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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第281話 念願のカフェ

 王都の中央部より少し外れた路地にそのカフェはある。元々は裕福な商会であった建物だが移転により今のカフェとなった。二階建てのレンガの壁に伝う蔦の葉がその歴史を感じさせていた。


 カフェは相変わらず人気があり今日も行列が出来ていた。今から並び実際に席に着くのは予想もつかないが、列の一番後を目指そうと体の向きを変える。



「どこ行くの?リーネ」

「えっ?どこって……」


 馬車から降りる時に添えたまま自然な形で握られていた手を離さずにユーリは小首を傾げている。

 そして私の行き先に気付いたようで「ああ、そうか」と呟いた。



「リーネ、実はこのカフェは予約が出来るんだよ?」

 ユーリが私の耳元で囁いた。


「――えっ?」

 予約が出来る?そんな事は初耳だ。

 しかし、それならばナゼ今も行列が出来ているのだろうか?今度は私が小首を傾げる番だ。



「ここのカフェの二階には個室があってね、そこなら予約出来る」

「でも……」

 カフェに並ぶ行列に目を向ける。

 私の視線の先にユーリは気付いたようだ。



「予約は出来る、だけど個室の代金がいるんだよ。多分……行列は平民や下位貴族の令嬢達だね」

 ユーリは私の耳元で囁く。



 予約、個室、代金。

 そんな事、考えもしなかった。

 私はなんて無知なのだろう、恥ずかしい。人気のあるカフェだと聞いていた。

 だから、ユーリと一緒にとそれしか考えていなかった。



「リーネ?」

 黙り込んだ私の顔をユーリが心配そうに覗き込む。

「ユーリ……私ね、ユーリと一緒にカフェに行けたらいいなって思ったの。自分で調べてなかったの、ごめんねユーリ……」

「いいよ、そんな事。前にも言ったかも知れないけど、リーネが俺と出掛けるために色々考えてくれたことが嬉しいんだから」

「うん……」


 ユーリが微笑んだから令嬢達から黄色い声が上がった。だけどユーリは気にならないようで、令嬢達には目もくれず私だけを見つめていた。


   



 二階の個室に通されてユーリと二人で並んで座る。

 壁紙は深い緑色をベースに小さな花が描かれていて、部屋の中は落ち着いた雰囲気となっていた。


 部屋には二人掛けのソファが窓の外を眺められる様に置かれていた。



「暖かい時期になれば花が綺麗に咲いているだろうね。その時期にまた来れたらいいな」

「うん、そうだね」


 窓からは水路が見えた。整備された水路には花や花をつける木が植えられていて、暖かくなるとさぞ綺麗だろう。

 だけど、その時期に私はこの国に居ないかも知れない。約束は出来ない、守れないから。




 部屋の中には二人だけ。イザーク様は馬車で待つそうだ。個室に一緒に入るには気をつかうし、かといって令嬢達の列に一人で並ぶのも……イザーク様が並ぶ想像をしたら……うん、あり得ないわね。



「はい、リーネ。あーん」

「えっ!?」

 変な想像をしていたらイチゴを乗せたケーキが私の口元にあった。

「はい、食べて」

「そんな……ユーリに食べさせてもらうなんて」

「昔は食べてくれていたのに?」

「子供の頃の話でしょ?この年で食べさせてもらうなんて恥ずかしいわ」

「そう?恋人なら食べさせてあげても可笑しくないけどな……」

 ユーリは少ししょんぼりとしている。

「そう………?じゃあ………」


 あーんと口を開けると直ぐに口の中が甘いケーキで支配された。


「おいしい?」

「うん、おいしいわ」


 生クリームの甘さに瑞々しいイチゴ。

 甘い物を食べると幸せな気分になる。

 だけど、ちょっぴり恥ずかしい。

 誰かに食べさせてもらうなんて、小さな子供みたい。



「じゃあ、ユーリも。あーん」

「えっ!?」


 この幸せはユーリにも味わってほしい。

 それから、恥ずかしさも。

 恋人なら食べさせてもいいのなら、私がユーリに食べさせても問題ないでしょう?


 だから、フォークを手に取るとケーキを掬った。



「いや……俺は――」 

「………恋人なら可笑しくないのに?」

「………」


 戸惑っていたユーリは意を決したのか、目を閉じると勢いよくフォークに齧りついた。


「おいしい?」

「……おいしいよ」


 そう言ったユーリの耳朶は赤かった。




 そして、カフェを出た私達は買い物をした。

 ユーリは新しいリボンを買ってくれた。

 ユーリの瞳のような紫紺のリボン。

 繊細なレースが付いていてお店に入って直ぐに気に入った。自分のお小遣いでも買えるけど、ユーリがプレゼントしてくれた。

 今度、ユーリにお返しをしよう。

 ユーリの欲しい物は何だろうか?



「宝石とか買ってもよかったのに」

「このリボンが気に入ったの」

「そうか?ならいいけど」

 

 包装紙に包んでもらい店を後にする。

 手の中の包みは私の新しい宝物。

 特別な日に使いたい、いつがいいかしら?なんて想像するだけで楽しみになる。


 人の世界に暮らせなくなっても大切な物は持っていけるかな。宝物が側にあれば少しは淋しくなくなるだろうか。


「だめだめ!暗い事ばっかり考えちゃだめよ!」


「何か言った?」


「えっ!?何でもないよ」


 馬車を呼んでいるユーリには聞こえないと口にしたのに、危ない。気をつけないといけないわ。カンバンティエ様に言われた事は知られたくない。私のことでみんなまで悩んでほしくない。




 馬車に戻り移動する。窓の外を眺めると陽がずいぶんと傾いていた。遅くなるとお父様も心配するだろう。

 何処かに寄るにも時間的にもあと一カ所ぐらいだろう。

 この後は何処に行くのだろうか?

 

 

 

読んでいただきありがとうございます。

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