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妄想遊戯  作者: 秋鹿
10/10

テクニシャンとか……妄想が爆発するじゃないか2

 どうも、勝手に四面楚歌の相田です。

 妄想を腐くらませた結果、自爆して追いつめられております。

 誰かが私の妄想に同意した。

 仲間か、それとも敵か。

 当たりを見渡すが、私の回りには誰もいない。

 ん?聞き間違い?でもさっきはっきりと………。


「事故りそうになったのは犬塚くんが悪いけどさ、どうせ、蔀くん、助手席でモンハンしてたんでしょ?人にばっかり運転任せて」


 苦笑交じりに蔀さんを諭す発言をしたのは6係の各務理かがみおさむ主任だった。

 なんだ。私の妄想ではなく、蔀さんに突っ込みを入れてたのか。

 腐ぅ~焦ったぜ。なんてタイミングで攻めてくるんだ、この眼鏡。

 私は少し離れた席で冷や汗をぬぐう。

 そして素知らぬふりをしつつ、耳だけはそちらに意識する。

 どうも、蔀さんが怒っている様子を察して、気遣いのできる誠実な眼鏡系男子各務さんが犬塚氏に事の顛末を聞いたようだ。

 各務さんはこういうのがうまい人だ。

 頭ごなしじゃないから、さらっと話をさせるのがうまい。

 仕事も丁寧できっちりとしていて、誰よりも整理整頓が得意。

 庶務係の女子の誰よりもきっちりと見た目に綺麗なファイリングや片づけを披露する事務の天才だ。ちなみに課長もスケジュール帳がわりに各務さんを使っている。

 営業なのに……。

 そんな三十路男子各務さんは見た目も男前だ。

 長身で、スマートな体つき。キュッと引き締まったお尻。

 草食系で、スタバとかで、ちょっとカジュアルな服着て、難しい専門書を読んでますって感じの雰囲気。

 押しが強くないけど、でも芯の強さを感じさせるきりっとした目。

 あまり表情が変わらないからクールな人と思われがちだけど、笑うと目じりに皺が寄って可愛くなる。

 そして、どこか色っぽい。

 別に女っぽいわけじゃない。

 彼は男臭くない爽やか和風な男前なのだ。

 なのに醸し出される妖しい色気……今は落ち着いてますけど、昔は色々遊んでました的な?

 バツイチって噂だし。きっと昼ドラ的なやり取りがあったんだろうな。

 そんな各務さんが珍しく表情を崩し、蔀さんをたしなめている。

 そうか、蔀さんが怒っていたのは、犬塚さんが運転する車が危うく事故りそうになったからか。

 営業車で事故とか、確かに後々響くものね。

 お怒りになる理由も分かる。

 でも、事故ってやろうとしてなるもんでもないし、そんなにプリプリしなくても……と思うのだが、まぁこれからずっとペアでやっていくのだから、締めるとこは締めないといけないんだろうな。


「そうは言うけどな、各務さん。こいつの運転マジ荒いんだよ。しかも急ブレーキ踏むから、PSPを落としちまうし……」


 車じゃなくてゲーム機の心配かよ!

 そして本当にモンハンしてたのか!


「いや、仕事中にゲームするなよ、君。俺とペアの時から本当に……」

 

 口では責めつつも、各務さんはクスクスと笑っている。

 その自然な雰囲気にギスギスした空気がなくなり、犬塚さんもどこかホッとした表情だ。

 なんかレアなところを見てしまったかもしれない。

 元ペアである蔀さんとの仲を感じさせる発言をすることがなんか意外で……なんか萌えるな。

 これは俺の方が蔀のこと知ってますからっていう犬塚さんに対する牽制か?

 新人に蔀は乗りこなせないぜ?蔀のことを一番理解していて、蔀を一番輝かせることが出来るのは俺だぜ?みたいな~!!

 草食系と見せかけて、蔀さんに対してだけは肉食系とか、さすが昼ドラ各務。

 設定を盛り込んでくるね~。

 私は前に、蔀さんに綺麗な顔を駆使しての小悪魔、年下、誘い受け、襲い受けをしていただきたいと思っていた。

 そんな蔀さんにタジタジな各務さんってのが実に萌えるとも……。

 でも違った。

 むしろ各務さんはノリノリだった。

 可愛い子猫を更に猫かわいがりしながら、猫に気づかれないように他を牽制してたんだ。

 大人の余裕を醸し出しながら、実はめっちゃ不安なんだ。

 束縛したいんだ。

 今日から趣旨変えです!

