6話:エレメンタルオブファンタジー⑥
国王様にそう促されるとオブシディアンは、何事もない様に話しながら部屋に入ってきた。
俺の横を通り過ぎ、国王様の座る玉座の横に立った。
「貴族街の魔物の被害はほぼなかった。ブラックウルフが数頭出たようだが……やはり被害は城下街が酷いようだな」
「どうもその様だね。私も今しがた城下の様子をエメラルドから聞いたばかりだよ」
「ん? なんだ戻っていたのか。あまりに小さくて気がつかなかった」
「フフフ……こんなにも近くにいるのに気がつかないなんて、オブシディアン様もそろそろ"老眼鏡"をかけた方が宜しいんではないでしょうか? もういいお歳ですし」
バチバチと二人の間で激しく火花が散っている様に錯覚した。
──この二人ってもしかして、スゴく仲が悪い……のか?
そんな話は聞いたことがなかったが、逆に二人が一緒にいる所も新聞なんかで見たことがない事に気づいてしまった。
「ところで姫様の後ろにいるお前らは誰だ?」
「お、俺……いえ、ワタシはカルセドニー隊所属、ヒスイ・アズベルトと言います」
「同じくカルセドニー隊所属、ネフライト・ロンドリアと申します」
「隊長の命により、エメラルド様護衛の任についております」
「護衛なら俺がいるので必要ない。これからこの国にとって重要な話がある。邪魔だ、下がれ!」
かの英雄にそう言われてしまえば、俺たちに選択肢などない。言われる通りに部屋を出ようとすると「お待ちください」とエメラルドの制止が入り、その場で止まった。
「後からいらして、人の護衛を勝手に帰さないでいただけますか? それに重要な話とは、大精霊の巡礼の事ですよね。でしたら、この方達は無関係ではありませんわ」
「エメラルドは、巡礼の旅の護衛として彼らと旅に出るそうだよ」
オブシディアンが疑問を投げ掛ける前に、国王様が代わりに答えた。
既に国王様の中では、"俺たち"が行く事になっているようだった。
──ってか俺は、一言も行くなんて言ってないけどな!! これが、連帯責任ってやつかよ……。
「旅の護衛には昔、俺の部下だったカルセドニー本人を推薦したハズだが……部下だなんて」
「彼は、先程の騒ぎで亡くなったそうだよ。エメラルドを助けようとして……ね」
その言葉を聞くと一瞬驚いた表情をしたが、「そうか……」とたった一言、小さく呟いた。
「その亡くなった彼の代わりに、彼らが護衛を引き受けてくれるらしいんだが少し不安でね」
「不安? ああ……わかった」
そう答えるとオブシディアンは腰の剣に手をかける。
「お前たちに王族の護衛が務まるか……。その力量を俺が測ってやる」
「オブシディアン様が? それはあまりに……」
エメラルドが言い淀む。
「力量を測るだけだ。それに二人いっぺんで構わない。それとも、尻尾を巻いてノコノコ逃げるか? それでも構わない、その場合は護衛はこちらで新しく用意するだけだ」
エメラルドは少し考えているようだが、これはチャンスではないかと俺は思った。
これはつまり、憧れの英雄と手合わせできるまたとないチャンスだ。
「問題ございません。やります! ぜひお手合わせ願います!」
エメラルドが返事を返すより先に返事を返した。
「(おいっ!! 大バカ者、何勝手に話しかけて)」
隣でネフライトが小声で怒っていた。
俺だって、いかに自分が失礼な事をしているかわかっている。でもここでこんなチャンスを逃したら俺みたいな凡人騎士にこんな機会は二度訪れないだろうと確信していた。
──それに護衛として不適格と言われても、俺には痛くも痒くもないしな。
「そちらはどうする?」
「……ぜひ、お手合わせ願います」
ネフライトは深々と頭を下げて、剣を構えた。
「別々に相手にするのは面倒だ。二人まとめてかかってこい!」
半円を描く様に剣が抜かれ、次の瞬間に一気に間合いをつめられる。
「よしッ! やってやる!!」
剣を抜くとオブシディアンの剣と激しくぶつかった。
「くぅー重てぇッ!」
距離を取る為に後ろへと大きく飛んだ。
「疾風神剣!」尽かさずネフライトが衝撃波を放った。
「屠龍咆哮撃」
