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『フールの大冒険 ~本の世界に消えた両親を探していたら、聖なるマップに選ばれました~』  作者: ☆☆アダム☆☆


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第16話 帰ってきた盗賊

「……久しぶりね」

女性の一言を聞いた瞬間。

オラクルが、完全に固まった。

さっきまで借金取りから全力で逃げていた男とは思えない。

耳も。

尻尾も。

ぴん、と伸びたまま動かない。

「オラクル?」

「……」

返事がない。

私は女性とオラクルを交互に見る。

女性は二十代後半くらいだろうか。赤茶色の長い髪を後ろで束ね、腰には短剣を一本差している。

服装は普通なのに、目だけが妙に鋭い。

そして何より。

オラクルを見る笑顔が怖かった。

「知り合い?」

「違う」

懐の《真実のカード》が光った。

【FALSE】

「知り合いじゃん」

「今はカード出さなくていい!」

女性の笑顔がさらに深くなる。

「相変わらずなのね、オラクル」

「いやぁ……その……」

「五年ぶり?」

「四年と十ヶ月くらい――」

ドゴッ!

「ぐえっ!」

女性の拳がオラクルの腹へ突き刺さった。

「オラクルーーー!?」

身体がくの字に折れる。

そのまま膝から崩れ落ちた。

私は慌てて駆け寄った。

「ちょっと! いきなり何するんですか!」

「大丈夫よ」

女性は笑顔のまま答える。

「昔からこれくらいじゃ死なないから」

「基準がおかしい!」

オラクルが腹を押さえて震えている。

「相変わらず……いい拳してやがる……」

「褒めなくていいよ!」

女性は腕を組んだ。

「何も言わず街から消えて、何年も帰ってこない馬鹿にはちょうどいいわ」

「仕方なかったんだよ」

「そう」

女性が一歩近づく。

オラクルが一歩下がる。

「じゃあ説明してもらおうかしら」

「……何を?」

「私の店から盗んでいった酒、三本」

「昔の話だろ!」

「宿代、十二日分」

「覚えてねぇ!」

「壊した窓、二枚」

「それ俺じゃ――」

【FALSE】

「オラクル?」

「……一枚は俺です」

「もう一枚は?」

「たぶん俺です」

【TRUE】

「両方じゃん!」

女性が私を見る。

「あら。この子、面白いもの持ってるのね」

「《真実のカード》です」

「フール!」

「何?」

「故郷で俺に使うな!」

「なんで?」

「死ぬほど都合が悪い!」

【TRUE】

「自分で言ってるよ!」

女性が吹き出した。

初めて怖くない笑顔を見た気がする。

「あなた、名前は?」

「フールです」

「私はナナ。宿屋兼酒場をやってる」

「宿屋!」

ちょうどいい。

私はオラクルを見る。

「泊めてもらおうよ!」

「嫌だ」

【FALSE】

「本当は泊まりたいんだ」

「違う! こいつの宿に泊まったら昔話を全部聞かされる!」

「それは泊まりたい!」

「フール!?」

ナナさんが私の肩を抱く。

「決まりね」

「決めんな!」

こうして。

盗人の街アルセウスに到着して十分も経たないうちに。

私たちの宿は決まった。

オラクルだけが、ものすごく嫌そうだった。

ナナさんの店は、街の中心部から少し離れた路地にあった。

看板には大きく、

【酒場・宿 《黒猫の尻尾》】

と書かれている。

私は店へ入る前に、オラクルを見た。

「黒猫って……」

「言うな」

「オラクルから取った名前?」

「言うな」

ナナさんが笑う。

「こいつが子供の頃、店の屋根裏に勝手に住み着いてたからね」

「子供の頃!?」

「ナナ!」

「食べ物もよく盗まれたわ」

「生きるためだ!」

「酒まで?」

「……好奇心だ」

私は口元を押さえた。

「ふふっ」

「笑うな!」

「だってオラクル、子供の頃から何も変わってないじゃん!」

店の中には十人ほどの客がいた。

酒を飲む男。

カードをしている女たち。

カウンターで眠っている老人。

一見、普通の酒場。

……だった。

「あれ?」

カードをしている客の一人が席を立つ。

その瞬間。

隣にいた男が、空いた椅子を持ち上げた。

「その椅子俺の」

「店のよ」

ナナさんが即答した。

男が静かに椅子を戻す。

「盗もうとした!?」

「日常よ」

「日常にしちゃダメです!」

さらに奥。

男二人が握手している。

「商談成立だ」

「よろしく」

握手を終える。

片方の男が歩き去る。

残った男が自分の腕を見る。

「……時計がない」

「握手だけで!?」

オラクルは懐かしそうに店内を見回した。

「変わってねぇなぁ」

「安心しないでよ!」

私は鞄を胸に抱いた。

もう絶対に離さない。

すると。

小さな男の子が私の前を通った。

「お姉ちゃん」

「なに?」

「靴紐ほどけてるよ」

「え?」

足元を見る。

ほどけていない。

「あれ?」

顔を上げる。

男の子がいない。

嫌な予感。

私は鞄を確認した。

黄色い子のお金袋。

ある。

真実のカード。

ある。

回復薬。

ある。

「よかった……」

オラクルが私の頭を見る。

「フール」

「何?」

