮かんだ。


「俺は(いにしえ)(みやこ)に戻らなければならん……」

「古の都、(きょう)か、なるほどな……その藍憑きに、鍛えられた身体……(けが)()りじゃろ、お前さん?」

「……そうだ」

「それで京とくれば、九尾(きゅうび)の狐じゃな?」


無言を貫くが、最早意味はない。

老人は面白いものを見るような目で此方を見つめてくる。そこには感心した様な、呆れたような感情が混じっていて、読み取れない。


「……ふむ、自信はあるようじゃな。……ならひとつ、頼まれてはくれんかのぉ」

「頼み?」

「この近くには村があってな……最近、困っておるそうじゃ。だからお主に頼む、身体解しも兼ねた……穢れ狩りおな」











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