第3話 疑惑のもとは
アルアリア王国の首都、アルアーティにある王城は街から続く一本道で、周囲には王家の森と呼ばれる防御魔法がかかった森に囲まれている。王城は重厚で歴史を感じる建物であり、街の象徴となっていた。
王城に到着すると、間もなく豪雨となった。
アイリーネを離そうとしないユリウスを説得するのに苦労するも最終的にはシリルに軍配があがる。
「だから、アイリーネをそんなボロボロの服で汚れたままでいいの?年頃の女の子なんだから」
「…わかった」
「では、私がお部屋までお連れします」
渋々納得したユリウスに対し、イザークが言葉をかけるもジトリとした目で、拒否される。
「お前は駄目だ!」
「何故ですか?私は危害を加えたりしません」
「そうじゃない、ただ嫌なんだ」
「……そんな理由で納得いきません!」
「いや、どっちでもいいわ」
正直な感想を述べると、二人からギロリと睨まれシリルはムッとした。
「これから、大変なんだから。やることいっぱいだし…」
シリルにピクリと反応したのはユリウス。
「やる事って、葬儀とかそういいたいのか?」
「あ、そうかイザークと違って王家の秘宝を知らないんだったな?」
「王家の秘宝?」
「ああ、上手くいけばアイリーネは甦る」
ユリウスは目を最大限まで見開き驚いた。同時にこの国で高位貴族である自分が知らない情報を当たり前のように話しているシリルに違和感を覚える。
「お前は何者なんだ?」
「僕?僕はシリル・オルブライド。17歳、次期教皇だよ」
「怪しいんだよ、それだけじゃないだろ?神聖力を使った時にしても、回復の呪文は『祈りを捧げます〜』から始まるだろ?聞いた事がない呪文だった!」
「流石に詳しいね、王宮魔術団のエースは。僕はね、ちょっと特殊でね、神聖力がかなり多くてね、生まれた時には父の神聖力を超えてたんだ」
「はあ?」
神聖力も魔力も生まれた時には持ち合わせているも、使用する事で容量が増え、術の種類も増えるとされている。現教皇は特別神聖力が少ないという事はない。それらを踏まえるとかなりの神聖力を持ち生まれてきたと窺える。
「生まれた時からかわってるんだな」
「ちょっと、酷くない?」
―それよりも王家の秘宝について、詳しく聞かないと……
口を開きかけた瞬間、廊下の端からやってくる人物に目を見張る。ジラール・アルアリアこの国の国王陛下である。クリストファーとよく似た風貌だが肩まである髪をなびかせながら歩く姿は流石に貫禄がある。
「クリストファー!どういう事だ!何故勝手に近衛を動かしたのか?」
「ち、父上……」
今まで青ざめた顔で立ち尽くしていたクリストファーは更に顔面蒼白となる。
「わ、解らないのです。記憶が黒塗りされたように思い出せない事が多く……」
「自分のしでかした事だというのにか?」
「……申し訳ありません」
王に厳しい視線を向けられ、クリストファーは黙り込み俯いてしまった。
「アーティファクトですよ、陛下」
シリルがすかさず話し始まる。
「アーティファクトだと?」
「はい、マリア・テイラーが持っていたペンダントから闇魔法を感じられました」
「それが原因だと?」
「はい、今は機能しないと思いますが。愛し子が浄化しましたので」
「愛し子―やはりアイリーネ・ヴァールブルクは妖精の愛し子だったか……」
ユリウスに横抱きにされているアイリーネを見つめながら王は複雑な表情を浮かべる。
「そなたは、オルブライドだな?」
「はい」
「くわしい話が聞きたい、皆会議室に移動だ」
「あっ。陛下、アイリーネを着替えにやっても?」
「ああ、アベル頼めるか?」
シリルがアイリーネの着替えの許可を求めると、王は快く承諾し側近に指示を出す。イザークによく似た黒髪に暗めの青い目、アベル・ルーベン元騎士団長でイザークの父親である。アベルはユリウスからアイリーネを受け取ると着替えの為の部屋へと歩いていった。
「残念だったな、イザーク。お前の役目奪われて」
二人しか聞こえない声量でシリルに話しかけられたイザークは指に力を込め拳を握る。
「いえ、私には資格がありません」
「資格ね……」
そんな物が必要なのかと言いたげなシリルは、言葉には出さずに会議室へと向かう一行と足並みを揃えた。
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