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ゆずれないことひとつ2  作者: 恩清香
第一章
4/5

「三」は有限、偽善

いつものようにコンビニで深夜のバイトをしていた。

特にお客が混み合うようなことはほとんどなく、

今思えば、怠惰なバイト生活だったかもしれない。

ある一人の男性のお客がやってきた。

他にお客もなく、そのお客は雑誌を立ち読みした後、

炭酸ジュースをもってレジのほうまでやってきている途中だった。

その後である。

一人の女性が店に入ってきた。

ちょっと髪の長い、赤い服を着た女性だった。

その女性は、一目散に私のレジのところまでやってきて、

「これあずかって。」

と言い、大きめの封筒を私に投げ出し、

その後一目散に店を出て行った。

ほんの一分間のことである。

そして、前にいた男性が炭酸ジュースをレジにおいてこう言った。

「荷物を預かるということが、どういうことかわかるか?」


意味不明だった。

そして、そのお客の炭酸ジュースが、うちの店には置いてない

種類のものだったのには、全然気づきもしなかった。

それなのに、レジのバーコードにはちゃんと入っていた。

何故、うちの店には置いてない種類のものだったかに気づいたのかは、

私の自転車のかごにそのジュースが入っていたからである。


ただこの封筒はなんなのか?

いったいなんの目的があるのか?

この封筒の荷物をどうすればいいのか?

あの女性は何なのか?

さっぱりわからなかった。


すぐに、女性を追いかけて封筒の荷物を返せばよかったのだが

次にレジを待っていた男性のその後の言葉でもう

どうしていいかわからなくなっていた。

今になって思うと懐かしいものである。


十数年前、私の住んでいるアパートの色はピンクだった。

最初、選ぶ時には抵抗があったが、建っている環境が良かったため

ここに決めた。

近くには、公園とレンタルビデオ屋がある。

飲食店やコンビニはそれなりの距離があったが

便利といえば便利な環境だった。

なにより静かだった。

封筒を開けることはまだ無かった。

厚さはそんなにない。

封筒の裏にも表にも、何も書いてはいなかった。

やっぱり人のプライバシーに関わることと、怖かったのである。

その封筒は無造作に置いてはいなかった。

大事な本のある所に置いていた。



偽善、誰もがこの言葉が嫌いだと思う。

自分のことを偽善者だと思いたくない。それなのに周りは偽善者に見える。

そんなありきたりの感情。そんな情けない感情。

生きるためにそんなに綺麗にいきてはいられない。

自分だけが汚いわけじゃない。みんな生きるためにずるく生きているのか。

きれいごとだけでは、飯は食べてはいけない。

人に嘘をつくのは当たり前。

人のものは自分のもの。自分のものは自分のもの。

偽善。みんな上辺ではいいことを言う。しかし本当は自分のことしか考えていない。

それが、人生なのだろうか。


私はアパートに帰ってきてから、決まってすることがあった。

手を洗うということだ。

普通のことかもしれない。なんだ、そんなこと常識と思うかもしれない。

しかし、だらしない自分には、それだけが唯一まともな感覚を保つ方法だ。

体全体を清めるという、神聖な行為とはほど遠い、実に簡単な動作だが。

赤い服を着た女の人から、封筒を預かった日も、帰ってからいつものように手を洗っていた。

手を洗いながら、今日の不可思議なことについて考えていた。

横目で封筒を見ながら、ポツリとつぶやいた。

「赤は嫌いじゃない。」

その後にタオルで手を拭いて、テレビにスイッチを入れた。

なんとなくだが、今もその番組は覚えている。

妙にテンションの高い男性が、派手なパンツをはいていたのが印象的だった。

しょうもない、ギャグも覚えている。

「今日も元気に行ってみよう。」と目をまん丸くして笑っていた。

何となく、微笑ましかった。


あぁ、今日も一日終わった。

私は存在していた。






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