会社の後輩への相談――話すだけのつもりが、恥ずかしいところまで見せてしまいました
白石への秘密の相談
昼休み。
莉央は自席でスマートフォンを見つめていた。
画面には、蓮から届いたメッセージ。
どうすればいいのか、まだ決められずにいた。
「桐生さん」
顔を上げると、白石が立っていた。
「お昼、まだですか?」
「あ……うん」
白石は莉央の顔を見て、少し声を落とした。
「……何か、困ってます?」
莉央は答えに迷った。
白石は少しだけ顔を近づけた。
「この前みたいに、私に話してくれてもいいんですよ」
莉央は白石を見つめた。
あの夜、耳元で囁かれた言葉を思い出す。
――私のペットになっても、いいんだよ。
「……白石さん」
「はい?」
莉央は少し声を落とした。
「この前の話なんだけど……」
白石はすぐに頷いた。
「もちろんです」
「実はね……ちょっと相談したいことがあって」
「私に、ですか?」
「うん」
白石は莉央の顔を見た。
「いいですよ。聞きます」
莉央は周囲を見回した。
昼休みはまだ始まったばかりだったが、何人かが席に残っている。
「……ここじゃ、ちょっと」
白石も周囲に目をやった。
「じゃあ、会議室に行きましょうか」
二人は席を立った。
会議室に入ると、白石がドアを閉めた。
「ここなら大丈夫ですね」
莉央は頷き、窓際の椅子に腰を下ろした。
白石も向かいに座る。
「それで、どうしたんですか?」
「……うん」
莉央はスマートフォンをテーブルに置いた。
話そうと思って来たはずなのに、いざ二人きりになると、どこから説明すればいいのか分からなかった。
「この前、飲んだときに話したこと、あるでしょう?」
「はい」
「実はね、あれ……ただ興味があるっていうだけじゃなくて」
白石の表情が少し変わった。
「……もしかして、実際に何かしてるんですか?」
莉央は目を伏せた。
それから、小さく頷いた。
「うん。少し前から」
白石は驚いた様子だったが、すぐに問い詰めることはしなかった。
莉央が続きを話すのを待っている。
「……ある人に、いろいろ教えてもらってるの」
「ある人?」
「蓮さんっていう人。大学の先輩なの」
白石は少し考えるように頷いた。
「そうなんですね。その人に相談してるんですか?」
「相談というか……いろんな課題を出してもらってて」
「課題?」
莉央は小さく笑った。
「うん。ちょっと変わった課題なんだけどね」
「ちょっと変わった課題って、どんなものなんですか?」
白石は興味を隠さずに尋ねた。
莉央は少し考えた。
「……普通だったら、絶対にやらないようなこと、かな」
「例えば?」
「人に見られたら恥ずかしいこととか。自分では無理だと思ってたこととか」
「それを、蓮さんっていう先輩に言われてやるんですか?」
「うん。でも、無理やりじゃないの。やるかどうかは自分で決めてる」
白石は頷いた。
「それで、できたらどうなるんですか?」
「点数をつけてもらえるの」
「点数?」
「そう。課題ごとに評価してくれて。うまくできると褒めてもらえたり、ボーナス点がついたりするの」
白石は少し驚いたように笑った。
「なんだか、ゲームみたいですね」
「最初は私もそう思ってた」
「今は違うんですか?」
莉央は答えるまでに少し時間がかかった。
「……最近は、点数が気になっちゃって」
「高い点数が欲しい?」
「うん。それもあるんだけど……」
莉央はテーブルの上で指を組んだ。
「蓮さんに、がっかりされたくないの」
白石は莉央の顔を見つめた。
「その人のこと、好きなんですか?」
「えっ?」
思いがけない質問に、莉央は顔を上げた。
「いや、そういうんじゃ……ないと思う」
「じゃあ、どうして?」
「……それが、自分でもよく分からなくて」
白石は少し考えてから尋ねた。
「今まで、どんな課題をやってきたんですか?」
莉央は視線を落とした。
いくつもの出来事が頭に浮かんだ。
その中で、真っ先に思い出したのは、いつもの職場で起きた、あの日のことだった。
「……実はね、会社でもやったことがあるの」
「会社で?」
白石の声が少し大きくなった。
「うん。ある人に、普段なら絶対に見せないような姿を見せるっていう課題で……」
白石は莉央の顔を見つめた。
「それって、会社の人に、ですか?」
「……そう」
「誰ですか?」
莉央は答えるのをためらった。
名前を口にすれば、もう後には引けない気がした。
「……高瀬課長」