 甘やかしちゃって、各務さん。

 あなたの子猫はワガママ気ままで貪欲なのよ!

 さぁ理性という眼鏡を取って、その本能をさらけ出せ!

 天空の城へ、腐ライアウェイ!!


『知らない間にあの新人のワンちゃんと仲良くなってるなんて、妬けるな』


 日が陰りだした、誰もいない会議室。

 窓際で抱き合う各務と蔀。

 蔀の顎に手をかけて、自分の方に向かせると、各務は誠実そうな笑みを浮かべる。

 でもその瞳には嫉妬の炎が見え隠れしている。


『別に普通だよ。ペアなんだし、一緒に行動するのは当たり前だろ?』


 フイッと横を向こうとする綺麗な顔をガシッと片手で押さえつける。

 大きくて骨ばって、でも指はすらっと細い各務の手。

 その指が喉の顎を優しく撫でる。

 ふてくされたような蔀の顔が、途端にくすぐったいのを我慢しているようなムズムズした顔に変わる。


『おい、猫みたいな触り方すんじゃねよ』


『おっと、気に障ったかな?でも、君はおれにとっては誰よりも可愛い子猫なんだけどな』


『ば、馬鹿言ってんじゃねえよ』


 照れたように距離を取る蔀。

 その顔は窓から差し込む夕焼けの所為か、赤い。

 プリプリしている蔀に対して、各務は満面の笑みだ。

 そっと自分の眼鏡を取ると、上着の内ポケットに入れる。


『でも、ここを撫でられるの好きだろ?』


 そう言いながら、蔀の首筋にキスをする。


『……んん、こちょばい……』


『ここからも犬の匂いがするな。抱き付かれた?』


『そ、そんなわけ……ない。事故りかけた時に、ちょっとぶつかっただけ……』


『それでもこんな近くまで寄せ付けるなんて。噛みつかれたらどうするつもりだったの?』


 優しく尋問しつつ、蔀を抱きしめる力が強くなる各務。

 左手で腰を抱きながら、右手は蔀のネクタイにかかる。

 シュルっと音をさせてネクタイを緩め、ワイシャツのボタンを片手で器用に外していく。

 細い指がワイシャツの下に潜り込み、滑らかな肌をそっと撫でていく。

 ビクリと震える蔀。

 各務のワイシャツをギュッと握りしめ、上目使いに訴えかける。


『ダメ……誰か来たら……』


『誰も来ないよ。カギはかけてある』


『でも……』


『口答えはよせ、玲司。君の本当のペアはおれだ。忘れたわけじゃないだろ?新人だった君の指導をしたのはおれだ。その時に体に教え込ませただろ?』


 何かを思い出したのか、体中が赤く染まっていく蔀。

 蔀の視線を真っ直ぐに受けて、見つめ返す各務。

 だんだんとその距離が近づいていって……。


『再教育が必要だな。今夜は覚悟しろよ?玲司』



「今夜は覚悟しろよ?菊池」


 え?今、私の妄想の中の各務さんが小堀さんの声でしゃべった。

 しかも菊池って!ええ!

 さっきのシチュを小堀さんと菊池さんがやるのか?

 しかも小堀さんが攻めるのか、それは、ないだろ?うん、ないない!


