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「おっ、これは大収穫ですね」


 リリーが盗んできた領収証と、フェリシア姫の手紙を見てフェルナンは手を叩いて喜んでいる。

 ソファーに座るアルヴェインは疲れように頷いた。


「宝石を売った相手を追跡してくれ」


「解っておりますとも、直ぐに手配しましょう」


 リリーと同じぐらいウキウキしながらフェルナンは領収書を手に部屋を出ていく。

 それを見送ってアルヴェインは机の上に置かれた箱の中に入っているリリーを眺めた。


「他に何か手掛かりになりそうなものはあったのか?」


「部屋にはフェリシア姫の恋人レニーが居眠りしていました。書類の整理をしていたようでしたが飽きてしまったのでしょうね。片付け下手で、大量の紙が机にぶちまけられていました」


「なるほど。書類を処分するという頭が無いのかもしれないな」


 アルヴェインは大きくため息をついた。


「お疲れですね」


 元気がなさそうなアルヴェインの様子にトカゲの目をキョロキョロさせてリリーは言う。


「トカゲと話していると頭がおかしくなってくる。俺はトカゲが嫌いだ」


「もう何度も聞きましたよ」


 飽きれているリリーにアルヴェインは顔を顰めながら頷く。


「何度でも言う、俺はトカゲが大嫌いだ。触るのも嫌だ!だが、リリーがもしかしたら生き返るかもしれないということが解った」


「それも聞きましたよ。でも生き返らないかもしれないんですよね」


 冷めた目で見るリリーにアルヴェインは頷く。


「蘇った例は実は一例だけある。ただ、かなり昔の話だから信憑性に欠ける。リリーの遺体にはオルフェルス家の家紋が浮かび上がっていた」


「私の腕にあった痣ですね」


 リリーは頷く。


「あの痣が出ていれば復活する可能性は高いが、無理なこともある」

 

 もったいぶるような言い方にリリーは歯を見せる。


「まだろっこしいですよ。何回同じ話をするんですか!私はもう、トカゲで無くなれば何でもいいですよ」


 アルヴェインは眉を寄せて嫌そうにリリーを見つめた。


「蘇る儀式には必要なことがある。トカゲの指先にキスをすることだ」


「はぁ?そんなもん簡単じゃないですか」


 フンと鼻を鳴らすリリーだったがアルヴェインはトカゲを嫌そうに見つめている。


「トカゲに唇をくっつけるなど絶対に嫌だ。だが、リリーの為になんとか頑張ろう」


「恩着せがましい言い方ですね。でも、希望があるなら試してみたいです!」


(もし蘇ったら、絶対にフェリシア姫を罵倒してやるんだから!そして実家に帰るのよ!)


 鼻の穴を大きくしているリリーはやる気をみなぎらせて箱から飛びだした。

 机の上からジャンプをしてアルヴェインの膝の上に乗る。

 トカゲが膝に乗った途端アルヴェインは悲鳴を上げた。


「うっ、気持ち悪い。絶対に無理だ!俺から離れてくれ」

 

 トカゲ嫌さに、リリーに触ることもできずアルヴェインはじっと固まってしまっている。

 視線だけを向けてくるアルヴェインにリリーはニヤリと笑った。


「嫌です。ほらほら、指先にキスしてくださいよ」


 ゆっくりとアルヴェインの体をよじ登り顔の目の前まで来たリリーはチロチロと舌を出す。

 アルヴェインが悲鳴を上げて顔を背ける前にいたずら心からリリーは隙をついて首を伸ばした。

 アルヴェインの唇にトカゲの唇を重ねる。


 ぎゅーっと唇を押し付けるリリーにアルヴェインは固まったまま動かない。


(これぐらいいいわよね。大好きなアルヴェイン様とキスできるなんて最初で最後だし。トカゲ姿だけれども……)


 アルヴェインの暖かい唇を堪能してリリーは唇を離した。


 アルヴェインは固まったまま動かない。


「アルヴェイン様?気絶しています?」


 アルヴェインの肩に乗ってトカゲの手をヒラヒラと顔の前にさせる。

 

「気絶出来たら幸せだろうな。しっかり起きている」


 絶望的な声を出すアルヴェインにリリーは笑う。


「面白い顔をしていますよ」


 笑うトカゲを見てアルヴェインは低い声を出す。


「最悪の気分だ」


「まぁ、私も死んでしまうかもしれませんし。最後の乙女の思い出と思って許してくださいよ」


 明るく言うリリーにアルヴェインは首を振る。


「無理だ。トカゲとキスをしたなんて人生の汚点だ」


 顔を覆っているアルヴェインを横目で見てリリーは鼻の穴を大きく開いて息を吐きだす。


「失礼ですよ!さすがの私の傷つきます。でもこれで、もしかしたら生き返るかもしれないんですよね。あと何をすればいいんですか?」


「あとは何もない。結婚式当日に蘇るか賭けに出るしかない」


「運しだいってことですか。でも、もし蘇ったとして、私の言葉なんてみんな信じますかね」


 急に不安になるリリーにアルヴェインは肩をすくめた。


「そこは演出次第だな。リリーが蘇らなくてもいいような段取りを考えないといけないな」


「まぁ、……そうですよね」


 やはり自分は死んでいるのだと急に悲しくなってきてリリーはがっくりと頭を落とす。

 トボトボと机の上に移動をしたリリーはゆっくりと箱の寝床に移動をしてうつぶせになった。

 小さく切った毛布を入れてくれているのでフカフカとした温かい感覚にリリーは目をつぶった。


(いろいろあって疲れたわ)


 キスをしたときのアルヴェインの反応を思い出してリリーは薄っすらと笑って眠りについた。




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