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「あら、リリー。血相かえてどうしたの?」
血走った目をしたリリーをチラリと見てフェリシア姫は優雅にお茶を飲んだ。
椅子に腰かけて愛人からの手紙を読んでいるところだったようだ。
「フェリシア様、酷いですよ。私は宝石なんて盗んでいません」
リリーは極めて冷静に言った。
本当は怒鳴りつけてやりたいが、怒りに任せたところでいい事なんて1つも無いと心を落ちつかせる。
頬をヒクヒクさせて血走った目をしているリリーを見てフェリシアは上品に笑う。
「不細工な顔をしているわよ。ま、元から不細工だけれどねぇ」
「アルヴェイン様に、私が宝石を取ったと言いましたね!しかも、王都でも手癖が悪かったなんて嘘を言って!訂正してください」
怒りを抑えながらリリーが言うとフェリシアは面倒くさそうにチラリと視線を向ける。
「あらぁ、主人に逆らうの?私の侍女なら黙って仕えなさいよ。せっかく盗人でも気立てはいい子なんですよって言ってあげたのに」
「盗人を訂正してほしいと言っているんです。盗んだのはフェリシア様ですよね」
リリーが言うとフェリシアの目が鋭くなった。
「リリー、どこまで聞いていたの?やっぱり昨日、私が話していることを聞いていたでしょう」
「……フェリシア様が宝石を盗んだことですか?」
聞いていましたともとリリーは頷く。
フェリシアは鋭い瞳のままリリーを見つめた。
「あら、そう。それをアルヴェイン様に言ったの?」
「まだ言っていません」
まだという部分を強調してリリーが言うとフェリシアはクスクスと笑いだした。
「言えばよかったのに。でも盗人侍女の言葉なんて信じないでしょうけれど」
(盗人と名付けたのはフェリシア姫でしょ!勝手に人を泥棒呼ばわりして)
怒っているリリーを面白そうに眺めてフェリシアは机の上からワインボトルを手に取った。
「見て。これも貴女が盗んだんでしょう?」
古びたワインのボトルを見せつけながらゆっくりと立ち上がってフェリシアは面白そうに言う。
薄汚れたワインのボトルラベルにオルフェルス家の紋章が入っている。
血のように赤いワインが入ったボトルをゆっくりと揺らしてフェリシアは微笑んだ。
「こんなもの盗んで。ダメな侍女ねぇ」
「そんなわけありません!やっぱりワインも盗んだんですね!嫁入り先で物を盗むなんて最低ですよ。と、いうか今までも物を盗んでいたんですか?」
宝石を買いあさっている印象はあったが、物を盗んでいるのを気付くことは無かった。
そこまで酷い人間だったのかとリリーは呆れ果てる。
「盗んだんじゃないわよ。お嫁に来るんですもの、全部私の物なのよ」
当たり前のように言われて一瞬そう言うものなのだろうかとリリーは納得しそうになる。
結婚すればオルフェルス家のものはすべてフェリシアの財産になるのだ。
「それでも盗んで愛人と分け合うのはダメですよ」
「うふふっ。リリーは真面目ねぇ」
フェリシアはそう言うと封の開いたワインのボトルをリリーの頭の上に持っていくとひっくり返した。
ドボドボと生ぬるい赤いワインがリリーの頭の上から滴り落ちてくる。
葡萄の香りがするワインとアルコールの匂いで頭がクラクラしそうになりながらもリリーは一歩下がった。
「な、なにをするんですか!」
抵抗する隙を与えずフェリシアはリリーの口にワインのボトルを当てて一気に中身を流し込んだ。
喉の奥に大量のワインが入ってきて溺れそうになりゴクリと一気に液体を飲み込む。
次から次へとワインをがなしこまれてリリーは溺れないようにごくごくとワインを飲み干した。
「あははっ、いい飲みっぷりね」
半分ほどボトルを開けたところでワインボトルをリリーの口から離してフェリシアは高笑いをする。
口からあふれ出るワインを手の甲で拭ってリリーはフェリシアを睨みつけた。
「なんてことをするんですか」
「これでリリーも同罪よ。盗んだワインを飲んだなんてねぇ。ダメな子」
幼さの残る可愛い顔で媚びるように見つめられてリリーはムッとする。
(この顔で一体何人の男を騙してきたのよ)
女から見ても可愛いと思うようなフェリシアの顔と態度のリリーの怒りがまた蘇る。
「私、侍女を辞めて田舎に帰ります」
頭から掛けられたワインを拭いながらリリーは言った。
フェリシアは驚いた様子もなくニッコリと微笑む。
「あら、そう。帰れるといいわね」
「どういう事ですか?」
これ以上何かあるのだろうかと怪しんでいるリリーにフェリシアは高笑いをする。
「死体になって帰るってこともあるわよ」
「はぁ?」
まさか殺されるのかとリリーは身構えようとするが視界がくらくらと歪んで平衡感覚を失い上手く立てない。
舌が痺れたようになり呂律が回らず何か話そうとするが口から出るのは低い呻き声だ。
呼吸が苦しくなり、口を開けようとするが胃の中がかき回されたような痛みに嘔吐しそうになる。
開いたままのリリーの口から泡があふれ出した。
「ひ、ひぃ」
何んとか息を吸おうと大きく口を開けようとするが上手く吸えない。
上手く呼吸が出来ず、全身の力も入らずリリーは床に倒れ込んだ。
リリーの口から泡があふれ出てくる。
(なに、どうしちゃったの)
パニックになりながらも何とか目を開けると、可愛らしく微笑むフェリシア姫の大きくて黒い瞳と目があった。
「薬をね、盛ったのよ。最後だろうから教えてあげる。麻薬って知っている?それを大量に入れてあげたの。やっぱりこれだけの量だと死んじゃうわね」
(信じられない!なんてことをするの)
怒りと共に死んでしまうのではという絶望的な気分になりリリーの目から涙があふれ出た。
涙を流して口から泡を吹いて倒れているリリーを見てフェリシアは楽しそうに笑った。
「私に反抗するものはみんな死ぬのよ」
花の妖精のような可愛らしい笑みを浮かべたフェリシアを見つめながらリリーの息が止まった。




