短編「プレゼント系素クール」
クリスマスだと言うのにバイトで日付が変わる直前まで仕事をしていた自分を慰めつつ駅からの道のりを進んでいた。
「クゥには済まないことをしてしまったなぁ」と静かな夜道で呟く。
クリスマスは予定を空けておいてくれと、前々から言われていたが、バイト先でインフルエンザにより2人も病欠となり急遽呼び出されてしまった。
結局イブもクリスマスも丸一日バイトで終わってしまったのだ。
「今度何かで埋め合わせさせて貰おう」
「きっとあいつの事だから『君から精一杯可愛がって貰えるなら構わない』とか言うんだろう」
寂しさを紛らわせるように独り言が増えている。
まぁ明日は休みだし、バイト先で余ったケーキとかオードブルを貰ったし、家で晩酌とでも洒落込むかねぇと考えていると家の前に着いていた。
玄関を開けて廊下の灯りをつけると部屋が若干暖かい事に気がついた。
「ありゃ、エアコン付けっ放しで出て来ちゃったか」
まぁ外の寒さから解放されるから良いかと思うことにして、部屋の扉を開けると炬燵を置いている部屋の中心に巨大な箱があった。
その箱はかなり大きく、明らかにクリスマス仕様のプレゼントボックスと言ったものだった。
このパターンは知っている。
箱を開けるとクゥが飛び出す奴だ。
「まったく可愛いことをしてくれる」と思いつつ箱を揺する。
「帰ったぞー」
……反応がない。
これは人のパターンではなく物だったかと思い直しつつ蓋を外す。
中身を期待して開けると、中にはサンタが居た。
正確にはモコモコとした炬燵毛布に包まれた、サンタコスプレのクゥが静かに寝息を立てて居た。
体のほとんどが毛布に埋もれているが、ズレたサンタ帽子がサンタらしさを少しだけ醸し出していた。
知っているパターンではあったが、寝ているのは予想外だった。
「でもまぁ、もう夜中だし仕方ないか」
だがしかし、このまま寝かせておくわけにもいかないだろうと起こすことにする。
起こそうと箱の中を覗き込むと、毛布に包まり寝息を立てるクゥはまるで人形の様で、もしかしたらこのまま動かさずに飾って置けるのかもしれないと思わせる程だった。
しかし、突っつく頬は柔らかく温かい。
なんでこんな可愛い子が彼女になってくれたのか未だに不思議で仕方ないが、それは悩まない事に決めていた。
「おーい、風邪ひくから布団行きなさい」
突く程度では起きそうに無いクゥの頬をぷにぷにと引っ張る。
くすぐったそうに首を縮めると、ゆっくり目を開かせ始めた。
「カズ君……?」
「おぉ、今帰ったよ」
眠たそうに目を擦り、彼女の目の焦点が合っていく。
「おかえりなさい、カズ君。」
整った顔で切れ長の目を少し垂れさせたクゥは、人前では見せることのないふにゃりとした笑顔を見せてくれた。
「ただいまクゥ」
(あぁこれはとんでもなく幸せかもしれない)
そんな気持ちになっていると、クゥが手を伸ばす。
これは抱きしめて欲しいのだろう。安定の可愛さだ。
「……カズ君、足がしびれて立てない。助けて欲しい」
違った、無理な体勢で寝ていた代償らしい。
首に手を回すクゥは震える足で立ち上がろうとする。
立ち上がろうとすると、体に掛かっていた毛布が落ちる。
ふわふわとしたサンタ風のワンピースに、すらりと長い脚は白いニーハイに包まれていた。
完全に俺特効の装備をした彼女に少しだけ悪戯心が芽生える。
痺れているであろう足先を握る。
「ふぎゅああぁあっっ!!」
普段の冷静な彼女からは想像もできない間の抜けた叫び声を上げ、首へと回していた腕に力が入り箱の中へと引きずり込まれた。
「フーッ!フーッ!!」
珍しく全力で警戒しつつ荒い息を吐き出し、声にならない声を出していた。
「ごめん、ごめん。ついやってしまった」
狭い箱の中で密着し、手を合わせて謝る。
だんだんと息が整っていくクゥがようやくまともに話し始めた。
「全身に電流が流れたのかと思った……」
「でもそんなに嫌そうな顔になって無いな」
「そ、そんなことは無いぞ」
クゥは本当にちょっと変わっている。
ちょっとではないかもしれないが、それはクゥの良さなのだ。
「ありがとうな、今日来てくれて」
いつものように腕を組んだクゥは何のことは無いと言った様子で応える。
「君のために用意したからな。どうしても見せたくて」
そうなのだ、こいつはこういうやつなのだ。
普通のやつであればためらうような台詞も真っすぐ素直に言ってのけてしまう。
そんな彼女に釣られて自分の言葉も少しだけ素直になれる。
「ぱない程かわいい」
二人で入るには狭い箱の中なのだが、寄り添う二人には十分で、
定位置の腕の中に納まるサンタはいつの間にかプレゼントになっていた。
にやにやと少しだけでもして貰えたならメリークリスマス。




