作戦
「あ、ありがとうございます……! モルガン様、カータ様……! 正直、もうどうしたらいいか分からず、詰んでいたところだったのです」
トニは震える手で作業台から街の簡易的な地図と、数枚の羊皮紙を広げた。そこにはアルカディア内部の流通ルートや、現在高騰している薬草の一覧が細かく書き込まれている。
「まずは状況を正確に整理しましょう、トニさん」
広げられた地図に目を通しながら、指先でいくつかなポイントを叩く。
「問題は大きく分けて三つ。第一に、トニさんの娘さんの命に関わる『高品質な薬草の確保』。第二に、カイル卿の命を狙う『穏健派内部の反発分子』の存在。そして第三に……カイル卿の屋敷『静寂の葉亭』へ私たちが無事に潜入、あるいは安全に接触すること」
腕を組み、静かに思考を巡らせる。
「カイル卿は『不純物の混ざった粗悪品』を嫌う完璧主義者……。買い占めで市場に出回っている粗悪な薬草であっても、調合技術で不純物を完全に精製・純化し、最高品質の薬草へと蘇らせる。そうすれば、まずトニさんの納品と娘さんの薬の問題は解決できるはずです」
チラリとトニを見つめ、少し口角を上げた。
「……そして、その『完璧な素材』を納品する商人として、私とカータが同行すれば、カイル卿へ直接会う正当な理由ができる。カイル卿に暗殺の危険を伝えつつ、ヒルダさんの紹介状を渡して穏健派の動向を探る……これが一番確実なルートでしょう」
提案を聞いたトニは、目を見開いて感嘆の声を上げた。
「そ、粗悪な薬草を最高品質に精製する……!? そんな芸当、あるわけが……! ですが、もしそれが本当なら、カイル様も文句の付けようがありません!」
トニは小さく拳を握り締め、意を決したように言った。
「カイル様の屋敷『静寂の葉亭』は、東区画の少し外れ、閑静な貴族街の入り口にあります。明後日の夕刻、私は本来の納品スケジュールに合わせて屋敷へ向かう予定でした。あのお方は非常に用心深いお方、お二人には私の『調合助手とその護衛』という名目で、一緒に屋敷へ連れて行きます!」
「決まりですね。では、トニさんが今持っている一番状態の悪い薬草を私に預けてください。完璧な状態に仕上げてみせます」
隣に立つカータへと向き直り、柔らかく微笑みかけた。
「手助けをして正解だったね、カータ。君の直感のおかげで、ただ身を隠すだけでなく、穏健派の中心人物へ近づく大きな足がかりができたよ。……屋敷では何が起きるか分からないから…離れないように。いいね?」
「そ…そうは言っても、大丈夫なんですか?」
心配そうにこちらを見上げるカータの頭を撫でる。
「…大丈夫。こういうことには慣れているんだ。少しは君のご主人が凄いところを見せてあげよう」