白石は目を見開いた。
「えっ、高瀬課長?」
「うん」
「でも、蓮さんって大学の先輩なんですよね? どうして高瀬課長のことを知ってるんですか?」
「……それが、私にも分からないの。なぜか知ってたのよ」
「えっ、そうなんですか?」
「うん。私も不思議だったんだけど……」
白石は少し考え込んだ。
「なんだか、ちょっと怖いですね」
莉央は曖昧に笑った。
「具体的には、どんな課題だったんですか?」
白石の質問に、莉央は少し考えた。
「まずね、蓮さんから出された課題なんだけど……」
莉央は声を落とした。
「身体の三か所に痕をつけて、それを高瀬課長に見せなさいっていうものだったの」
「三か所?」
「うん。内腿と、お尻と、胸」
白石は目を丸くした。
「それを、会社で?」
「そう。しかも、それぞれ点数が決まってて、全部見せると百点。合格ラインは八十点だったの」
「……すごい課題ですね」
「でしょう?」
莉央は困ったように笑った。
「でもね、私、課長に普通に相談するふりをして、見てもらったの」
「相談するふり?」
「付き合ってる相手とのことで悩んでるって。身体に痕が残るようなことをしてるから、ちょっと心配で……って」
「それで課長は?」
「すごく心配してくれた。無理やりじゃないのかって、何度も聞いてくれて」
「高瀬課長らしいですね」
「うん。だから余計に申し訳なかった」
白石は少し首を傾げた。
「でも、先輩はその課題を達成したかったんですよね?」
「……うん」
莉央は小さく頷いた。
「内腿を見てもらって、それから、お尻も見てもらったの」
「胸は?」
「あ、それがね……」
莉央は苦笑した。
「忘れちゃったの」
「えっ?」
「緊張してて。結局、胸の三十点は取れなかった」
白石は驚いたあと、少し笑った。
「じゃあ、不合格だったんですか?」
「それが、ギリギリ合格だったの」
「どうして?」
莉央は少し黙った。
「……課長にね、見てもらうだけじゃなくて、触って確かめてもらったの」
白石の笑顔が消えた。
「それも、蓮さんの指示だったんですか?」
莉央は首を横に振った。
「ううん。そこまでは言われてなかった」
「じゃあ、課長から?」
「違うの」
莉央は白石の目を見た。
「……私からお願いしたの」
白石はしばらく何も言わなかった。
「先輩が、自分から?」
「うん。見せるだけでよかったのに、腫れ具合を確認してほしいって、私から頼んじゃった」
「……それで、課長は?」
「心配しながら、確かめてくれた」
莉央はテーブルに視線を落とした。
「あとの録音を蓮さんに送ったら、その部分にボーナスが十点ついて……合計八十点。ギリギリ合格」
白石は黙って考えていた。
やがて、静かに尋ねた。
「でも、先輩」
「なに?」
「その十点って、あとから蓮さんがつけたんですよね?」
「……そうね」
「じゃあ、先輩が課長にお願いしたときには、ボーナスがもらえるなんて知らなかったんですよね」
莉央は顔を上げた。
「……うん」
白石は少し身を乗り出した。
「だったら、どうして自分からお願いしたんですか?」
莉央は答えられなかった。
「……自分でも、よく分からないの」
白石は少し考え込んだ。
それから、会議室を見回す。
「さっき、ここで課長に見せたって言いましたよね?」
「うん」
「どんなふうに見せたんですか?」
「どんなふうって……」
「先輩、ちょっと再現してもらえませんか?」
莉央は驚いて顔を上げた。
「えっ、ここで?」
「はい。せっかく同じ会議室なんですから」
白石が笑った。
「……もう、白石さんったら」
莉央もつられて笑った。
「まず、内腿からですよね?」
「うん。椅子に浅く座って、スカートを上げて、ストッキングを下ろしたの」
「じゃあ、そのときみたいに座ってみてください」
莉央は言われたとおりにした。
「……こんな感じ」
白石は向かいの席から莉央を見た。
「先輩、それ、課長からは下着まで見えちゃってますよね?」
「……そうね。たぶん」
「しかも、自分から見せたんですよね」
「うん……」
「ふふ。いつもの先輩からは想像できません」
莉央は照れくさそうに笑った。
「それで、次はお尻ですよね?」
「うん」
「そっちも再現してください」
白石に促され、莉央は立ち上がってテーブルの端へ移動した。
「このあと、どうしたんですか?」
「……ストッキングを膝の上まで下ろして、スカートを持ち上げたの」
