第43話「本物」の宴wwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
それから僕達は佐藤さんに案内されて小机城の大広間に向かった。
僕は沙織がこんなに近くにいたのに、沙織の不安をしっかり感じ取り理解することができなかった。
それを僕はめっちゃ反省していた。
沙織とずっと一緒にいるから沙織のことは何でも分かっていると思っていた。
だけどそれは僕の完全な思い込みだった。
沙織は沙織で僕にはわからない悩みを抱え今までずっと苦しんできたのに、僕ときたらそれにすら気がつかず何もしてあげられないなんて、こんなの彼氏として本当に駄目だと思う。
でも僕のそんな僕の気持ちなど知らない2人の沙織はめっちゃ大騒ぎしながらわけのわからない「本物」のガールズトークを繰り広げていた。
同じ人間、過去と未来の沙織が楽しそうにしているのって、冷静に考えてみるとかなり「本物」の異常事態ではあるんだけど、このニャンパスの穴に落とされてからは大抵のことは受け止められるようになってきた。
僕の「本物」に耐えられる心も強さが増していた…いやさらに麻痺してきたのかもな…
佐藤さんも色々ありすぎて、かなり麻痺してるっぽいしな…
僕はどこかに連行されるように2人の沙織に左右を囲まれ、右の腕は僕の沙織と組み、左の腕は看護服の沙織と組んでいるんだけど、それを見て佐藤さんがずっと「ぐぬぬぬぬぬ」としてた。
「おい!!そこの2人!!!ちゃんと小机様の前に来たらおとなしくするんだぞ!!」
先頭を歩いていた佐藤さんはイライラしてる感じでこっちを振り返った。
「まあまあwwwwwwwwwwwwwwww若菜ちゃんも一緒に宴を楽しもうじゃないかwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwニャンパスニャンパスwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
めっちゃ機嫌が良くなっている僕の沙織がそう言うと、看護服の沙織が僕の背後に周り僕の首筋にどこからか取り出したコンバットナイフを突きつけた。
「佐藤若菜ちゃんwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww明日はみんなで最高の戦争をするんだwwwwwwwwwwwwwwwwwまずは差身を囲んで楽しむんだwwwwwwwwwwwwwwwこれも戦争の一部wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
そう言った看護服の沙織が興奮したように病んだ笑みを浮かべると、佐藤さんは諦めたように「はいはい」と呆れたような顔で話を切った。
ああ…佐藤さんも「本物」達との付き合い方が分かってきたみたいだね…
そうだよ…真正面からまともにやりあうと確実にこちらの精神が削られて心がやられてしまうんだ…
僕の沙織も看護服の沙織もその場の思いつきで適当に騒いでるだけなことも多いからさ…
インスピレーションだけで動いてしまう大宇宙の意志的な人達を、受け止めきる事なんて絶対に無理なんだからね!!!!!
「もう!あんまり小机様に失礼なことをするんじゃないぞ!」
佐藤さんはプイッと前を向き直すと怒ったようにまた歩き出した。
佐藤さんは思ったよりも真面目な子なのかもな。
当然といえば当然なんだけど、沙織なんかよりめっちゃ常識的な行動をしてるし、沙織が馬鹿なことをするとそれを注意してるんだよな。
でもなんだろう。さっきとはちょっと佐藤さんも変わってきた。
沙織のことを憎んでいるというよりは、自分を正直に出しているというか、そう、沙織と友達のように接しているような気がする。
沙織も沙織で佐藤さんを嫌がっているというより、だんだん打ち解けてきて普段通り「本物」のままの沙織が出ていて、沙織も随分変わってきた。
佐藤さんと沙織の仲も、まとまってくれると元の世界に帰った時に楽なんだけどな。
小机城の大広間につくとかなり丁重に通された。
小机さんとか他の武士の人達もそこにいたんだけど…
いろんな格好をした沙織が10名そこに座っていた。
なんだこいつら…戦国時代だから目立ってるんじゃなくって…めっちゃ個性的すぎてどの世界に行っても浮きまくりだよ!!!!
