第11話 第2王女 エリンシア
「待たせたな」
ユリウス達は王が会議室に連れてきた見知らぬ人物に注目した。誰だかはわからないが、その髪と瞳の色でアイリーネに関係がある人物であろうと推測される。皆が席に付き緊張感が高まった。
コホンと咳払いをした国王はリオンヌを紹介する。
「彼はしばらく外国で暮らしていた、顔を知るものはいないだろう。彼はリオンヌ・オルブライト。アイリーネの実の父親だ、そして母親は第2王女であったエリンシアである」
驚きよりもやはりと皆が感じる中、ユリウスは怒りが込み上げていた。ユリウスはアイリーネが公爵家に預けられたのは両親が亡くなったのではないかと考えていた。しかし実の父親が存在しながら我が家に預けられ、今回アイリーネが亡くなった後に現れたユリウスにはその事実が許せなかった。
「なぜ?なぜ今なのです?アイリーネがあんな事になってから、今さら……」
怒りにあらわにしたユリウスに対しリオンヌは手に拳を作り反論する。
「陛下から詳しくは聞いてませんが、手違いと言うからには何かあったのでしょう?ここでは、あの子は幸せではなかった。違いますか?」
―違わない。リーネは幸せなんかじゃなかった。もっと側にいればよかった。そうすれば、今もリーネは……
記憶を書き換えられていたユリウスはアイリーネに恋心を抱きそれ故に避けていた。胸に秘めたまま側にいることで感情が揺すぶられ、時には嫉妬し、時には怒り。このままでは良くないと逃げるように学園の寮に入り、卒業してからも王宮魔術団の寮で生活した。望んで僻地を希望し、王都より遠ざかりたかった。ユリウスは自身の選んだ選択肢に後悔し、唇を噛み締め、項垂れた。
「そなたたち、お互いに言い分はあるだろう。しかしな、リオンヌが娘の事を知ったのは今日が初めてなのだ」
「「えっ!?」」
国王の言葉に一斉にリオンヌを見る。眉を下げ困った顔をするリオンヌに提案した。
「リオンヌ、エリンシアについて話してもよいだろうか?そなたにも関係がある話しだ……」
「……はい、お願いします」
国王はリオンヌの返事を聞くと、ではと話し始めた。
「エリンシアは余の妹でこの国の第2王女だった、その事はしっているな?」
「「はい」」
それではと国王は話を続けた。エリンシアは第2王女として生を受けたが表に出ることは少なかった。エリンシアを産んだ後王妃が亡くなった為、前国王に疎まれていると噂があったほどだった。実際には前国王が王妃に生き写しであるエリンシアを愛するが故、予言の能力を持つ聖女だと隠しておきたかったのだと言う。
「父上、なぜ聖女だと駄目なのですか?隠さないといけないのですか?」
クリストファーの問に王は苦笑いで答えた。
「聖女になれば教会で暮らさなくてはならない。父はエリンシアを手放したくなかのだろう。予言の能力も珍しく、危険な目に遭う、利用しようとする者もいるだろう……」
「そうですね……」
「エリンシアの予言は少し変わっていた。確定された未来ではなく、選択肢よって変わる未来まで見えていた」
「どうゆう事なのですか?」
「そうだな……人は絶えず選択しながら過ごしている。大きな決断だけでなく……」
例えばと王が切り出す。2つの道があったとして、一つの道には愛する人との出会いが、もう一つの道には事故に合うと進む道により人生が違ってくる。エリンシアは夢で予言を見ていた、昼でもウトウトと夢を見る時もあった。そんな状態の為、王はエリンシアを手元に置いておきたかった。
「そのような状況でどうやってリオンヌ様と知り合われたのですか?」
クリストファーの問に答えづらそうに王は言う。
「……家出したのだ、8歳の時に」
「「ええーっ!!」」
驚くクリストファー達を前に、国王にとっても苦い経験だったと話を続けた。
その日は第1王女アイリーン王女の誕生日であった。エリンシアも準備したプレゼントを手に会場に目立たないように待機する。一部の令息がエリンシアに気づかずに噂話をしているのを思わずに聞いてしまった。
「陛下も疎んでるらしいぞ」
「王妃様を死なせたんだろ?母上が言ってた」
「じゃあ、気をつけないと僕たちも呪われる?」
そのような言葉を受けエリンシアは傷付き同時にお祝いの席に自分は相応しくないと思い、回廊を通り自室に帰っていく。当時、王太子であった国王ジラールは回廊でエリンシアを見つけた。何故ここにいるのか?会場に戻るように促す。
「行きたくありません」
エリンシアはスカートをギュッと握り締め答えるも、事情を知らないジラールは頑なな妹にワガママだと言い放つ。
「姉の誕生日も祝えない者は妹でもなんでもない。そのような者はいらない」
いらないと言われたエリンシアは涙を溜め走り去っていく。アイリーンに用意したプレゼントをその場に残したまま。王宮からいなくなった事に知ったのは少し後である。
エリンシア付きの侍女が陛下に説明をしているのを聞き愕然とした。
「ち、父上。私のせいです。私があの子にそのような者はいらないと……」
「いや、そなだけのせいではない。噂を否定してこなかった余のせいだ……」
エリンシアが見つかるまでの時間が酷く長く感じたとジラールは苦笑いした。
「それで、どうなったのです?」
「その時にリオンヌと出逢ったのだな?」
「はい、私は王家の森に薬草をとりに。エリンシア様は迷子でした」
ユリウスは何処かで聞いた話だと思った。10歳の時アイリーネもお茶会の席であった王宮からいなくなり王家の森で保護された。血によるものか?とユリウスは半目になった。
「その時に野犬に襲われそうになりエリンシア様は防御の能力を使い、聖女であると認定されてしまいました」
「……」
「……では叔母上は王宮を出て教会に?」
言いにくいと口を噤んだリオンヌに対し王が答える。
「父は規則まで変え、成人するまで希望者は自宅に残れるようにした」
みな唖然としてしまい、ユリウスは思わず尋ねた。
「そんな事して、宜しいのですか?」
「よくない。よくないから、教会との仲が悪くなり、リオンヌとの仲も許してもらえなかった」
「ですので、エリンシア様の婚約の話が出て、私とエリンシア……シアは駆け落ちしました」
「「ええーっ!!」」
一同が驚く中リオンヌは懐かしそうに語っていく。
「シアと過ごしたのは10日余りでした。今からすれば、ままごとみたいな生活でしたが幸せでした。7日目にある事件が起こりました。馬車に平民の子供が当て逃げされ重症でした、私には治癒能力があるのですが……」
治せない程に重症だったのかと言う問に。違うと言いながら語る。まず平民に治癒を持つものは珍しく、地方にはほとんどいない。そんな中で、力を使えば追ってに気づかれるのではないかと躊躇したと。
「シアが言ったんです。ここで見捨ててしまえば、後悔すると。胸を張って生きていけるのかと」
それにとリオンヌは付け足す。
「シアの予言があるから大丈夫だと、そう思ってました。実際には王宮に帰るとこまで、自分の死でさえも予見していたのでしょう」
シアはその未来を選んだのだとリオンヌは沈んだ声で呟いた。
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