莉央は説明しながら、そのときの手順を再現した。
「それから、片手をテーブルについて、上半身を低くしたの」
白石は莉央の姿勢を確かめた。
「なるほど。課長には、こういう格好で見せたんですね」
「……うん」
白石は少し首を傾げた。
「でも先輩、そのとき下着はどうしてたんですか?」
「……Tバックだったの」
「えっ、先輩が?」
莉央は苦笑した。
「そんなに驚かなくても」
「だって、普段から履いてるんですか?」
「ううん。初めて。前の日に買ったの」
「わざわざ?」
「普通のショーツだと、痕が隠れちゃうと思って」
白石は感心したように頷いた。
「へえ。そこまで準備してたんですね」
「……もう、恥ずかしいから」
「でも、それは蓮さんの指示じゃないんですよね?」
「うん。自分で考えたの」
白石は少し笑った。
「先輩って、意外と計画的ですね」
「仕事でもそうでしょう?」
「仕事とはちょっと違う気がしますけど」
二人は顔を見合わせて笑った。
「それで、触ってもらったのは?」
「……私からお願いしたの。腫れているところを確認してほしいって」
「課長は驚いたでしょうね」
「うん。でも、最後まで心配してくれた」
白石は少し考えてから言った。
「じゃあ、そのときの課長の役も、私がやりますね」
「白石さん、すっかり再現に夢中ね」
「だって、先輩の話、面白いんですもん」
莉央は困ったように笑った。
白石は莉央に視線を向けた。
莉央は白石の顔を見た。
「……もう、白石さんにはかなわないな」
苦笑しながらも、すぐには動けなかった。
「先輩、さっきまであんなに詳しく説明してくれたのに」
「説明するのと、実際にやるのは違うでしょう……」
白石がくすっと笑った。
莉央は一度ドアの方を見た。それから小さく息を吐き、ためらいながら下着に手をかけた。
「……本当に、ここまでやるとは思わなかった」
そうつぶやいて、自分で下ろした。
その途端、急に顔が熱くなった。
自分が今、会社の会議室で何をしているのか。
ついさっきまで仕事をしていた場所なのに。
「……白石さん、あんまり見ないで」
「再現なんですから、見ないわけにはいきませんよ」
「もう……」
莉央は顔を上げられなかった。
白石が後ろへ回る気配がする。それだけで肩に力が入った。
「先輩、緊張してます?」
「……当たり前でしょう」
白石は少し笑った。
「普段はあんなに堂々としてるのに」
「……白石さん、やめて」
莉央の声は、すっかり小さくなっていた。
白石は少し笑ってから、当時の高瀬の動作を尋ねた。
「それで、高瀬課長はどうやって触ったんですか?」
「……両手で、左右から、腫れているところを確かめるように」
「こうですか?」
白石が両手のひらを、莉央のお尻にそっと当てた。
「……うん。そんな感じ」
「高瀬課長も、こうして確かめてくれたんですね」
「うん……」
白石は手を離さず、次の質問をした。
「そのとき、課長は何て言ってました?」
「まだ赤いね、とか……腫れてるところもあるね、って」
「先輩は?」
「……ありがとう、ございますって」
「ふふ。ずいぶん丁寧ですね」
「だって、課長だもの……」
白石は笑ったが、まだ手を離さなかった。
莉央はテーブルに手をついたまま、ちらりと後ろを振り返った。
「……白石さん、もう分かったでしょう?」
「はい。でも、もう一つだけ」
莉央は困ったように笑った。
「……まだあるの?」
「課長にお願いしたとき、本当に痕を確かめてほしかっただけなんですか?」
莉央は少し黙った。
白石の手は、まだそこにあった。
いつも仕事の話をしている後輩と、同じ会議室でこんな話をしている。
その事実が、急に恥ずかしくなった。
「……それだけじゃ、なかったのかもしれない」
白石は小さく頷いた。
「そうなんですね」
ようやく両手が離れた。
莉央はほっと息をついた。
「……白石さん、質問が長いよ」
「ふふ。ごめんなさい、先輩」
二人は顔を見合わせて笑った。
莉央が服を整えていると、白石がそっと肩に手を置いた。
「……莉央ちゃん」
不意に名前を呼ばれ、莉央は顔を上げた。
居酒屋でも、同じ呼び方をされた。
あのときの白石の声が、ふっとよみがえる。
「今日の先輩、なんだか可愛かったです」
「……もう、またからかって」
「本当ですよ」
白石は笑いながら莉央の肩を軽く抱き、首元にそっと唇を当てた。
「……白石さん?」
「ふふ。先輩、また顔が赤くなってます」