「っない!」


「えっ!ちょ、急に大声出してどうした?相田さん」


 勢いよく顔を上げると、そこには外回りに出てたはずの小堀さんがいた。

 どうやら今帰ってきたところらしい。

 自分の机に鞄を置きながら、驚いた顔でこちらを見ている。


「急に小堀さんが帰ってくるから驚いたんですよね?相田さん。今日もすっごく集中してましたね。さすがだな~相田さんが俺らの事務担してくれるから、仕事もはかどります」


 人好きのする笑顔で、思ってもみないことをさらっと言うのは、もちろん菊池さんだ。


「驚かせて悪かったな、相田さん。ただいま」


「お、お帰りなさい……です」


 ぎこちなく頭を下げると、ニコッと屈託のない笑みが返ってきた。

 そんな彼に向こうの机から声がかかる。


「おかえり~こぼっちゃん、菊池くん!」


 ニマニマっとした顔で人懐っこく呼びかけているのは、各務さんのペアをしている2係の丸野均まるのひとし主任だ。


「丸野主任、こぼっちゃんはないでしょ?」


「そうですよ、見た目はぼっちゃんでも、中身はおっさんですよ?」


「うるせぇな、菊池!」


 菊池さんの的確な突っ込みに、小堀さんの拳が飛ぶ。

 激しく肩パンされたのに、何故か薄ら笑いの菊池。

 この人、実はMなんだろうか……いやいや、見なかったことにしよう。


「見た目は子ども、頭脳も子ども。肉体年齢50歳ってか。」


「そうそう、こないだの健康診断で尿酸値と中性脂肪が……って、何を言わせるんスか!しかも50歳って!」


「いいね~こぼっちゃん、乗ってくるね~」


 体格のいい体をゆさゆさと揺らし、丸野さんは細い目を更に細めた。

 丸野さんはその名前の通り、丸い。

 体格がいいと聞くと、がっちり肉体派を想像するだろうが、丸野さんはもちっと肉まんじゅう派だ。

 その丸みを帯びた体格と、笑っているように見える細め。

 性格も明るく、誰にでも人懐こく親しげに絡んでいく。

 基本腰が低く、警戒心を抱かせないタイプの人だ。

 しかし、彼はただ単に人のイイデブではない。

 あの細い目の奥で、何か人の奥に隠しているものを探そうとしているきらいがある。

 人懐こく絡んで、人のことを色々と聞いてくるくせに、自分の手の内は見せないタイプなのだ。

 しかも人と思考回路が違うようで、気づかなくていいことに気づき、どうでもいいことを穿った見方をするので、すごく鬱陶しい人種だ。

 

「こぼっちゃんもさ、いぬづかんを慰めてやってよ~しとみんにきつく当たられちゃってさ~」


「え?なんかあったんスか?」


「犬塚が事故りかけた」


 ムスッとした表情で答えたのは蔀さんだった。

 その横で犬塚さんはあるはずもない耳を垂らして、シュンっとしている。

 大好きな小堀さんにまで事故のことを知られて、さらに落ち込んでいるって顔だ。

 やばい、菊池と犬塚が小堀を取り合うっていうシチュエーションが一瞬垣間見れた。


「そりゃ、犬塚が悪いな。事故んなよ、だせぇ」


「ま、まだ事故ってませんよ!前の車が急にブレーキ踏むから、慌てて俺もブレーキを踏んだだけで……」


 きっぱりと言い切る小堀さんに慌てて自己弁解を始める犬塚さん。


「そして車は無事だったけど、ブレーキに驚いて蔀くんがPSPを落としてしまった」


 犬塚さんの後を継いで、各務さんが上手にしめた。


「っぶっ!PSPって、またモンハンしてたのかよ!一狩り行こうぜじゃねえよ。モンスターじゃなくて、仕事を狩って来いよ、お前」


「得意先のうざい禿げ散らかしたモンスターを狩るイメトレしてんだよ。大事な仕事だ」


 表情を変えずに小堀さんを見つめる蔀さん。

 小堀さんは馬鹿笑いをしながら蔀さんに近づいていくと、けっこう近寄り難いオーラが出ているはずの蔀さんの背中をバンバンと叩いだ。

 意外に大物だな、小堀。

 それよりも空気が読めないのか?


