十五基目 心霊調査③
幽子と別れ、自分は木村さんのもとへ歩み寄った。
視線に気づいた彼は、にやりと口元を緩める。
「おう、しんいち。お前はどうする? 何か気になることはあるか?」
「はい。……やっぱり、父さんが言ってた古墳の祟りが気になります。それと、十年前の出来事が今回の再来なのかどうか……それも調べてみたいです」
「ほう、同じことを考えてたか!」
木村さんは腕を組み、楽しげに頷いた。
「じゃあ一緒にやるか。俺もずっと気になってたんだ。片原で何があったのか……な」
「じゃあ、よろしくお願いします」
自分は少し身を乗り出す。
「それで、さっき言ってた古墳のことを知ってる人物って……誰なんですか?」
「ああ?」
木村さんはわざとらしく肩をすくめ、唇の端を吊り上げた。
「そんなマイナーなオカルト話を知ってる奴なんて、一人しかいないだろ?」
「ん……?」
事件をは顎に手をあて、頭の上に疑問符を浮かべた。木村さんの言い方は、まるで自分が答えを知っているかのような言い回しだ。
数秒の沈黙。
そして……頭に、ある人物の顔が浮かんだ。
「あっ……」
思わず声を漏らすと、木村さんはそれだけで全てを悟ったように、にやりと笑う。
「あの人なら分かりそうだろ。」
低く呟く声は確信をもっているようだった。
こうして大まかな流れが決まった。
古墳と十年前の事件を追うのは、自分と木村さん。そして二年生の白石先輩。
片原の町での聞き込みや新しい情報収集は、二階堂先輩と川合先輩、新聞部の新見さん、それに片山くんと葛城さん。
そして集めた情報をもとに地図を解析するのは、椿ちゃんと幽子。
それぞれの役割が静かに固まっていく。
「みんな、役割は決まったな? それじゃあ今日はここで一旦区切ろう。現地調査は……今週末の昼間にやりたいと思う。」
木村さんの声が部室に響く。
「できるだけここにいないメンバーにも声をかけて増員してみる。他にも友人や知人でも構わない。当日、調査を手伝ってくれそうな人物がいれば声をかけてくれ。」
その言葉に、部員たちは揃って小さく「はい!」と返事をした。
「あと、新見。何か付け加えることはあるか?」
「そうだな……」と新見さんは腕を組み、少し考えるように目を細める。
「特にはない。ただ、新聞部でも古墳のこと、十年前の出来事、片原で起きている新しい情報……そして例の写真の男女について調べてもらえないか、部長と相談してみるつもりだ。人数は限られているが、みんなも精一杯頑張ってほしい。」
その言葉に背中を押されるような感覚があり、自然と背筋が伸びた。
「よし。それじゃあ今日はここまで。お疲れさん。」
木村さんの合図で緊張が解け、部室の空気が一気に和らぐ。
先輩たちは「帰りにどこ寄る?」と気楽に声を掛け合い、片山くんと葛城さんは真剣に手帳を開いて調査の段取りを練っているようだ。
そして自分の視線が椿ちゃんに向くと、彼女は頬をふくらませてぷいっと視線をそらした。
「あれ……怒ってるなぁ!」
内心苦笑しつつ、さらに幽子の方へ視線を向けかけ……やめた。目が合わなくても、彼女の鋭い眼光がこちらを射抜いてくるのが分かる。
「うあっ……まだ怒ってる……」
背筋に冷たいものが走り、自分は二人に近づくのを断念。身の安全を最優先に、木村さんに話題を振った。
「それで……『あの人』にはいつ声をかけるんですか?」
「ああ、できるだけ早い方がいいな。今日の夜にでも連絡してみるつもりだ。ただ最近はゼミとかで忙しいらしいから、すぐに来てくれるかどうかは分からん。
その間は、俺たちで図書室を当たってみるか。片原の郷土史とか、当時のニュース記事とか、まだ掘り起こせるものはあるだろ。」
「分かりました。じゃあ、明日は部室で木村さんと白石先輩を待って……」
自分は木村さんと、今後の段取りを一つひとつ確認していった。
……こうして次の調査へと、歯車が静かに回り始めた。
胸の奥にかすかな不安と、そして期待を抱えながら、自分は小さく呟く。
「さあ……頑張るか。」
次の日の放課後。
自分は胸の奥で高まる期待を抑えながら、いつものように部室の前に立っていた。昨日の夜、木村さんから連絡があり今日、『あの人』が来てくれる、と。
