〆 下弦夜月
「実際、僕が君を殺すのはいたって簡単なんだよ。殺す歌を歌えばいい。それだけ。電子レンジと同じ原理で頭をぽーんと、ぶっ飛ばすぐらいは出来る」
「葉月ちゃん、選んで。選択して。択一して。一つに決めて」
「死ぬか」
「生きるか」
そう、雛の声が正面から聞こえてきた。
何を言ってるんだ。殺すとか危なっかしい言葉なんか使いやがって。殺すとかそういう言葉を使っちゃダメだとか言ったのはお前だろう? だから、駄目だ。殺すとか、殺人とか。犯罪だ、とかそれ以前にそれを犯したら雛が雛では無くなってしまう。それは嫌だ。とても、嫌だ。
どうして、こんなことになったんだっけ。
考えが、思考が、混沌と化してる。混沌、そうカオス。全ては、俺が雛の事に首を突っ込んだのが間違いだったのかな。だけど、俺は友達の事には何から何まで尽くす癖がある。悪い癖だ。じゃあ、こんなことにならないようにするにはまず、雛と友達にならなければ良かったのか? そもそも、中学の時に会わないで他人のまま高校に来れば良かったのか?
それは。
それは、違う。
友達になったからこんなことになっているけれど、友達にならなかったらこんなことをする自分にそもそもなってない。ムカつくやつで、性格が悪くて、俺の名前をいつも間違えやがって、へらへら笑ってるあいつがいなかったら、たぶん俺は、今、いる俺にはなっていなかったであろう。雛がいたから俺は成長した。これを無に変えようとするのは馬鹿がやることである。
俺は、思う。雛と出会ったのは偶然でも運命でもなく、必然だった、と。
「いいでしょう」誰かが呟いた。「夜月先輩、止まって下さい」
そうして、パチンと指をならす音が聞こえた。
俺は脚から力が抜けて、その場に崩れ落ちるように座り込む。すると、正面から雛が落ちてきて、俺にのし掛かるようにして倒れてきてた。あれ、雛、目の前にいたのか。道理で近いところから声が声が聞こえてきていたわけだ。
「あう」
雛は俺にぶつかったときにそう言って、そのまま、俺の肩に顎をのせて「疲れた」と呟いて動かなくなってしまった。まさか、死んだわけではあるまいと思いつつ、頭を叩いてみるが反応なし。多分、寝たのだろう。この状況で寝れる雛の神経は鉄人級だと思われる。
さて。
このまま、再び、教理雑音やらで操られてはかなわないので、俺は寝てしまっている雛の腕をつかんで半ば無理矢理立たせて、背負う。所謂、おんぶをして(しかしまあ、意識がない人間と片足がないコラボはそれはそれは背負いにくい。)出来るだけ早足で、とは言っても俺も体力がつきた状態なので亀より遅いであろうスピードだが、歩いて出口の方に向かう。
「夜月先輩」扉に手をかけたところで月立葉月から声が飛んできた。「今日は色々、楽しかったです。それと、雛先輩に伝言で、明日は放課後ここに来なくても良いですよ。と伝えておいてください」
「……………覚えてたらな」
そう言って、俺は、扉を開けて校舎内へと入った。
今日はとても疲れた。
雛を家まで送り届けるのが億劫である。家まで帰る道程、というか、この階段を降りることが面倒くさい。雛を起こすことも考えたが、今日は色々とお世話になったのでやっぱりやめた。
「はーーーー……」
俺は、長いため息をついて、階段を降りはじめる。