「マジかよ。お前、そのゲーハー狩るつもりなの?」


「当たり前だろ?薄らっている部分を狩ってやるのが優しさだ」


 相変わらず表情は変わらないが、何故かドヤ顔に見える。

 うまいこと言ってやったぜって感じに見える。

 そんなにうまくないのに……。

 蔀さんって実はツンツンキャラじゃないのか。

 小堀さんに対して怒っている素振りもないし、意外にべしべし叩かれても怒らないんだな。

 小堀さんはケタケタ笑いながら、今度は犬塚さんを叩く。


「じゃあ、やっぱりお前が悪いな、犬塚」


「小堀主任……」


 シュンっとしている大型犬が更に耳を垂れ、尻尾を悲しげに揺らしている。

 大きいのにちっさくなっている。

 別に好みじゃないけど、すっごく可愛いぞ、犬塚。


「おいおい、落ち込むなよ。落ち込むのは仕事で失敗した時だけにしろよ。お前はこれから蔀とゲーハーを狩りに行くんだろ?狩りに行って打ちのめされて来い」


「その慰め、訳分かんないッス」


 せっかく小堀さんがなんか格好をつけて慰めようとしているのに、犬塚はその辺が分かっていないらしい。

 先輩に恥をかかせるとも知らずに、不思議そうな顔で小堀さんを見ている。


「こぼっちゃん、今のはなしだよ~」


 ニヤリと笑う丸野さんが追い打ちをかける。

 気遣いの出来る各務さんは何も言わず笑っていて、空気の読める菊池さんは今自分がこれに乗るのはよくないなと踏んでいるのか、遠巻きにしている。


「あ~も~なしでいいっスよ!それより、運転なら各務さんに教えてもらえよな、犬塚!」


 顔を赤くした小堀さんが大声を出して、話題転換した。

 まだまだ突っ込み足りないといった顔をしている丸野さんを置いて、犬塚さんがそれに乗る。

 小堀さんの無理のある話題転換に乗るのは、犬塚さんくらいだろう。

 急に話題を振られ、各務さんが目を瞬く。


「各務主任、運転うまいんスか?」


「え?おれ?まぁ、ドライブが趣味なだけで……」


 どちらかというと脇役として味を出せる各務さんは、自分が場の中心にくることに慣れていないようで、しきりに周りを見渡している。

 そこに助け舟を出せるのは、空気の読める菊池さんだ。


「運転って、人の性格出ますもんね。だから各務主任の運転は丁寧で、安心できるって感じですよね」


「そうそう。菊池はこう見えて、めっちゃ適当だぜ?赤信号でも、まぁいっかって言って進みやがるしさ!」


 何も考えていない小堀さんがニヤリと笑って、菊池さんを指さす。

 菊池さんは大げさに目を見開いた。


「ええ?適当ですけど、俺、小堀さんみたいな凡ミスしませんよ?」


「なんだよ、凡ミスって!」


 ぶすっとした小堀さんは心当たりがないらしい。


「言ってもいいんですか?こないだ、間違って対向車線を走ろうと……」


「あ~!あ~!待て、お前!あれはちょと間違っただけ……」


 思い出したのか、慌てて菊池さんの口をふさごうとする小堀さん。

 やっぱり、あなたは天才だよ。

 かわいすぎるよ。


「いやいや、それはちょっとって言わないでしょ~こぼっちゃん!」


 ニヤリと目を細める丸野さんに、珍しく口を開けて笑っている各務さん。

 さっきまで落ち込んでいた犬塚さんも笑っている。

 そして蔀さんも……って、蔀さん?