「髪飾りは?」

「……え?」

頭へ手をやる。

ない。

「髪飾り盗まれたあああああっ!」

店の奥で。

さっきの子供が嬉しそうに私の髪飾りを掲げていた。

「返して!」

「捕まえたらね!」

「この街、子供まで泥棒なの!?」

私が追いかけようとすると、オラクルが男の子へ声をかけた。

「おい、チビ」

少年が振り返る。

オラクルは一枚のコインを指で弾いた。

キィン。

「返してやれ」

男の子は空中でコインを掴む。

私の髪飾りを放り返してきた。

「はい!」

「ありがとう……じゃない!」

少年は笑いながら店を飛び出していった。

私は髪飾りを付け直す。

「オラクル」

「何だ?」

「この街で育ったんだよね?」

「ああ」

「よくまともに育ったね」

沈黙。

「……何か言えよ」

「まともか考えてた」

「即答しろ!」

ナナさんが腹を抱えて笑っている。

夜。

私はカウンターで夕食を食べていた。

ナナさん特製の煮込み料理。

見た目は少し怪しかったけれど、味はすごく美味しい。

オラクルは隣で酒ではなく水を飲んでいる。

「飲まないの?」

「ナナの前で酒飲むと、昔盗んだ三本分まで請求される」

「当然じゃない?」

ナナさんがカウンターへ一枚の紙を置いた。

「ところでオラクル」

「嫌な予感」

「仕事しない?」

「断る」

「話くらい聞きなさい」

「故郷に戻って最初に紹介される仕事なんて絶対ろくでもねぇ」

【TRUE】

「すごい。経験者の説得力」

「喜べねぇよ」

ナナさんは私へ紙を見せた。

そこには、一枚の絵が描かれていた。

古い屋敷。

そして。

屋敷の二階。

一つの窓に、女性らしき姿が立っている。

「最近、この街で妙なことが起きてるの」

「妙なこと?」

「ある絵を買った人間が、次々と消えてる」

私は食べる手を止めた。

「消える?」

「三日前に一人。昨日二人」

ナナさんが紙を指で叩く。

「共通してるのは――同じ画家の絵を持っていたこと」

オラクルの顔から冗談っぽさが消えた。

「行方不明?」

「ああ」

「盗人が逃げただけじゃねぇのか?」

「この街で?」

ナナさんが鼻で笑う。

「逃げるなら借金残してから逃げる」

「基準がおかしくない!?」

「アルセウスでは普通よ」

「普通って便利な言葉じゃないよ!」

ナナさんは話を続ける。

「しかも、その絵には変な噂がある」

「どんな?」

「夜になると」

声を少し落とす。

「絵の中の人間が――動く」

ぞわっ。

私は思わずオラクルの袖を掴んだ。

「今の、嘘?」

「俺に聞くな」

私は真実のカードをナナさんへ向ける。

「絵の中の人が動く?」

「私は実際には見てない」

カードは反応しない。

本人も真偽を知らないらしい。

ナナさんがもう一枚の紙を出す。

今度は住所。

「最後に消えた男の家だ。まだ絵も残ってる」

オラクルがため息をつく。

「兵士に任せろよ」

「アルセウスの兵士がまともに働くと思う?」

「……」

【TRUE】

「カードまで認めちゃった!」

「じゃあ誰が調べるんだよ」

ナナさんが笑った。

そして。

オラクルを指差す。

「地元出身の盗賊」

次に私。

「☆3秘宝を持った女の子」

「組み合わせが雑すぎる!」

「成功したら」

ナナさんが指を一本立てた。

「オラクルの昔の借金、半分にしてあげる」

オラクルの耳が立った。

「本当に?」

「本当」

【TRUE】

「行くぞフール」

「決断早っ!」

さっきまで嫌がってたのに。

「借金半分だぞ!」

「私には何の得もないよ!」

「夕飯代、俺がおごる」

「ナナさん、いくらですか?」

「二十B」

「安い!」

それでも。

私は紙に描かれた絵が少し気になっていた。

両親探しとは関係ないかもしれない。

けれど、誰かが本当に消えているなら放っておけない。

それに。

この世界には、私の知らない不思議なものがたくさんある。

「……分かった」

私は頷いた。

「調べよう」

聖なるマップを開く。

すると。

新しい文字が浮かんだ。

【SUB QUEST】

【消える絵の謎を追え】

そして。

その下。

【注意】

【絵を見る時は――】

文字が途中で止まる。

「え?」

続きが出ない。

オラクルが地図を覗き込む。

「故障か?」

「そんなわけ――」

その瞬間だった。

店の壁。

飾られていた風景画の中で。

一瞬だけ。

描かれていたはずのない女の顔が――。

こちらを見た。

「……オラクル」

「何だ?」

「今、あの絵……」

もう一度見る。

普通の風景画。

誰もいない。

「……なんでもない」

そう言いながら。

私はなぜか。

今夜は絵のある部屋で寝たくないと思った。

お読みいただきありがとうございます!

今回はアルセウスの日常を少し多めに書きました。

子供までスリをする、とんでもない街です。

そしてオラクルの昔を知るナナも登場。

騒がしい故郷編ですが、最後には少し不気味な依頼が舞い込んできました。

夜になると人が動くという絵。

果たして本当にただの絵なのでしょうか。

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