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「はぁ、嫌になっちゃう。こんなクッソ寒い中外で待たせるとかある?」


 手を擦りながら文句を言うアンナにリリーも震えながら頷いた。

 宝石を買うという理由をつけて町へやって来たフェリシア姫についてきたリリーとアンナ。

 案の定宝石店に入ると、王都でよく会っていた男がやってきていた。

 わざわざ数日かけてフェリシア姫に会いに来たのかと呆れてしまう。


 宝石店に入るとすぐにフェリシア姫は金髪の男と2階の個室に入ってしまい、リリーとアンナは外で待つようにと命令をされた。

 どんよりとした灰色の雲を見上げてリリーはかじかむ指に息を吐きかけた。


「雪が降ってきそうよ」

「そりゃ、こんな寒いんだもの。いつ降ってきてもおかしくないわよ。足も感覚が無くなってきそうよ」

 

「私もやっぱり仕事辞めようかしら」


 リリーがポツリと呟くとアンナは大きく頷いた。


「一緒に辞めましょうよ。いくら給料が良くてもこんな扱いはあんまりよ。私は男爵家だけれど、リリーは伯爵令嬢じゃない、いくらでも縁談はあるわよ。ここに居るよりまし!」


 弾丸のように早口で言われてリリーは頷いた。


「それがいいわよ!最近フェリシア姫の悪魔な性格、酷すぎるわよね」


「本当よ。せめて喫茶店で待たせてくれればいいのに。行ったらダメなんてことをわざわざ言うなんて悪魔よ。男遊びが出来ないから年中怒っているし」


 寒さを紛らわそうと足踏みをしながら言うアンナにリリーも頷く。


「確かに最近ヒステリーが酷いわね」


 寒空の下で男とデートしている間外に待たされるのはいくらリリーでも耐えられない。

 田舎に帰って何をしようと空を見上げているリリーの背中をアンナが叩いた。


「やばいわよ。あれ、アルヴェイン様じゃない?」


 アンナが顎で指した先には騎士団の集団の中、馬に乗っているアルヴェインの姿が遠くに見えた。

 こちらに来る様子は無いが、リリーは眉を顰める。


「まさかと思うけれど、集団でやってきて愛人との現場を押さえるとか?」


「そうなったら私達どうなると思う?」


 引きつっているアンナにリリーも変な汗が出てくる。


「酷い目に合うわよ。フェリシア姫の権利を使って実家だってどうにかなるかもしれないわよ」


「ありえるわね。もし彼らがきたら入口で止めて時間稼ぎするから、リリーはフェリシア姫にお知らせしてきて」


「わかったわ!」


 フェリシア姫を庇うわけではないが、もし男と遊んでいる現場を押さえられたらアルヴェインだって黙っていないだろう。

 フェリシア姫も縁談が無くなれば行く場所が無くなるはずだ。

 王はもう城に帰って来るなと言っていた。

 そしてアルヴェインに尽くしなさいと最後言っていたのをリリーは目撃しているのだ。


(あのフェリシア姫が田舎に来たぐらいで大人しくなるはずないじゃない)


 しかし、男が居ないから遊べないで終わるような姫ではない。

 新しい男を作るかもしれないとは思っていたがまさか王都から呼び寄せるとはリリーも想像がつかなかった。

 結婚前に不貞がバレればフェリシア姫は縁談が無くなり、そしてその怒りはリリーやアンナに向く。

 それだけは避けたいとリリーは宝石店へと入った。


 店を貸し切っている店内は店長が一人でショーケースを磨いていた。

 血相を変えて入っていたリリーを見てぎょっとしている。


 店長の顔を見てリリーも内心ぎょっとする。

 フェリシア姫が王都で宝石を良く買いに行っていた店の店長と同じ顔をしているからだ。


(嘘でしょ。まさか王都から呼び寄せたの?密会をするために?)


 心の声が漏れそうになるのを堪えてリリーは見覚えのある店長を見つめながら早口で伝える。


「アルヴェイン様がすぐそこまで来ています。騎士団とご一緒なので町の見回りかもしれませんが一応お知らせしようかと思いまして」


「なるほど。見つかったら厄介ですね、2階にいらっしゃるのでお知らせしてください。もし店に入ってきたらここでも足止めしておきます」


「ありがとうございます」


 リリーはお礼を言って階段を駆け上がった。

 青い絨毯が敷き詰められている廊下を速足で歩き一番奥の部屋までたどり着いて息を大きく吸ってドアに耳を付けた。


(行為の真っ最中だったら声なんて掛けられないわよ)


 今何をしているか耳をそばだてていると中で話しているフェリシア姫の声が聞こえてきた。


『ねぇ、この店を買い取ったから私たちで使い放題よ』

『なるほど、どうせ姫様は他の男とも遊んでいるだろう?この店で他の男と会うのは流石に禁止するよ』


 フェリシア姫と男の声が聞こえる。

 数人いる男の中でもフェリシア姫の一番のお気に入りの人物だ。


(お気に入りも数人いると会うのも大変よね。しかも店を買い取ったですって、信じられない)


 自分では何もしないくせに、男と会う事は率先して行動をするもんだとリリーは腹を立てながら中の様子をうかがう。


『まぁ、私は可愛いから。男がほおっておかないわ。それに、ほら宝石こんなに手に入れたの』


(宝石を手に入れた?)


 フェリシア姫は宝石が大好きなのは知っているが、手に入れたとはどういう事だろうか。

 リリーは耳を澄ませる。


『あのお城の地下は宝石の宝庫なのよ。無造作に沢山置かれていたの。怪しい古いワインもあったから今度それで乾杯しましょう』


『なるほど。悪い姫様だな。オルフェルス伯爵家ならいい宝石もありそうだ。それに、ワインも高く売れるだうな。オルフェルス家のワインは高いお金で取引されるという噂は聞いたことがある』


(ワインなんて作っているの?)


 リリーは耳を澄ませながらもまさかフェリシア姫が宝石を盗んできている事実を知って胃が痛くなってくる。


(あれほど地下に行くなって注意したじゃない。自分ではペン一本取りに行くこともしないくせに宝石を盗みに地下室まで一人で歩いて行ったのがびっくりだわ)


 日頃、こき使われている事を思い出しながらリリーの怒りが爆発しそうになる。

 自分で櫛を使って髪の毛を整えることさえしない姫が宝石は持てるのかと怒りに震えながらリリーはドアをノックした。


「リリーです。アルヴェイン様と騎士団の方が店の周辺に居ますのでお知らせに来ました」


 小声で言うと中からフェリシア姫の反応が返ってきた。


「あら、リリーどうもありがとう。大丈夫よ、もし見つかってもアルヴェイン様なら許してくれるわ。だって私に惚れない男は居ないんですもの」


 うふふっと可愛い声で告げるフェリシア姫にリリーは背筋がゾゾッとする。

 普段はドスの利いた低い声で命令してくるくせに、男の前だからか鈴を転がすような可愛い声をだしているフェリシア姫に拒否反応を覚えてリリーは自分の腕を摩った。


(絶対に仕事辞めよう。もう無理だわ)


 仕事をやめて田舎の実家に引っ込もう。

 たとえ、兄夫婦が嫌がったとしてもここに居るよりましだとリリーは決意をした。




 

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