番外編:ギルバートの憂鬱
ギルバート視点の番外編です
(リゼの友人アイリーンの婚約者。リゼの婚約者ヴェルナス政務補佐官の友人かつ同僚。王宮書記官…の彼です)※epi4・epi6 ( epi2 ・番外編アイリーン視点:名前だけ)…で登場※
もしよろしければお付き合いくださいませ
アイリーンが笑うと、鮮やかな紅を引いた形の良い唇がキュッと弧を描く。
その様は見とれるほど美しい。
ギルバートは彼女の笑顔を見るたびに、ある種の感慨を持ってそう思っていた。
「ギル、聞いてる?」
「――もちろん。エリザベート嬢にヴェルナスを悩殺する方法を伝授したって話だろ?ただでさえ溺愛中の婚約者殿にそんなことをされたら……ヴェルナスの奴、卒倒してしまうんじゃないだろうか?」
「ふふっ。また延々と惚気話を聞かされるあなたには悪いけど…楽しみだわ。補佐官様がどんな様子だったか、あとで絶対に教えてね」
アイリーンが心底楽しそうに好奇心たっぷりの目をキラキラさせる。
普段は蠱惑的な印象を持たれることが多い彼女が、自分の前でだけ、ぱっと花が開いたような子供っぽい表情を浮かべる瞬間が、ギルバートは堪らなく好きだった。
「ほんとうに……僕は幸運な男だ」
それにこたえるように悠然と微笑みながらアイリーンの白く美しい指がその口元に添えられる。
はたらくこととは無縁の滑らかな肌と磨き上げられた艶のある指先をそっと掴んで引き寄せ、手の甲にゆっくりと唇を落とす。
――幸運な男
周囲の人々は、ギルバートをそう呼ぶ。
言外に隠された皮肉をはっきりと匂わせて。
地味で目立たぬ存在でありながら、たまたま出世のタイミングが功を奏し、華やかで美しいアイリーンを婚約者として手に入れることができた狡猾で“幸運な男”と。
「……ギル?」
不自然に長く続く指先への口づけにアイリーンの瞳が揺れる。
ギルバートが顔を上げ、なんでもない、と口の端を緩めると、アイリーンの細く長い腕が伸びてきてギルバートの首元に絡みついた。
「愛してるわ、ギル」
◇ ◇ ◇
さて、ヴェルナスの奴の話に付き合わされる前に仕事を片付けておかねば。
執務室に入ったギルバートは今日中に処理する必要のある書類に目を通すと、優先する順に振り分け、時間配分をざっと計算した。
これなら途中でヴェルナスの奴に邪魔をされても――そこまで考えて、思わず自嘲の笑みがこぼれる。
面倒で大切な友のためとはいえ、当たり前のように仕事の時間配分にまで干渉させてしまうとは……。我ながら都合のいい人間すぎるかもしれない。
もっともアイリーンはギルバートのそんなところも好ましく思ってくれているようだが。
その華やかな容姿と社交をそつなくこなす様子から『派手』『妖艶な女』ときは『色目をつかっている』とまで評されることもあるアイリーン。実際、ギルバートと婚約した後も、パーティなどであからさまにぎらついた目を彼女に向ける男たちが後を絶たない。そんな風に見られてしまう自分を恥じて、ギルバートに嫌われてしまいはしないか……と、不安げに、気持ちを確かめるかのような言葉を重ねてくるアイリーンを人々は知らない。
――談笑されていた令嬢はどなた?ああいった、大人しくて控えめなかたが好みなの?
――誠実なあなたといると、自分がひどく軽薄な人間に思えるの
――あなたに選んでもらえて、自分のことがやっと好きになれたわ
実際の彼女はそんな噂とはほど遠い、むしろ素朴で繊細な一面をもつ優しい女性だった。
ヴェルナスといい、アイリーンといい……。
周りから持たれる印象とは違う一面を持つ人間の本当の姿をギルバートだけが知ってしまうのは、偶然なのか、もしくは特技のような性質なのか……。
とりとめのない考えに思いを巡らせながら書類を捌いていると、突然ギルバートの執務室の扉がノックとほぼ同時に荒々しく開け放たれた。
「ギルバート‼聞いてくれっ‼僕の天使がっ‼」
来たな
待っていたよ
興奮気味に肩で息をするヴェルナスに、手のひらを恭しく滑らせてソファを指し示す。
さぁ今日もたっぷり聞かせてもらおうか
愛しの我が婚約者が君たちの話を楽しみに待っているからね
中短編連載の…しかもメインではないキャラの番外編にお付きあいくださり、本当にありがとうございました。
リゼやヴェルナスの可愛らしい『いちゃいちゃ』と違ってオトナな雰囲気のお二人……。
お楽しみいただけておりましたら幸いです。
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本当にありがとうございます。
またつぎの作品もお楽しみいただけますことを