「誰のせいだと思ってるの」
莉央は困ったように笑った。
白石も笑ったが、肩に置いた手はすぐには離さなかった。
「でも、私の前では、無理していつもの先輩でいなくてもいいですからね」
莉央は白石を見た。
「……ありがとう」
そのまま少しの間、白石の顔を見つめていた。
いつもの会議室。
けれど、白石との距離は、昼休みが始まったときより確かに近くなっていた。
白石は莉央の肩から、ゆっくり手を離した。
「……そういえば、先輩」
「なに?」
「この前、居酒屋で話してくれた動画、覚えてます?」
「ああ、あの海外の?」
「はい。普段は普通の生活をしている女性が、別の場所では全然違う姿になってるって話」
「……うん」
白石は会議室を見回した。
「なんだか、ちょっと似てますね」
「え?」
「会社ではいつもしっかりしてる先輩が、同じ会社の会議室で、課長にお尻まで触ってもらってたなんて」
「……そう言われると、確かにね」
莉央は困ったように笑った。
「先輩、あの女性に自分を重ねてたって言ってましたよね」
「うん」
「こういう、普段とは違う自分になる感じが、好きなのかもしれませんね」
莉央は少し考えた。
「……そうかもしれない」
白石はそれ以上追及せず、小さく頷いた。
それから時計を見て、莉央に向き直った。
「ところで先輩、今日悩んでたのって、何だったんですか?」
「あ……そうだった」
莉央は少し照れくさそうに笑った。
「白石さんと話してたら、すっかり忘れちゃってた」
「ふふ。大事な相談だったんでしょう?」
「……うん」
莉央はテーブルの上のスマートフォンに手を伸ばした。
「実はね、今度の課題のことなの」
「新しいミッションですか?」
「うん。今度はね……森田君なの」
「えっ、森田さん?」
白石の表情が変わった。
「森田さんに、何をするんですか?」
莉央は少しためらってから、声を落とした。
「……私、人に裸を見せることに興味があるって、森田君に話さなきゃいけないの」
「……なるほど」
白石は少し考えた。
「それが、蓮さんからの新しいミッションなんですね?」
「うん」
「森田さんは、もちろん何も知らないんですよね?」
「そう。だから困ってるの」
白石はゆっくり頷いた。
「高瀬課長のときとは、ずいぶん違いますね」
「そうなの。課長のときは、身体に痕が残ってるって相談すれば、心配して見てくれるんじゃないかって思えたの」
「でも今回は、森田さんに自分の気持ちを話さなきゃいけない」
「……うん」
莉央は小さくため息をついた。
「しかも、ただ裸を見せることに興味があるって話すだけじゃないでしょう? 森田君に、どうしてそんなことを考えるのかって聞かれたら……」
そこまで言って、莉央は口をつぐんだ。
「答えたくないんですか?」
「……答えられるかどうか、わからないの」
莉央は膝の上で指を組んだ。
「それに、森田君とは同期だし、普段から仲がいいでしょう?」
「はい。いつも楽しそうに話してますよね」
「だから、変なふうに思われたくないの。今までどおり、普通に話せる関係でいたい」
白石はしばらく考えていた。
「じゃあ先輩、そこまで心配なら、今回の課題は断ることもできるんですよね?」
「……うん。できると思う」
「でも、断りたくない?」
莉央は小さく頷いた。
「蓮さんに、がっかりされたくないの」
「なるほど……」
白石は莉央を見つめた。
「じゃあ、先輩の本当の希望は、森田さんとの関係を今までどおりに保ちながら、課題も達成すること?」
「……うん」
「両方とも?」
「うん。どっちも諦めたくないの」
白石は少し笑った。
「先輩、欲張りですね」
「……そうだよね」
莉央も困ったように笑った。
白石は腕を組み、しばらく考えた。
「……分かりました」
「え?」
「私にも、ちょっと考えさせてください」
「白石さん、考えてくれるの?」
「はい。森田さんの性格も考えないといけませんし、少し時間をください」
莉央の表情が明るくなった。
「……ありがとう」
「まだ何も思いついてませんよ」
白石が笑った。
「それでも嬉しい」
白石は時計を見た。
「あっ、先輩。もうこんな時間!」
莉央も時計に目をやった。
「ほんとだ。もうすぐ午後の仕事が始まっちゃうね」
白石は勢いよく立ち上がった。
「急いで食堂にお昼ご飯食べに行きましょう!」
莉央は思わず笑った。
「そうね。急がないと」
二人は慌てて椅子を戻し、会議室を出た。




