二度目の悪夢
インターホンに映るのは双子の少女。そして背後には幼女、中学生、高校を卒業したての無職の美女。加えて言えば、双子の方もかなり美人で、絶賛地獄のハーレムタイム突入中であります。
お、落ち着くんだ俺。ともかく、未知の生物である双子美少女の要件を聞かなくては。畜生、ちゃっかり可愛いじゃねぇかよ!
正妻という単語を聞いたせいで、背後から感じられる麻里奈の殺気に身震いしながら小さく、しかしはっきり口を動かしていく。
「その、俺は君たちを知らないんだけど――――」
『あ、開いてるじゃないですか~』
「いや、ちょっと待てぇ!?」
一瞬迷っている間に、双子美少女は俺の玄関が開放されていることに気が付いて、さらには家主の了承もなんのそのな勢いで侵入してきやがった。常識知らずにも程がある。おかげで、不審者認定されたようで麻里奈及びその関係者は揃って戦闘体勢に移行している。
やめて! 俺の家で喧嘩しないで! お前らが戦うとここら一帯が消え去りそうだから!
今の三人に双子を合わせるとろくなことにならなそうだから、駆け足気味にリビングを飛び出すと、家の中に入ってきているであろう双子を迎えに玄関へと向かう。
どうして朝からこうも面倒なことになっているのだと嘆きたい気持ちをぐっと押さえて、謎の双子の相手をするために気を引き締める。しかし、それよりも早くにコミュニケーションが飛んできた。
「なっ」
「ありゃ? 避けられちった」
金切り音、あるいは風切り音と呼ばれる不快な音が耳元で鳴る。双子の片割れがあっけらかんに言った通り攻撃だ。そして、俺はそれを回避していた。いや、辛うじて急所を外すことに成功した。
けれど、目に見えたわけではない。ただ、ほんの一瞬にも満たない光の屈折に気がついて、咄嗟に飛び退いたのだ。けれど完全に避けきれておらず、頬がほんのりと熱い。触ってみると血が流れていた。
これで避けられたっていうことは、本気で俺を殺しに来てるな……。
どうして狙われるのかはわからないが、狙ってくる以上は本気でやり合わなければならない。ただ、問題があるとすれば、敵が可愛いということだろう。別に俺に女子は殴らない的な信念はないし、なんだったら本気で殴るような性格だ。が、いかんせん目的がわからないのだ。
そうして、俺の中のスイッチが切り替わる。眼の前にいる双子がどこの誰だろうが、そのことに関係はなく、まず間違いなく俺に害する存在であるのだと理解したからだ。いつの間にか備わったそんな普通の高校生にあるまじき感覚に嘆く暇もなく、頭をフル回転させる。
どうして俺を狙う? なんか怒らせるようなことしたか? もしかして、あの鉄仮面野郎の仲間か?
いろいろな考えが浮かぶが、次の瞬間には全てがどうでも良くなった。
今度は外さないと、一層濃くなった殺意が一点集中で飛んでくる。あれは…………人差し指?
「がっ……!」
驚くべきことに双子の片割れが放ったのは人差し指を鋭く、速く、そして重く突き出したことによる空気の弾丸だった。そして、もう一つ驚いたのが、ただの空気の弾丸であるはずのものが俺の体を貫通したことだろう。
あんなものを直接食らったら溜まったものじゃないぞ……!
そんな考えが過るが、現実でも正しくそのとおりになる。目にも止まらない速さで一直線に向かってくる双子の片割れ。今から動いても逃げられないと悟って、俺の左目が起動する。
〈宿主の生命危機を感知。《完全統率世界》の簡易詠唱を許可しますか?〉
〈簡易詠唱では効果範囲の半減と、その他複数の代償を要します〉
急激に進化をし続ける《終末論》には、正直ついていけないところがある。しかし、背に腹は代えられない。代償とやらがどういったものであっても、命よりも大きな請求は来ないはずだ。そう信じるしかない。
許可の意志を固めると、それに呼応して《終末論》が作業を始める。
〈簡易詠唱にて《完全統率世界》の展開を始めます〉
「世界の終わりを引き延ばせ――――」
大部分が省略された詠唱を終えると、その後には世界の時間の動きが遅くなる。当然、俺を襲おうとしていた双子の片割れも遅くなるはずで、その間に逃げ出せばいいと考えていた。
だが、予想していたよりも代償とは違うものが俺を襲う。
「うっ……こ、れは……」
本来の《完全統率世界》は身動きをすると加速に追いつかなくて筋肉が千切れるというものが代償だったが、簡易詠唱での《完全統率世界》は俺の心臓も背景と同じく鈍くなる。
つまり、今の俺の心臓は停止してるにほど近い動きになっているのだ。
体はいつもどおり動くのに心臓が動かない。そうなるとどうなるか。簡単に言えば、全身の血液が止まる。
「く、そっ……!!」
意識を失う前に、迫りきていた双子の片割れの一撃を確実に避けられるところまで体をずらそうとするが、そこで俺はようやく絶望的な状況に気がついた。
俺を襲おうとしていた双子の片割れの体があるべき場所に無かったのだ。停止にほど近い世界で、体感時間が一分にも満たない時間でどれだけ動けるというだろう。もしも、彼女が停止にほど近い世界を何の不自由なく動けるのだとしたら、今は一体どこにいる? 俺だったらどこで今、何をしようとする……?
「ふ~ん。お兄ちゃんを倒したって言うから、どれだけ強いんだろうって思ったら、大したことないじゃん」
「そんな言い方したらダメですよ~。ほら~、大一番じゃないと強くないっていう人種もいるじゃないですか~」
最悪の事態だった。予想をするまでもなく。否、考えるまでもなく、双子は俺が思いあげた最も嫌な、かつ絶望的な場所でそうつぶやいた。
おいおい。まじかよ、この双子……この世界を普通に動いてやがるだと……?
さもありなんと言いたそうに、双子は倒れ込んでいる俺を見下す。そうして、人差し指でとんでもない威力を放つ方の双子が右肘を上げる。どうやら俺に向けて人差し指を打ち込むようだ。しかも、俺の背後に立っている。その指は容易に俺に届くだろう。
これは逃げられない。加えて言えば、もう心停止で俺の意識も薄くなっている。心停止で死ぬか、双子に刺殺されるかの二択に絞られた短い人生だ。俺の家にいる人では俺は救えない。時間が停止に近い状況を動けるのは双子と辛うじて俺だけなのだから。あるいは、黒崎颯人ならば、この状況を笑って覆すのかもしれないが。
そうして、わけも分からず殺されそうになっている俺を救ったのは、これまたどうしてここにいるのかがわからない人である。
「勝手にいなくなったと思ったら、やっぱりここに来てたのね。ほらほら、ダメだよ二人共」
バチコンと軽く頭を叩くようなモーションで叩かれた双子の頭が床にめり込んだ。
人の家の床に大きめなクレーターを作り上げた張本人は、やれやれと首を振りながら本当に落ちそうな俺に向けてこういうのだ。
「ゴメンね、幼馴染くん」
「ど、どうして、あなたが……由美さん……」
満面の笑みを振りまいて、黒崎由美参戦。
こうして、本日二度目の面倒事は立ち去って、さらなる最悪に狙われる羽目となった。
topic
・見ず知らずの双子は突如として攻撃を仕掛けてきたため敵であると考えられる。
・終末論の簡易詠唱可能になったが、簡易詠唱は代償が普段とは違い、身を滅ぼすほどのデメリットを付与する。