たった一振り。そのたった一振りオブシディアンが剣を振ると、剣から繰り出された衝撃波がうねりとなり、ネフライトの衝撃波を巻き込みながら返って来た。
「うわぁああああッ!」
そのままネフライトは壁に叩きつけられた。
「だったらこれならどうだ! “流星”!!」
素早い突きの連続攻撃を繰り出すも、信じられない事に全て弾かれた。
「嘘だろ!? こんなの人間技じゃねーよ!」
「甘いな」
振られた剣を受け止めるも、その勢いで弾き飛ばされた。
「くっ!」
「あの……大丈夫?」
すぐ横でエメラルドが心配そうに見ていた。
「大丈夫ですよ。ただの手合わせですから、流石に死んだりはしないですよ」
「でも、あの方意外に大人気ないから……」
「本物の技というものを見せてやろう……疾風神剣」
オブシディアンが放った衝撃波は、俺やネフライトが放ったものより速さもデカさも全く違っていた。
「危ねぇッ!!」
エメラルドを抱きかかえ思い切り横に飛んだ。
「……ほら、大人気ない……」
「ああ、そうですねっ!! ってかケガはないかよ……いやっ、ないですか? ない、でしょうか?」
頭に血が上っててうまい言葉遣いが出てこない。
「大丈夫です。守ってくれてありがとうございます」
「そりゃよかった……いや、良かったです? とっ、とりあえず国王陛下のところまで下がって下さい。アンタを傷つけたら意味ねーんですから」
もう自分でも何を言っているかわからなくなっている。多分言葉使いはかなりヤバい事になってると思うが大目に見て欲しい。
エメラルドが移動したのを確認すると、再び剣を構え直すとオブシディアンに向かって突進した。
◇◆◇◆◇◆
結果として、…………惨敗である。
早々に壁にぶつかって気を失ったネフライトは問題外だとしても、俺も全くと言っていいほど相手にならなかった。
オブシディアンの顔を見ると、あからさまにがっかりしていた。
「話にならない。剣技ばかり磨いて状況にあった戦術をまるで取れていない。眼鏡に関しては、そんな腕で相手に対して傷つかないように加減をするなんて百年早い」
ぐぅの音も出ずただ英雄の評価を真摯に受け止めていた。
──でも、中々にいい経験ができたと思う。この経験を胸に騎士団に帰ってからも頑張ろう!
なんて、思っていた時だった。
「では君は、彼らに点数をつけるとしたら何点だと思う?」
国王様の口から出た言葉にオブシディアンは、少し悩むと「50点」とつけた。
「では、私からも50点を彼らに与えよう。これで、合わせたら100点。合格点じゃないかい?」
「何を言っているんだ。こんな奴らに、貴方の大事な娘を託していいのか?」
「それを言ったら、君はその大事な娘に技を繰り出した事になるけどね」
「それは……」
「それに、私が不安だったのは彼らの強さではないよ。しっかりエメラルドを守ってくれるか……それだけだよ」
「そうなのか。だったら、先に言ってほしかったが、ならこの二人に任せていいんだな」
「本当ですか、お父様!!」
「ああ、もちろんさ」
……俺は一言もその旅について行くなんて言ってないがな。
しかし、騎士は騎士になる時に国に忠誠を誓わされる。つまり……。
「では改めて、ヒスイ・アズベルト、ネフライト・ロンドリア。そなた達二名に神子の護衛を言い渡す。巡礼に同行し、この精霊暴走を鎮めよ!」
「「はい!」」
俺もネフライトも揃って返事をした。
つまり、拒否権は、ないのだ……。
これが世界を巡る事になる、俺の……いや、俺たちの冒険の始まりである。
いつも読んでいただきありがとうございます!
今回の話で一旦、ヒスイの話は終わりです。次回から姫琉が帰ってきます。
このエレメンタルオブファンタジーの部分は、ゲームの旅立ちまでをイメージして書いています。
RPGっぽくどうなったらなるか、悪戦苦闘しながら、楽しく書き上げられました!!
特に技名辺りがお気に入りです。
あとヒスイを含めたキャラみんなが気に入っています!
今後、姫琉たちと絡むのか乞うご期待!
ではこれからもよろしくお願いします!!
25.5.30修正