 お綺麗な顔をくしゃっとさせて、べしべし机を叩いている蔀さん。

 なんて笑いの沸点が低い人なんだ。


「お前、馬鹿じゃねえの。小堀!対抗車線走るって、どこのご老人だよ!」


「うるせえよ、蔀!」


「おい、犬塚」


 急に蔀さんが犬塚さんを呼んだ。

 馬鹿みたいに笑っていた犬塚さんの顔が一瞬で強張る。

 慌てて蔀さんの方を振り向く犬塚さんを特に気にした様子もなく、蔀さんは不敵な笑みを浮かべた。


「終わったことはグダグダ気にするな。次だ、次。そうだ。運転習えよ。でも絶対小堀には習うなよ?菊池も論外だ」


「は、はい!」


 ひどいですよ、蔀主任という菊池さんの言葉が掻き消えるほどの大声で、犬塚さんは返事をする。

 よく教育された軍隊みたいな返事だ。


「丸野さんもダメだ。訳分からんことを教えそうだし」


「そんなことないよ~しとみん。おれも運転うまいよ~」


「技術じゃない。しとみんとか、呼んでくる時点でアウトだ。だから、各務さん一択だな」


 そう言い切った蔀さん。

 やはり元ペアっていうのは絆が深いのだろうか。

 現実世界で二人が仲好く話しているところなんて見たことないけど……。

 なんか、そういう言葉には出ないけど分かり合っているって感じ、悪くないな。

 男同士の友情って感じがする。


「各務さんの運転はマジでうまい。僕はずっと各務さんに運転してもらってたからな。各務さんはテクニシャンだぜ」


 うんうん、と頷く蔀さん。

 蔀さんがそんなに怒ってないことに安心したのか犬塚さんはすっごくいい笑顔で、はいっと返事をしている。

 そこだけ見ると、すっごくいい場面なんだろうが……その、なんていうか、突っ込みどころ満載だよね。

 先輩にいつも運転させてたの?ってところもだけど、それ以上に………。


「テクニシャン?」


「テ、テクニシャンって…ブフッ」


「おいおい、蔀。各務さんにテクニシャンって。一番使っちゃいけないだろ?なんかイケナイ感じがするわ」


 笑いを堪える菊池さんに、ニマニマと笑う丸野さん。

 そして呆れた顔をした小堀さんが冷静に突っ込みを入れる。


「あの、それは誤解があるような……」


 なんとか取り成そうと小さな声でぼそぼそと訂正する各務さん。

 眼鏡の奥の困り顔がなんだか可愛らし。


「いやいや、間違ってないよ~かがみんにテクニシャンはないよね~。この男は絶対に人には言えないテク持ってるから」


「ですよね~人のいい顔して。まじで女にモテますもんね。オレも教えてほしいな~」


 いじられる側ではなく、いじる側に立つと俄然イキイキする小堀さん。

 その場はまとまったとばかりに笑いが起き、段々と話題が移っていく。

 ただ聞き耳を立てていた私、相田の心は熱く火照ったままだ。

 耳朶に残るテクニシャンの響き。

 何が、何があったんだ各務さんと蔀さんの間に!

 各務さんの運転中にテクニシャンだと思わされることがあったのか。

 やばい!やばすぎる!誠実な顔して、テクニシャン。

 やっぱりあの色気はほんまもんだ!

 そのテクニック、是非に披露していただきたい。

 どういうテクなんだ?

 攻めるのか?それとも誘っちゃって受けちゃうのか?

 しかも全員が周知してるって、何?攻めまくりなの?

 ああ~妄想が爆発する!

 仕事が立て込んでいるのに、このままではも、妄想の波に飲まれてしまう。

 でも、飲まれても悔いはない……

 い、いざ行かん。妄想の小島へ!


「ああ、僕、しょんべん行ってくるわ」


 色気のない一言がスパッと波を防いだ。

 波の向こうに見えた小島が幻となって消えていく。

 なんていうか、蔀さん。恥とかそういうのない人なんだな。

 ツンツンとお高くとまっているイメージだったけど、今はもうそのイメージで妄想できなくなってきたな。

 気ままな天然か。しかも小学生っぽい感じだ。

 相変わらず表情のない綺麗な顔を引っ提げて、トイレに向かう蔀さんを横目で追う。

 蔀さんの退場でその場がお開きになったのか、丸野さんがどこかに電話を駆け出し、各務さんがパソコンに向かう。

 菊池さんが庶務係の方に何かを伝えに向かい、そこには小堀さんと犬塚さんが残った。


「あんま引きずるなよ。蔀も気にするなって言っただろ?あいつはああ見えてすっげえ分かりやすい。気にするなって言ってんだから、あいつは別に怒っちゃいないってことだよ。気にして方が馬鹿見るぜ?」


「そ、そんなもんですか?おれ、人の顔色窺うとか得意じゃなくて、その……」


「何、でっかい図体して女々しいこと言ってんだ。あいつの顔色なんて窺ってるヒマあったら、得意先の薄ら禿げの顔色を窺っとけよ。一狩り行くんだろ?」


「いやいや狩りませんよ、髪の毛なんて」


「髪の毛は冗談だよ、お前。ホント、馬鹿だな~」


 小堀さんが犬塚さんの大きな肩をバシバシと叩いている。

 裏も表もない、屈託のない笑みだ。

 犬塚さんもどこか安心した顔で笑っている。


「蔀はな、表情が顔に出ないから分かりにくいけど、すっげえ単純な性格してんだよ。ただの面倒くさがりで、気ままなゲーマーだよ。でも、あいつは裏とか表とかないから、その言葉通りに受け止めればいいんだよ。お前は馬鹿なんだから、馬鹿は馬鹿らしくしとけよ。ない知恵巡らせても、所詮は蔀だぞ?」


 なんか意外な言葉だった。

 表情を見なくても分かる単純な人なんだ。

 遠目で見ていると分からないことばかりだ。

 単純で人の顔色も分からない犬系男子と、単純で顔色を窺わなくても分かる猫系男子。

 もう少し歩み寄れば、実はすごく気の合う二人なのかもしれない。

 歩み寄れれば、の話だけど。

 ふと、窓側に視線を向ける。

 神がかり的なセンスで腐ったペアを決める天才はいつの間に席をはずしていた。

 何も考えていないクセに、そう見せかけているだけなのだろうか。

 何はともあれ、食えないおっさんだってことはよく分かった。

 そんな午後だった。


本当、何の落ちもない話をいつもすいません。

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