短編「大雪の日くーる」
首都圏全域では大雪警報が発令されており、どのメディアも早めの帰宅を呼びかけていた。
そんな中、雪が降り始めて早々に帰宅の許可を出した会社は有能で、仕方ないですよねーと言った顔をしながら、内心ルンルンとさっさと帰ることにした。
家に着いた辺りで、SNS上には帰宅のために、駅に溢れる人々の阿鼻叫喚がばら撒かれていた。
「こたつはぬくぬく、帰りは早いしで言うことないわー」
緩み切った表情で横になり、何気なくスマホを取り出す。
「ん?」
トークアプリにいくつかチャットが飛んできていた。
『今日は帰りが早いですよね?』
『帰りに寄りますね、と言うか泊めてください』
『今学校出ました』
『あと5分で着きます』
と言ったチャットが4分前を最後に残っていた。
ピンポーン
呼び鈴が鳴る。
「ぴったりかよ。はいはい今出るよ」
ガチャリと扉を開くと、スーパーの袋を持ち、寒さで顔を赤らめてはいるが、表情の乏しい整った顔立ちの若い女性が立っていた。
「突然過ぎるだろ、クー」
「ここは大学まで徒歩10分と近くてな、泊めてくれると助かる」
「いやまぁ、それは良いんだが良く早く帰ってると分かったな」
クーを中へ通しつつ尋ねる。
「いや、ある程度一般的な企業に勤める君なら、これだけ雪が降れば帰っているだろうと思っただけだ。それに、居なくても勝手にお邪魔させてもらっていた」
上着のポケットからこの家の鍵を見せつける。
ここに引っ越すことになった際に、どうしてもカギが欲しいとねだられて渡した物だった。
上着に着いた雪をお風呂場で払うクーへハンガーを渡す。
「ありがとう、君はやはり気が効くな」
「褒めても紅茶くらいしか出さんぞ」
「ミルクたっぷりが良いな」
「はいはい、こたつでも入ってろ」
「ありがとう、しかしこの買ってきた物たちを冷蔵庫に仕舞わなければ」
「良いよ、あったまったら調理担当なんだからさ」
「それならお言葉に甘えて」
そう言いながらこたつへとクーは入ってわずかに、本当にわずかに表情が緩んだ。
先日の引っ越し後にこたつだけは先に整えていて良かった。
まさかこんな大雪が来るとは思っていなかったが、寒さ対策は引っ越し当日にしておいたのだ。
過去の引っ越し前後は、寒さで震えていた経験がここで生きた。
冷蔵庫に物をしまい終えるのと同時にお湯が沸く。
お揃いが良いと購入した色違いのマグカップに、ティーパックとお湯を注ぎ小皿と一緒に持っていく。
「ありがとう」
お礼と共に受け取り、熱々のマグカップで手を温めるクーは少し体温が戻ってきたようであった。
「今日は寒いだろうから鍋にしようと具材を色々と買ってきた。おそらく明日も午前中は動けないだろうしゆっくりさせて貰うよ」
カーテンを少しめくり外を見ると半日以上振り続ける雪が30センチ以上積もっているように見える。
「雪が降っているせいか、エアコンをつけて居てもどことなく寒いな」
そうぼやくと、クーがもぞもぞとコタツの中へと潜っていく。
引っ越しを機に少し広くしたコタツは2人でも余裕があり、別に邪魔だとは思わなかったが……冷たい手が足を掴む。
「クー冷たい」
足を広げるように動かされると、股の間からクーが頭を出した。
「流石にそれは狭いぞ」
「そうだな、こたつなんとかには少々狭いな」
一体何を言おうとしたのか聞くことはせずに、仕方なく少し座椅子を下げスペースを空ける。
そのスペースへにゅるりと入り込み、 完全にすっぽりと自分が抱え込むような人間座椅子のようにされてしまった。
「それじゃあ、あったかいのはクーだけじゃないか」
「私が温まったら君にも分けてあげるよ」
やれやれと思いつつまんざらでもなく抱え込む事にした。
「ふふふ、君は温かいな」
「はいはい、どういたしまして」
クーが見上げるようにこちらを振り向く。
「以前どこかで流行ったが、大切な人と見る雪と言うのは特別な気がするな」
「顔を隠したくなるから、そう言う恥ずかしいことを正面で言うのをやめなさい」
逃げ場の無い愛情表現がいつだって突然に襲ってくるんだ。
「残念ながらこればかりは治りそうないないよ」
冷たい雪も溶かすほどの熱量が2人を包みこむ。
別段悪い事ではないのだから、逃れられないのであれば逃げ出す必要もない。
聞こえるかどうかの声で呟く。
「はいはい、俺も好きだよ」
耳が少し赤みを増したクーは、体勢を反転させ抱きついてくる。
「温かさのお裾分けだ」
これは……雪じゃなくて溶かされるのは自分らしい。
遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。
大雪の中帰宅して、未だに振り続ける雪が明日を不安にしますが、素直クールな彼女と一緒ならあったまれそう!なんて思ったりしながら布団にくるまります。
いきなりタイトルを間違えてましたごめんなさい。