深呼吸をひとつして、ドアを開ける。
「おはようございます。」
いつもの調子で声をかけると、懐かしい声が返ってきた。
「やあ、しんいち。久しぶりだな!」
「あっ……関口さん!」
その姿を見た瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなる。
『あの人』……それは前部長の関口さんのことだ。
九月の離任式で木村さんに部長の座を譲ったが、今もなおミス研の象徴のような存在である。
久しぶりに顔を見たせいか、思わず肩の力が抜け、妙な安心感が広がった。
「今日はわざわざありがとうございます。ゼミで忙しいって聞きましたけど、大丈夫なんですか?」
「受験勉強は順調だよ。ちょうど気晴らししたいと思ってた時に木村くんから連絡があってね。面白い調査をしてると聞いて、いても立ってもいられなくなったんだ。」
そう言って悔しそうに笑う関口さん。その顔を見ながら、(やっぱりこの人には敵わないな……)と内心苦笑する。自分もオカルト好きのつもりだが、関口さんの熱量には到底及ばない。
そんなやりとりをしていると、他の二年生の先輩たちも集まり、部室は一気に活気を帯びた。しばらく雑談が続いたあと、ふと自分は核心を突く。
「それで……関口さん。例の古墳の件と、十年前の片原の心霊騒動について、ご存じなんですか?」
関口さんは眼鏡をくいと押し上げ、待ってましたとばかりに微笑む。
「もちろんさ。」
そう言って鞄から資料を取り出し、机の上に並べる。
みんなが身を寄せ合い、ページに目を走らせるが、意外なほど少なかった。
「これだけですか?」
白石さんが思わず口にすると、関口さんは腕を組み、難しい表情で答えた。
「いや、これでもだいぶ集めた方なんだ。古墳については当時『世紀の大発見』なんて騒がれていたから情報は残っているんだけどね、でも……十年前の片原の件となると、ほとんど記録がない。
オカルト情報サイトの『TOCANA』に一度小さく取り上げられたくらいかな。
ここに持って来た情報は昔、僕が興味を持って、片原で実際に取材をして掴んだものだけど、なかなか難航してね。これくらいしか得られなかったんだよ。」
彼の声に、部室の空気がじわりと重くなる。
「まさか……タブーにされてるとか?」
木村さんが低い声で尋ねると、関口さんは小さく頷いた。
「流石木村くん!そうだよ。
誰かが意図的に隠しているわけじゃない。むしろ『祟り』を恐れて、誰も語らなくなった。そんな感じだったな。」
「祟り……。それって、父が言っていた『古墳の祟り』のことですか?」
思わず口をついた自分の問いに、関口さんはゆっくりと口角を上げた。
「その通り。古墳の祟りだ。」
そう言うと彼は机の上に置いていた古びた手帳を手に取り、指先でぱらぱらとページをめくる。
「ちなみにどんな事が起こったか……少ないけど、証言をとれているから話すよ。」
淡々とした口調のまま、そこに記された出来事を語り始めた。
……夜更けの商店街を歩く、透き通った人影。
……家の窓や玄関を叩き続ける、無数の白い手。
……町内放送に混じった、聞き覚えのない奇妙な声。
そして、その報告の中には、あの地下道に現れた幽霊の目撃談まで含まれていた。
どれも断片的な情報に過ぎない。だが耳にするだけで、背筋に冷たいものが這い上がってくる。
話を聞き終えると、自分はどうしても気になっていた疑問を口にした。
「……関口さん。あの謎のシールについては、ご存じないんですか?」
「シール?」
関口さんは一瞬首を傾げたが、すぐに思い出したように声を上げた。
「ああ、しんいちが来る前に木村くんから画像を見せてもらったよ。でもね、十年前の記録にはそんなものは出てこなかった。幽霊を操るだなんて、普通じゃ考えられない……実に興味深いけどね。」
その言葉に、一同の表情が強張る。
張りつめた沈黙の中、耐えきれなくなったように木村さんが問いかけた。
「関口さん……。あの古墳って、一体何なんです? 『世紀の大発見』っていったい?」
関口さんは、わざと間を置いた。重苦しい空気を楽しむかのように唇の端を吊り上げ、低く告げる。
「……あの古墳はね。どうやら『ピラミッド』らしいんだ。」




