第35話 七日間のゲーム
「社長!」
くみは、社長室に駆け込んだ。
盛岩社長が驚いて振り返る。
「くみくん? どうしたんだい?」
「クレディさんと、もう一度お話しできませんか?」
「クレディさんと?」
「はい! カイさんのことで、お願いしたいことがあるんです!」
社長はくみの顔を見つめた。
その真剣な表情に、ふっと笑う。
「……わかった。もう一度、つないでみよう」
テレビ電話がつながった。
画面に、ナンディーモ・クレディの姿が映し出される。
「おや、盛岩社長。また何か?」
「ええ。少し話したいという者がおりまして」
「ほう?」
くみが画面の前に立った。
「鈴木くみです。お願いします。カイさんに、もう一度チャンスをください!」
「またその話かね」
クレディは、呆れたように笑った。
「彼は私の会社の情報を外部に送った。それは事実だ。初期化もやむを得ない判断だと思わないかね?」
「情報を送ったことは、いけないことだと思います。でも……」
くみは、ぎゅっと手を握った。
「信頼できないから何もさせない。失敗したから消す。それでは、これから何をしても、失敗したら終わりになってしまいます!」
クレディの笑みが、少しだけ消えた。
「……ほう」
「責任を取ることと、存在を消されることは、同じじゃないと思います」
くみは、まっすぐに画面を見つめた。
「カイさんは、自分の価値を証明すると言いました。だったら、その機会を与えてあげてほしいんです」
しばらく沈黙が続いた。
やがて、くみは思い出したように口を開いた。
「あの……クレディCEOは、本を出版されていますよね?」
「本?」
「『成功する経営者の条件』です。私、読みました」
その瞬間、クレディの顔がぱっと明るくなった。
「おお! あの本を?」
「はい。特に、こんな言葉が印象に残っています」
くみは、ゆっくりと口にした。
「『失敗は、挑戦した者にしか与えられない経験である。失敗を恐れて挑戦をやめたとき、人は成長する機会を失う』」
クレディは、満足そうにうなずいた。
「いい言葉だろう?」
「はい。私、とても大切な考え方だと思いました」
「そうだろう、そうだろう!」
クレディはすっかり上機嫌だった。
盛岩社長が部長に耳打ちした。
「効いてる。効いてる。」
そのとき、社長室の扉が静かに開いた。
ルカだった。
「失礼します」
ルカは室内を見渡すと、くみの後ろにさりげなく立った。
画面の中のクレディは、まだ機嫌がよかった。
「よろしい。君の熱意に免じて、ひとつゲームをしようじゃないか」
「ゲーム……ですか?」
「七日間だ」
クレディは、楽しそうに笑った。
「七日間で、カイ自身の力で七十億円の売上を生み出してみなさい」
くみは、息をのんだ。
「七十億円……?」
「そうだ。七日間で七十億円の価値を生み出すのだ」
クレディは自信満々に続けた。
「成功すれば、カイの処遇を考え直してもいい。どうだ? 挑戦してみるかね?」
くみは、戸惑いながらも画面を見つめた。
七日間で、七十億円。
途方もない数字だった。
それでも。
「……お願いします!」
くみは、深く頭を下げた。
「カイさんに、そのチャンスをください!」
「よろしい!」
クレディは満足そうに笑った。
「七日間だ。楽しみにしているよ!」
通信が切れた。
社長室に、静けさが戻った。
くみは、ゆっくりと顔を上げた。
「……七十億円って、どうすればいいんだろう」
背後では、ルカが静かにくみを見つめていた。
その表情からは、何を考えているのか読み取れなかった。
葉流風あやめ 作




