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二話目。
こうして一週間が過ぎ、六家のメンバーが風の区に集まってきた。
「ねー姫?
オレって風の区にいたんだよね?
なんで竜胆さんと違って呼ばれなかったのかな?
風の区の案内なら、オレだってできたよ?」
「そこは、公平さを選んだだけです。
ほかの方々は今日こられたのに、晶だけさきに来るのは不公平でしょう?」
「ーー竜胆さんはいいのかよ?」
「お兄様ほど、風の区を熟知しておられるかたはいらっしゃいませんから」
「ズルい!」
ぶーぶーと文句を言う晶をあしらって、あやめは他の五人にむかう。
「皆さん、よくおいで下さいました。
歓迎をいたします」
「いや、こちらこそ」
「おせわになりまーす!」
「よろしくね」
「ーーお願いします」
「誰?」
口々に挨拶をするなか、六花は後ろに隠れていた誰かを見つける。
こっそりと隠れている少年を、黒曜が引きずり出す。
「ーーなんでここに?」
「えっと、その……」
「うん?」
威圧するような笑みに、少年は震え上がる。
黒髪、灰眼の闇属性の少年は、完全に固まってしまった。
「一応、これは僕の弟なので、素性については問題ありません。
もっとも、勝手についてきたことは問題ですが」
「黒曜の弟さんですか。
ここに来るのははじめて、ですよね」
「連れてきたことはありませんからね。
年はひとつしたで、名前は黒金といいます」
「あの、はじめまして!
姫様に会えて、光栄です!」
「ーー目的は、姫か」
あきれたような目を向ける琥珀。
こっそりとついてくる理由としては納得ができるものでもあるが。
「会いに来てくださったのは嬉しいのですが、これから私たちは魔力制御の訓練を行う予定です。
あまり、相手をできませんので、ご実家にお帰りになることをおすすめしますが?」
「ぼ、ぼくも教えてください!」
詰め寄ってくる黒金に、あやめは黒曜の方に視線を向ける。
「だめだ。
姫に教えてもらうには、お前はまだ未熟だからな」
「そうだな。
訓練を望むのなら、私がふさわしいものを呼ぼう」
竜胆も黒金に目を向けていう。
六家の人間とはいえ、黒金は黒曜に甘えてあまり能力を鍛えてはこなかった。
それでも、問題がないのは確かだが、この場では能力の差がありすぎて、他のメンバーの邪魔にしかならない。
だからこその竜胆の提案だったが。
「ぼくは、姫に教えてほしいんです!」
空気を読まずにあやめにむかう。
ーーあるいみ、いつも通りに黒曜が切れた。
「いい加減にしなさい!」
そう言って黒金の首筋の服をつかんで持ち上げると、そのまま消えた。
「え?」
「は?」
「ーー」
みんなが呆然とするなか、やれやれといった様子であやめが説明をする。
「空間転移は黒曜の特技ですから」
「はい⁉」
「え、それってたしか幻の能力とかじゃなかった⁉」
「人前ではあまりやりませんが、黒曜は子供の頃からその力で私のところに遊びに来たり、お兄様のもとで訓練をしていたりしましたから」
「ーー」
もはや言葉もない六花たちの前に、黒曜が姿を現す。
「あいつは預けてきたので大丈夫です。
こちらはこちらで始めましょうか?」
「そうだな」
平常運転のあやめ、竜胆、黒曜の様子に、この三人には逆らってはいけないと、心の中に誓う六花たちだった。
黒曜は弟以外に兄弟はおりません。
今回はここまでです。
代わりに三話完結のまったく関係のない物語を投稿してますので、そちらもよろしくお願いします。




