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素直でクールな彼女  作者: わほ
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短編「ずっと待つくーる」

昔は男女隔たり無く外で遊び回っていた気がするが、いつの間にか男女の違いを知り『みんなで遊ぶ』は男友達だけを指して使う様になっていた。

高校に上がる頃にはそれなりに下心も持つ様にはなるが、自分には好意を寄せてくれる様な女の子はおらず、毎日を部活や遊びと相変わらず縁の無い生活をしている。


今日も男ばかりの部活動へと思っていた矢先に顧問から雑用を言い渡された。

「このダンボールを図書室に運んでおいて欲しいのだが頼めるか?」

「断ってもいいんですか?」


先生はさわやかないい笑顔になる。

「次の試合残念ながらベンチを温めて貰う事になるけど?」

姿勢を正して適当な敬礼をすると、「サーッ!迅速に行動しますっ!」とダンボールに手をかける。


「重っ?!」

それほど大きくはないダンボールだったが、かなりの重量感を感じさせた。

「そりゃ中身全部本だからな。腰だけ痛めないようにな」


「若者ですからっ……余裕ですっ!」

かなり強がった様子で先生に答える。

「元気があってよろしいぞー。図書室に委員の子がいるから持って言ったら指示に従ってくれ」

「了解っす」


重たさに耐えつつ階段をひたすら登ると最上階に図書室はあった。

回数で言えば1年ぶり2回目の図書室は、本屋のような紙の匂いがむせ返るようだった。

「どもー。ツッチー先生から頼まれてお届けものですー」


人気の感じない室内から、ようやく一人分の足音が聞こえた。

「土屋先生は君に頼んだのか」

どこか懐かしい響きを含む声がした。

声の主は本棚の間から顔を出す。

「やぁ。久しぶりだね」


その懐かしい面影を残す彼女に言葉が出てこない。

「どうした?私のことを忘れてしまったのかい?」


「いや……覚えてる……お前、クーだよな?」

やけに整った顔をした彼女は、少しだけ嬉しそうに見えた。


その顔に昔の記憶が甦る。

あまり気持ちを表情に見せない友達がいた。

どこに住んでいるか知らなかったが、公園で遊ぶ友達の1人だった。

いつも車で公園にやって来ては、俺の後をついて遊び回っていた。

遊びを知らずに、何をするにもどうするか聞いて来た。

他の友達はあまり表情を変えない彼女に気味悪がっていたが、公園のリーダー的な立場の自分が率先して遊び場に分け隔てを無くしていた。

そうして、いつも5時丁度に車で迎えが来て、最後に少しだけ嬉しそうに手を振って帰るのだった。

小学校の低学年を過ぎる頃には男女別々に遊ぶようになり、いつの間にか見なくなっていた。


「覚えていてくれて嬉しいよ、カズくん」

無表情とも取れる澄ました顔は昔のままで、本当に嬉しい時だけ今みたいに少しだけ笑ってみせるのだった。

照れ隠しに何か聞かなければと思い、当たり障りの無さそうな事を聞く。

「クーはこの学校だったんだな」


「あぁ今までもずっと同じ学校だったけれど、気がつかなかったろう?」

彼女は制服のリボンをいじる。

そのリボンの色が彼女の、学年が1つ上である事を物語っていた。

「先輩だったのか……ですか。てっきり同い年でいつの間にか転校してしまったと思ってい……ました」

彼女は軽く首を振る。

「まぁ久しぶりの再会で話したい事もあるが、先輩だからと言葉に気をつける必要も無いし、とりあえずその箱は重たいだろう?その机に置いてもらえるかい?」

言われる事でようやく箱の重さを思い出し、手が悲鳴を上げていることに気がつく。


「ありがとう。私一人では恐らく運べなかったからとても助かるよ」

「結構な重さだったからな。女の子1人じゃ厳しいかもな。んで、次はどうしたらいい?」


彼女は何やら言いたげにこちらを見据える。

「なんかあるのか?」

「いやなに、君は昔のまま男らしくて優しく、私の事もちゃんと女の子として見てくれているのが嬉しかったのでね」

あまりにも包み隠さない褒め言葉に一歩下がる。


「そんなに褒めてもパックジュースくらいしか出さねーぞ」

少しだけ口角を上げたクーは、いたずらっ子のような顔になる。

「君と半分こなら買って貰おうかな」

半分こと言うフレーズにまた昔を思い出す。


幼い頃駄菓子屋にクーを連れて行くと、よく『ジュース半分こ』しよとお願いしてくるのだった。

当時はお小遣いも少ないく、友達とお菓子や飲み物のシェアなんて当たり前にしていた。

しかし今は年齢が違う。

「ばっか、間接キ……ちゅーになっちゃうだろ」

優しげに目尻を下げた彼女は手を後ろに組みこちらを真っ直ぐに見据える。

「私は君となら構いはしないよ」


その仕草と、凛とした中に漂わせる優しさに思わず息を飲む。

その仕草も優しげな雰囲気も、どれも新鮮で魅力的だった。

「そんなのずるいじゃん」


どうにか絞り出した声に、クーはころころと鈴の音を転がした様に笑う。

「君と話せることが嬉しくてね。つい舞い上がってしまったよ」


何か言い返そうかと思うが、普段女生徒と交流の少ない部活男子には照れが出てしまっていた。

「そんなくだらないこと言ってないで、早く片付けちまおうぜ」

「そうだな、君も部活があるだろうし、手を動かすことにしようか」


クーは本の詰まった箱を開封すると手早くジャンル毎に分け、自分へと本棚の場所を指定してくる。

肩まで伸びた髪をかきあげ、本を手に取る姿を本棚の隙間から眺めると不思議と胸の高鳴りを感じるが、恐らく懐かしさだろうと鼓動を鎮めた。

30分程度で整理は終わり、本棚は彼女お手製の説明文に彩られた興味をそそるには十分な姿となっていた。


「ありがとう、助かったよカズくん。是非お礼をしたいのだが、連絡先を交換しないか?」

「なんかナンパされてるみたいだ」

「そうだよ、これは逆ナンってやつだね」


全く迷いの無い返事にドギマギしつつも、右手はポケットのスマホへと伸びていた。


連絡先を交換すると、早速彼女からスタンプが送付された。

可愛らしい猫のようなキャラクターが『ありがとう』とハートマーク付きのものだった。

「こうやってまた出会えたんだ。これからも会ってくれるかい?」


自分はもう鎮まらない鼓動に合わせて首を縦に振るだけだった。


「そうか、よかった。私はもう少しやることがあるから残るが、君は部活もあるだろうし、今日は解散だな。」

「あぁ、またな。こっちからも連絡するから」

クーは一瞬顔を伏せるように頷いた。

そうして、昔と変わらずに少しだけ嬉しそうに手を振る。



一人きりとなった図書室でスマホを握りしめる彼女は、今日の計画の協力者へと成功の報告をしつつ、外で部活に励む彼に熱心な視線を送るのだった。


その後、男女交えて遊んでいた二人は、少しだけ大人に近づき二人だけの時間を楽しめるようになるのでした。

またまた、書きかけの作品から一品書き上げました。

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