第12話 宝石眼の妖精
静寂に包まれた会議室で沈黙を破ったのはシリルだった。
「えっと、エリンシア様は病死だとされていますが?」
「――実は暗殺されている」
一言で空気が凍りつく。いつも陽気なシリルでさえ、空気をよんでいる。王は眉間にしわを寄せ、声をおとした。
「他言無用だぞ、混乱を招くため病死としておる。出産の事実も公表していない。高位貴族は一部知ってるものもいるが……」
王から告げられたのは王女と前国王が一緒に暗殺されたと言う衝撃の事実だった。
「父はすでに病魔に侵されていた。だからこそ命がある間にエリンシアの婚約者を決めたかったんだろう。王宮に連れ戻されたエリンシアは父と距離を置いていたが、父は見守っていた」
遠い目をしながら王は言う。前王はすでに一人では身体を起こすことも難しい状態であった。虫の知らせかその日に限り、急に走り出しエリンシアの元に駆けつけ暗殺されたと。
「暗殺される心当たりは?」
「おそらくはエリンシアの能力をよく思わない者。もしくはテへカーリ帝国」
「テへカーリ?ハイデンブルグのあった場所から西側にある国ですよね?」
「あの国は闇の妖精を使い、闇魔法の研究をしてると言われる」
そうだなと王はリオンヌに向けて尋ねると「はい」と答えた。それからとつけ加える。
「ハイデンブルグの滅亡にテヘカーリが関わっているのではとも言われています」
「そんな!」
それまで傍観していたイザークが大きな声をあげた。青ざめ手を振戦させながら発する。
「ハイデンブルグは妖精の愛し子を処刑したため、妖精王の怒りをかったはずです!」
言いきるイザークにリオンヌはその通りだとばかりに頷く。
「それまでの過程で闇魔法が使われたかも知れないということです。私は今、闇魔法の研究をしています。ハイデンブルグを含めて」
「そんな……人の手が加わっていたと?」
すっかり心あらずなイザークにユリウスは声をかけた。
「大丈夫か?イザーク」
イザークはユリウスを見つめた。ユリウスの髪と目の色に懐かしい人を思い出し、荒れた心を落ち着かせていく。
「大丈夫です」
落ち着いたイザークを確認したシリルは今回のアイリーネにも似ている部分があると皆に伝えた。マリアのペンダントには闇魔法の痕跡があったと。
「まずは愛し子ですが、ハイデンブルグの後よりイルバンディ様は神託として愛し子が誕生すると神官に伝えるようになりました。それと愛し子の側には宝石眼の妖精を置くようにしています」
「アイリーネには神託はなかったが?」
王が不思議そうな声色でアベルに確認をとった。アベルは頷き同意する。
「真相はイルバンディ様しかわかりませんが……あえて神託を出さなかったのではないかと?宝石眼の妖精がついていたので、愛し子には間違いないと思います」
「妖精は見えないだろ?」
「僕は神聖力が強く妖精の姿を確認してます。それに……」
ポケットから白いドロップ型の宝石を取り出した。机の上に置かれた宝石を一斉に見つめると、王が尋ねる。
「それは?」
「宝石眼の妖精は愛し子が亡くなると役目を終え土に還ります。その時に愛し子の為に記録した妖精の瞳と呼ばれる宝石を残します。これは妖精の瞳です」
真白な宝石を見つめユリウスが尋ねる。
「これにリーネの記録が?」
「産まれてからの記録があります。宝石眼の妖精はあるじに色をよせますが、残された時に妖精の瞳は色が変わります意味があるんです。これは形がドロップでおそらく涙。色は白で神聖や純真かな?恨みがあれば黒に染まったりしますしねー」
皆がシリルの説明を真剣な面持ちで聞くのでシリルは得意気に知識を披露する。イザークはシリルの説明を聞き何故だと、あんな最期を迎えたのにと憤った。
「アイリーネ様は誰も恨んでないと?」
イザークから見てもアイリーネは酷い目にあっていた。泣いているのも沢山目撃した。慰める度にあの人を思い出しながら……
「……妖精の愛し子には無垢な人が多い。だから、ハイデンブルグの悲劇が起きた。イルバンディ様は悲劇が起きないように改善したんだ!」
シリルはハイデンブルグの後のイルバンディを思い出す。皆にみせていないだけでイルバンディも悲しんでいたんだと。
「では、今回神託がなかったのはどう見る?」
「アイリーネが最後に見せた白い光、あれは浄化です。それも、強力なもの。愛し子は珍しい能力である程、現れるのが遅くなる。無理に能力を使うと代償が必要で今回はアイリーネの命を代償したのではないかと……王家の秘宝を使うと前提であえて神託はださなかったのだと思います」
シリルの言葉にユリウスは怒りを覚えた。
「何故、アイリーネなんだ?アイリーネじゃないと駄目だったのか?代わりに俺でも!俺の命を代償にすれば!」
駄目なんだとシリルに諭され、ユリウスは納得できない。再び甦るなら誰でもよかったのではないかと思えてならない。
「ユリウスじゃ王家の秘宝は使えない、ですよね?陛下」
「……そうだ」
「それに聞いてた?使用する者に代償がいくんだよ?王家の秘宝はこの国の危機のみに使える、時を戻す強い力だ。だからユリウスには使えないんだよ。ユリウスが死んでも妖精王は怒らないから」
「……最後の言い方はムカつくが、言いたい内容はわかった。――ただ、イルバンディ様はなんで見てるだけなんだ?リーネに神託をださずに力だけ使わせて酷い目にあっても、王家の秘宝使うからいいだろう?ふざけるなよ!」
シリルはムッとしながら言い返す。
「妖精王は人間の争いに関与できない、理りが崩れるから!そう決まってるんだ!」
「決まり?誰が決めた?愛し子だと勝手に力を与えて、いざとなっては助けてくれない!愛し子じゃなくて呪いじゃないか!」
ユリウスの解き放った言葉にシリルとイザークは目を見開き固まった。
「なんだよ?不敬とか言いたいのか?」
「ううん、人の本質はかわらないなーって」と言ったシリルは破顔した。イザークからも暖かな視線をもらいユリウスは戸惑ってしまった。
その場の会話より外れ黙り込み考えていた、クリストファーが手を挙げる。
「そ、そのアイリーネの記録どうやったら見れるの?覚えてないけど、関係あるから気になる……」
「ああ、眠っている間に夢を見てる感じになると思いますよ?宝石自体に神聖力を流せば見れると思います」
「早く見たい。リーネと離れてた時期が長いから」
ユリウスの意見に皆が頷きシリルを見る。時間的にも夜も遅くなり最適だろうとシリルは思う。
「では、1時間後に神聖力を使います。それまでにベッドに入り休んで下さい」
「わかった」
「わかりました」
「頼んだぞ」
シリルとイザーク以外は会議室を後にし、それぞれ与えられた部屋へと帰いく。
「ねぇ、イザーク。ちょっと付きあってくれない?」
「どこかに、行くんですか?」
「うん、アイリーネの顔を見たくなって」
「わかりました」
シリルはイザークを伴って会議室をあとにする。シリルは胸が痛かった。ユリウスが言った――愛し子じゃなく呪い――昔に聞いた時より胸がざわつき、複雑な思いが絡みあっていく。人は厄介なんだな?とシリルは足早に歩んでいった。
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