第2話 悲しみの中で
「イザーク!あの女を捕まえろ!」
「―はい!」
「やめて、さわらないで!なんなのよ!」
マリアを捕らえ、ロープで拘束しながらイザークの暗めの青い目が冷えた目線を向ける。美人だといえばそうかもしれない。教養が有るわけでもなく、頭がいいとも思えない。王太子がのめり込むほどかと言われると、そうは思えない。
―やはり、あのペンダントが原因か?
聖騎士であるイザークが急にマリアを拘束していたが、クリストファーの指示がなく近衛騎士達は戸惑っていた。クリストファーの様子を窺うと椅子に座ったまま動かない。
「殿下、助けて下さい!なんなのよ!たかが、聖騎士と神官の分際で!」
マリアはイザークを睨みつけながら、クリストファーに向けて助けを求める。
「うわーっ、たかがとか言っちゃう?身分は神官だけど、教皇の息子で次期教皇なんだけどね?一応」
シリルはアイリーネの側に座り込みながら、馬鹿にしたように言い放った。
「えっ、なんですって?」
マリアは値踏みをするようにシリルを見終わると、ふいに笑顔を取り繕った。
「はじめまして、私は―」
「いや、今さらだよ、忙しいからだまってて!」
シリルに取り繕う事も出来ず、足蹴にされたマリアは顔を真っ赤にさしながら怒り、喚いていた。
「殿下助けてください、どうして私がこんな目に遭うのですか!?」
マリアは媚びるような視線でクリストファーに助けを求めるも、肝心のクリストファーは放心状態にあった。
「あれは?」
ふと、我にかえり、アイリーネを見つめ青ざめている。
囚われているマリアを見つけ問いかける。
「君は、テイラー嬢?ここで何をしているのだ?」
捕らえられたマリアに対し怪しむ素振りを見せる。最近の王太子はマリアを側に置くことが多く、それを見てきた近衛騎士達は、目を見開き驚いた。
―どうして、今まで何年も思いどおりに動いていたのに、あの光のせいね?
マリアは黙り込み、アイリーネから放たれた白い光が原因であろうと推測した。
アイリーネの側に座り込んでいたシリルは、側に落ちている真っ白な宝石を回収すると回復の呪文を唱える。
『汝の傷を癒せ、妖精王の祝福を!!』
アイリーネを青白い光が包み込むと、アイリーネの傷だらけの体だけでなく、断頭台にて切断されてしまった部分やすべての傷が治ってゆく。髪の長さと痩せてしまった体は治る事はなかったが、体中にあった無数の傷も痣も綺麗に治っていった。
癒やしの光に包まれ、アイリーネの回復を目の当たりにしたユリウスは、震える足に力を込め駆け寄った。先程、投げられた石により出来た傷も癒され、ホッとすると頬を撫で上げる。アイリーネの体温を感じられぬ自分の手を見つめ、陰りを含んだ瞳を、シリルに向けた。
「回復は万能じゃない。完全に亡くなった者はどんな神聖力でも無理だ!」
シリルは言い終えるとユリウスから視線を外した。
ユリウスはアイリーネを抱きかかえ、無言で横抱きにしたまま立ち上がる。15歳とは思えない細さと軽さ不揃いに切られたシフォンピンクの髪、アイリーネの境遇が酷いものであったと物語るには充分であった。アイリーネの上に落ちていく水滴が自分の涙であると認識するまでに時間がかかった。
「ごめんリーネ、俺が泣く資格なんてないよね?守ってあげなきゃいけなかったのに。痛かったよね、怖かったよね?」
―このまま、リーネの側にいけたら……
「おい!ヴァールブルグのお坊ちゃん」
シリルのお坊ちゃん呼びに若干の苛立ちを感じるも冷静を装い振り返る。
「一旦、王城に避難した方がいい」
「避難?」
「ああ、来るぞ。雷と共に止まない雨がな………」
空を見上げると次々と黒い雲が集まってきている。次の瞬間近くで雷鳴と稲妻が現れた。今まで広場で事の成り行きを見守っていた民衆は悲鳴をあげながら、家路へと帰っていく。
「その子を雨に濡らしたくないだろう?」
「…分かった」
ユリウスは明らかに自分より年下でフワフワのクリーミーブロンドで可愛いと表現されるシリルの言葉を渋々従った。
「イザーク、王城だ。移動するぞ!」
「わかりました」
イザークはマリアを荷物の様に抱え、馬車へと急いだ。
「なんて、無礼なの!」
「少し、黙って下さい」
イザークの不機嫌そうな低い声色に、流石のマリアも大人しくなる。その様子をヤレヤレと思いながらシリルはイザークとマリアと一緒の馬車に乗る。もう一台の馬車には、クリストファーとアイリーネを抱えたままのユリウスが乗り込み、王城へと向かっていった。
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