大夢よ、これでいいのか
全ての物語は美化しすぎている・・・
今の僕には理解できないし、納得できないことが山ほどある・・・
アニメだろうとリアルだろうとそんなの関係ない・・・
少なくとも、今の僕は・・・
現実を生きている僕は、
間違いなく不幸だ・・・
不遇な人生だ、まさかこうなるなんて・・・
大好きな野球が、あんなに大好きだった野球が、
理不尽な大人によって、僕と決別する機会を与えられたんだって・・・
悔しい、悔しすぎる、涙が止まらない・・・
いいや、前を向こう。
今度の記録会で自己新出すぞ、なんてったって俺は箱根の血を受け継いでるもんな。
野球のようにへまする気がしねぇぜ、個人競技は気楽でいいぜ。
彼の名前は坂上大夢。さかうえひろむ。
群馬の田舎に住んでいるごくごく普通の中学生。
彼は元々野球部だった。
現在は陸上部である。
彼は小学の頃から野球を始め、主に外野を守っていた。
足腰の強さにはそこそこ自信はあった。
しかし中学に上がるといじめのターゲットにされてしまい、
顧問の先生とも仲違えして、結果として野球部を辞めてしまった。
信じる者が自分以外にいなかったのである。
陸上部に転部してからは毎日が気楽でしょうがない。
変なチームメイトとそれを容認する顧問も顧問。
個人競技は本当に気楽ですよね。
あと、箱根の血っていうのを補足しよう。
大夢の父は大学時代に箱根駅伝で当時の記録ではあるが区間新記録を2度樹立している。
しかも1年から4年まですべて出走し、2年から4年まで区間賞を取っている。
いわゆる箱根界のスーパースターなのだ。
坂上拓造と書いてさかうえたくぞうと読む。
現在は地元の工務店を経営しながら市民ランナーとして活動している。
拓造は息子が陸上をやることを嬉しく思った反面、複雑な気持ちもある。
あんなに大好きな野球を、いとも簡単に諦めることが大夢にとって幸せなのかどうか。
拓造はじじくさい名前の割には結構イケメンで20代に間違われるくらいに若々しく見える。
まぁそんなことはどうでもいいとして。
大夢はどれだけ父が心配しようと構いはしなかった。
薄情とはまた違った冷ややかさがあった。
「俺の人生なんだから好きにさせてくれ」
そう言って大夢は行きたくもない学校にとぼとぼと向かっていった。