まあ多分、中身はそう僕の沙織と変わりないだろうから、ここぞという時に着たい「本物」の勝負服で参上してるんだろうな。
さっき会った宇宙服の沙織も、城内で見かけたゴスロリの沙織も、作業服の沙織も、その他まだ見たこともない沙織達がリラックスした様子で歓談していた。
「みんなすまないなwwwwwwwwwwwwwwwww手伝ってくれてありがとうwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
僕の沙織が10人の沙織達に声をかけると、10人の沙織達は一斉に立ち上がり口々に「wwwwwww」と返事をし始めた。
「みんな楽しんでるから大丈夫だwwwwwwwwwwwwwwそれより早くその差身をこっちに連れてくるんだwwwwwwwwwwwwww」
ピンクの魔法少女みたいな格好をした沙織が楽しそうに手招きすると、僕の沙織は「まあまあwwwww」と場をまとめるようにジェスチャーしながら病んだ笑みを浮かべた。
「慌てるなwwwwwwwwwwwwww『本物』の宴はこれからだwwwwwwwwwwwwwとりあえずみんな落ち着いて座れwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
僕の沙織がそう言うと、10人の沙織達はめっちゃこの宴に期待してるのかガヤガヤ騒ぎながらゆっくりと座り始めた。
いやあ、沙織が12人もいるよ…
でもそれについて驚かなくなってるのは何でなんだろうね…
しかしどこの沙織も見るからに「本物」過ぎて凄いな。
佐藤さんもこの様子を見ても平気そうにしてるし、何だか「本物」に慣れてきてるよな…
しばらくすると、宴も始まりみんなが騒ぎに騒いだ。
外の方でも楽しそうな声が聞こえたきた。
沙織が持ち込んだ食料と酒が城内全体に振る舞われているようだ。
佐藤さんは小机さんに何か言付かると「はい」と凛として返事をし颯爽と行動していた。
沙織達と違って周りを気にしながら、小机さんのために動いているように見えた。
でも明日、日が昇ったら戦うんでしょ?
こんなにお酒まで飲んで大丈夫なのかなあ???
僕はちょっと心配になったので、僕の沙織に話してみることにした。
「なあ沙織。日の出から戦うのにこんなに騒いで大丈夫なのか?」
僕がそう言うと、僕の沙織がなんか妙に上機嫌で顔を赤らめてるんだけど…
いつも以上に調子が良さそうな沙織は、少しふらつきながら病んだ笑みを浮かべて僕に抱きついてきた。
「ああwwwwwwwwwwwwwwwいいだろ別にwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
なんか僕の沙織はろれつが回ってないんだけど…
しかもめっちゃ酒の匂いがしてきてるし!!!
「おい!沙織!!お前酒飲んでるのか!」
「関係ねえよwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwここは『戦国時代』wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww我々の世界の法律なんて関係ないwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「うーん…そうだけどさあ…」
「それになwwwwwwwwwwwwwwこいつらも外の奴らも明日には死ぬかもしれないんだぞwwwwwwwwwwwwwwwwwwww最後くらい派手に騒いでもいいだろwwwwwwwwwwwwwwwww思い残すことがないようになwwwwwwwwwwwwwwwww」
僕の沙織は「許してやれwwwwwwwwwww」という感じで病んだ笑みを浮かべたんだけど、それはあんまり今まで見たことない沙織の表情だった。
沙織が他人に気を使うのもめずらしいんだけど、それ以上のものを感じる。
明日、みんなで戦い、当然死ぬ人も出るだろう。
僕も沙織も絶対に生き残れるという可能性は100%ではない。
戦場ではいつどこで死ぬことになるかなんてわからないということをさっき経験したばかりだ。
そのめっちゃ無慈悲な現実を前に、みんなを哀れみ、しかし現実から逃げ出そうとはしない。
それはどこか沙織のお母さんのようだった。
温かな広い心で沙織を優しく包んでくれる沙織のお母さん。
沙織が本当に少し女神に近づいたような気がした。
確かにそうだよな。
明日生きてるかどうかわからないのに、シーンとしているよりは、この方が頑張れるかもしれない。
武士の人達なんて刀とか槍とかで戦っているわけで、いつ刺し違えたり、後ろから刺されることなんて、当たり前のようにある。
みんなを励ますにはこの方が良い。
「しかしそろそろ我々は準備に戻らないとなwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwその前にニャンパス会議で明日の作戦を小机さんにも話さなくてはならないwwwwwwwwwwwwwwwww」
沙織は僕から離れると小机さんや他の沙織達、そして武士の人達を見渡した。
楽しい宴は間もなく終わろうとしていた。