8話:姫琉とスモモちゃん
【織物の街 ニャポリ】
この街は、繊維業を生業としている人が多く、ここに来ればあらゆる生地、染め物、衣服が揃うと有名な街。
またこの街特有の“クラウドスパイダー”の糸から作られる服は、雲の様に軽いのに鉄の様な強度があると噂で人気の商品である。
さて、ニャポリの城壁を越えた私達+カルサイト達旅商人。
カルサイトへの「スモモちゃん」発言で双子は涙を流しての大爆笑。
突然の“スモモちゃん”発言を飲み込めてないカルサイト。
そんな彼らなど、気にも止めず私はひとりで思い出せたことに満足していた。
一行は現在、街にある宿を借りている。
もちろん私は一文なしなので、宿代は「お財布を魔物から助ける際に落としてしまったみたいだー」という名目でカルサイト持ちで一部屋借りていただいた。
「ヒメル? ヒメル〜もう出ても大丈夫ぅ?」
「あっごめんね! もう出て来て大丈夫だよ!!」
そう言うと鞄の中からアルカナが出て来た。
流石にそのままアルカナを連れてると目立ってしまう。
城壁を越える前に鞄に身を隠してもらってたのだ。
「いやぁ〜でも、あの男がスモモちゃんだとは思わなかったよ」
ベットに腰をかけながらしみじみと語る。
「知ってる人?」
「そうだね。とは言ってもゲームの中でだけど」
カルサイトと名乗っていたあの男は、エレメンタルオブファンタジーで出てくる商人だ。
ダンジョンやアイテムが手に入らないところにいて、通常の倍の値段でぼったくる……。
いや……何回かはお世話になりましたけどね!
あとは、一定条件を満たせばパーティーにも組めるらしい。
やったことないけどね!!
ただ、ゲームと違う点もある。
まず見た目だ! ゲームでの彼は白髪だった。髪型は大して変わってないが色が全く違う。
次に、彼は一人で行動していた。キンとギンの双子はゲームでは見たことない。
そして最後に名前。
ゲームでの名前は“ペルシクム・アイオライト”と名乗った。
このペルシクムが、どっかの国で“スモモ”って意味らしくファンの間では、『スモモちゃん』と呼ばれていた。
「ん〜……微妙にゲームと違う世界なのかな……?」
ベットにそまま倒れ、天井を見ながら考える。
アルカナも同じ様に真似をする。
スモモちゃんのパーティー加入イベントとかをプレイしてたら色々わかったんだろうけど。
その辺のサブイベは二周目にプレイするつもりだったからな〜……。と言うか色々やってないイベントとかあったんだよな。ミニゲームクリアの称号とか、無くなった村の復興とか、アイテム探しのイベントとか……大体二周目以降じゃないと出来ないイベントだってあったはず! あぁ”ーぐやじぃぃ〜!!
そんなことを考えて悶えていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「あ〜……カルサイトだけど、ちょっといいか?」
ドアを開けるとカルサイトが立っていた。
「あの二人に聞かれたくない話なんだが、中いいか?」
カルサイトの正体がスモモちゃんだとわかったので、大して警戒せず中に通した。
何かあっても、アルカナがいれば返り討ちはたやすそうだし。
部屋の中央に備え付けられたテーブルの椅子に腰掛ける。
そして神妙な顔持ちでカルサイトが聞いてきた。
「アンタ……俺のこと知ってるのか?」
「知ってるとは……何を……?」
「いや……、知らないならいいんだ! さっき俺を見て知ってる風な言い方をしてたんでな、一応確認したかっただけだ」
カルサイトは、『うんそうだよな』とか『焦って損したぜ』とか言いながら安心した顔で頭を掻いてる。
実際、メインキャラではないので詳しくは彼のことを知らない。
知っていることといえばメインストーリーで出てくるありきたりな設定くらいだ。
「そうですね、少ししか知らないですよ」
「……少し……って?」
「アナタの本当の名前が“ペルシクム・アイオライト”。
使う武器は、母方の祖父の形見のリボルバー。
嫌いなものは魚。好きなものは果物全般。
実は、この土の国の第二王妃の子供で第一王子なんだけど、第一王妃との間に子供ができて第一王妃派の人間から殺されそうになり、事故で死んだことにして商人のフリをして生きていること…
…くらいしか知らないです!」
「全部知ってんじゃねぇかっ!!」カルサイト全力のツッコミ!
カルサイトが思わず椅子から立ち上がる。
「いやぁ〜、このくらいは(ファンなら)普通です」
「それが普通だったら困るんだがっ! えっ、何だ……アンタ情報屋か何か?」
動揺が隠し切れてないカルサイト。そして気付く、この話がストーリー後半で明かされる彼の秘密だったことに。
「あ……今のやっぱりなしで!」
「なしになるかっ!!!」
んん〜……困ったな。ゲームでプレイしたから知ってます。って言うわけにはいかないし。わかってもらえそうにないし。
「この話って知られたくない話ですか?」
いっそ開き直ることにした。
「そうだな……今アンタの息の根を止めてでも知られちゃならねぇ情報だな」
腰の銃に手をかける。その空気に気づいたのかアルカナが私の前に出る。
そんな空気を壊す様に私は言った。
「いいですよ! 黙っていてあげます」
余裕の笑みを浮かべながら。
「ただし、私のお願いを聞いてくれたなら」
20.12.10誤字修正