短編「会長は素直クール」
夏休みまで残すところ明日の終業式のみと迫った学校内は、帰宅する生徒や部活に参加する生徒達から浮き足立った雰囲気が漂っていた。
しかし、そんな雰囲気も生徒会室からは微塵も感じさせず、自らの机の前のノートパソコンにひたすら文字を打ち込む会長の姿があった。
「今日ってそんなにやることありまたっけ?何かあるなら手伝いますけど」
その言葉にピタリと動きを止めた会長はチラリとこちらに目を向ける。
「君だけはいつも生徒会室に来てくれるな。ちなみに特に生徒会としての作業をしているわけじゃないんだ。だから自由にしていてくれて構わないよ」
その言葉にとりあえず今日配布された夏休みの課題を取り出す。
課題のテキスト暫く眺めようとするが、目線は会長の方を向いていた。
校内で五本の指に入る秀才さと、目鼻立ちの整った圧倒的な美人力を持つ会長はこのままずっと眺めていても飽きないほどだった。
凛とした表情で姿勢良くパソコンと向かい合っていた会長の手が止まり、左手でサラリとした長い髪をかきあげ耳へとかける。
「じっと私の事を見つめられると照れるのだが?」
視線がバレていたらしい。
「す、すみません会長。じろじろ見てしまって嫌ですよね普通」
会長は腕を組むようにして、右手は頬に添えると軽く首を傾げる。
「いや、照れはするが嫌ではないよ」
「そうですか?流石、全校集会で壇上に立って堂々と話せると違いますね」
「そう言うわけじゃないかな。君以外ならあんな風にじっとりと見つめられたら、嫌悪感で文句を言うかもしれないな」
会長の言っている意味を考え尋ねる。
「えっと……それって自分は特別とかですか?」
会長は少しだけ目を細めて笑っているように見えた。
「珍しく察しが良いね」
「いやー会長の特別なんて光栄だなぁ。でも男の子にそんな事言うと誤解しちゃいますよ」
会長の冗談に付き合う様に答える事にした。
「やれやれ、察しが良いかと思ったらそんな事は無かったな」
会長はため息混じりに言う。
ため息と言葉の意味に鼓動が速くなる。
「え……誤解しちゃいますよ?」
「私としては、本当に君は特別でね。乙女心を揺さぶられるんだ」
生真面目な顔で乙女心なんて言う会長が少しだけおかしくもあったが、薄っすらと染まる頬に誤魔化すような笑い方はできなかった。
「会長は女性として自分のことを見ていると……?」
会長は立ち上がると、自分の前へとやってくる。
「そこまで分かっていて、君は私に最後まで言わせるのかい?」
真っ直ぐに見つめてくる、少しだけ目線の低い会長は自分の言葉を待っている。
暫く蝉の鳴き声だけが部屋に響く。
「気の利いた告白とかできなくてごめんなさい」
会長は首を振る。
「気の利いた言葉なんていらない。YESかハイかだけで構わない」
「断るって選択肢は用意されてないんですね会長」
「断られたら泣いてしまいそうだからな」
会長の泣いている様子がまったく思い浮かばないなどど考えていると、女の子らしい小さな白い手でシャツの裾をつかむ。
「YESでもハイでもありませんよ、会長。」
小さな手がピクリと震えた。
「なんてたって自分も会長が好きなんですから」
顔を更に赤く染めた会長だが、視線だけは真っ直ぐにこちらを見つめたまま僅かに瞳が潤み出す。
「断られるかと思って心臓が止まるかと思ったが、夏休み前に伝えられて良かった」
シャツを掴んでいた手は、いつの間にか自分の手に添えられていた。
その柔らかさにより一層女の子である事を感じる。
ドキドキと高鳴る鼓動を抑え、平静を装う。
「自分も夏休み入ったら会長に会えないなぁと思っていた所なんです」
いつもの冷静な顔付きに戻る会長が、いつにも増して目に輝きを放つと、パソコンのエンターキーを叩いた。
プリンターから1枚の紙が排出される。
「これが今私の分かっていてる夏休みの予定なんだが、この日は空いてるかな?」
指差された日付には赤字で夏祭りと書かれた今週末だった。
「良いですよ、空いてます。夏祭り行きましょ」
「そうかっ!君と夏祭りに行けるなんて夢のようだ」
子供のようにはしゃぎ出す会長は今まで見てきたどんな花火よりも綺麗だと思えた。
最近書いては消してと一向に書き上がらないので、とりあえず書ききると思って投稿です。




