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難しい問題

 ともかく、落ち着こうと俺はテーブルの席に座っていた。

 衝撃の事実に俺と麻里奈が結婚することになっていた。しかも、驚くべきことに決まったのは俺が眠っている間だという。つまり、起きるかもわからない俺と結婚させようとしていたわけだ。

 こればっかりは文句の一つでも言ってやらねば気が済まない。麻里奈もそうに違いない。


「待て待て、俺と麻里奈は――」


 そんな関係ではない。

 そう言おうとした俺の腕を掴む人がいる。その細い腕からは考えられないほどに強く俺を引っ張る。否応なしに言葉を遮られた俺は、腕を引っ張る麻里奈に向けて視線を向けた。

 俺と結婚するなんて、麻里奈も認めるはずがないのだ。好き嫌いの話ではない。人間とそうでないものではその前提が瓦解する。ありえない組み合わせだと、麻里奈も言うはずなんだ。


 でも。


 じゃあ、どうして麻里奈は泣いているんだ……?

 涙を流す麻里奈を見て、言葉が詰まる。一体何が問題だったのだと、これまでの行動を逐一確認し返す。わかるはずもない。だって俺は、根本から間違えていたのだから。俺は麻里奈の心など何一つ見てはいなかった。それが結果であると言うように、麻里奈の言葉がナイフのように突き立てられる。


「……ねえ、きょーちゃん」

「な、なんだよ……?」

「私はきょーちゃんと一緒にいると幸せだよ? 昔から一緒だったし、お風呂も一緒に入ったよね? こうして話をすると嬉しいんだよ。一緒に御飯を食べるとあったかくなるよ。きょーちゃんは? きょーちゃんは違うの?」

「いや…………俺は……」


 なんだ。いつもの麻里奈ではないように感じる。

 確かに、一緒にいれば楽しいし、離れたくないとも思う時がある。それは確かなんだ。でも、それは麻里奈が姉のようだからだ。そうに違いないんだ。そうじゃなくちゃいけないんだ。

 まるで麻里奈は俺と結婚したいように聞こえてきた。姉のように振る舞っていた麻里奈が、俺を好きだったというのだろうか。

 でも、それは……。


「ふぅむ? どうも話がこじれているように見える。他神話の死神もおらぬようだし、ちこ酷だが。つかぬことを聞くが君」

「……?」

「君はその娘を嫌っているのか?」

「バカ言え。嫌いなもんか」

「では、好いているのか?」

「それは……確かに好きだけど、別にそれは――」

「では問題なかろう」


 いや、問題しかないんだが? むしろ、どうしてそうなったのかを詳しく知りたいんだが?


 不老不死の考えはわからない。というか、わかり会える日が来るとも思えない。

 結婚てのはそう簡単に決めて出来るものではない。もっとお互いのことを知って、愛なりを育まなくちゃできないんだ。そんな簡単に思われてたまるか。舐めんな。人間の恋路はそう簡単にできちゃいないんだ。

 とも考えていたが、俺たちは嫌というほど互いの事を知っているし、愛情もそれなりに育まれているのではないだろうか。もしかしなくても、人生で初めて告白というものをされたのでは? しかも…………しかもだ。麻里奈は美人で性格も可愛らしいし、何より料理がうまい。


 もしかしなくてもこれ以上ない嫁候補なのでは?


 待て待て。ここで折れるな俺。ここではいそうですって認めてしまえば麻里奈との幸せな人生が待っているだけ……なにか問題が?

 おやおや~? これはもしかしなくても俺の心が折れかかっているというわけではないか。


 トドメの一撃と、悩む俺に日巫女が言葉を与える。


「君のことだ。大方、死なない自分は人間ではなくて、人間と一緒になるなんてありえないって考えているのじゃろう」

「うっ……」

「じゃがな。それは妾に言わせれば片腹痛いというやつじゃ。確かに妾たち死なぬ者は普通の人間ではないじゃろう。しかしな。だからといって君の好きを誤魔化ごまかす必要はなかろうて。まして、他人の好意を嘘と言うことなど、普通の人間ですらやってはならぬよ」


 そういって、日巫女は席に座っていた俺に手を伸ばし頭をなでた。

 その目には最初の妖艶ようえんさはなく。代わりに慈愛じあいに満ちたものがあったのだ。


「君の好きにしてよいのだ。それが悪いことならば、この国の長として妾が君に罰を与える。だから安心して好きにせよ。君が抱くその気持ちに嘘をついてはならぬよ」


 俺が、麻里奈をどう思っているのか。

 言うまでもない。言うまでもなく、俺は…………。


 震えていたのは、手だけではなかった。視線は麻里奈へと向き、震えている口で何かを伝えようとする。けれど、それは見事に止められることになる。

 インターホンが鳴ったのだ。リビングに集まっていたみんなの意識が一瞬で別のものへと切り替わる。速く結論を聞きたい日巫女から、舌打ちが聞こえた気がしたが言及はしなかった。

 妙な緊張から解き放たれた俺は、深呼吸を一つしてからインターホンの相手をする。

 TVインターホンなので、鳴らした人物が映像として見られる。大方、宅配か新聞会社かと思っていたが、その予想は大きくハズレた。

 インターホンに映ったのは、見知らぬ女の子たちだ。しかも双子。可愛らしい双子だが、あいにくと俺に双子の美少女の知り合いはいない。


 インターホンで悩んでいる俺の背後から何をしているのだとみんなが覗き込んでくる。

 そして、縁起えんぎでもないことを日巫女がつぶやくのだ。


「愛人かの?」

「んなわけあるか! 俺はまだ結婚すらしてないっつぅの!」

「……じゃあ、正妻か?」

「だーもう! あんたは黙ってろよ!?」


 ほらもう、麻里奈の機嫌が一気に下がったじゃんかよ! 大変なんだぞ、機嫌とるの!


 しかし、この場にいる誰の知り合いじゃないとすれば、間違いか、あるいはこういう宅配か。もしくは宗教関連かだな。

 とにかく、相手をしないといけないので、通話を開始する。

 が、俺が話すよりも速く、双子の片割れが大きな声でインターホンに話しかける。


『あれー? もしかしてお留守ですかー? おーい。きょーすけさーん?』

「……どちらさまで?」

『あっ。いるじゃないですかー。早く開けてくださいよー』


 …………この子達、だれ?

 謎の双子少女。しかも、俺の名前を知っているようだ。なんだか嫌な予感を感じつつ、モニターに映る小悪魔のように微笑む双子を見つめ直した。

topic

・麻里奈は恭介のことを想っており、恭介の否定を悲しんでいる。

・恭介は麻里奈のことを姉のように想っているが本心では別の感情が浮かび上がって来ようとしている。

・ 突如現れた双子は恭介のことを知っているが、恭介は双子のことを知らないし、決して正妻ではない。

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